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耐震偽装事件は事の重大さに反比例するかのように、キワモノ的キャラクターの「濃~い」登場人物たちがこれでもか、とばかりに跋扈した事件として多くの日本人の記憶に刻まれたのではないか。その多士済々の人物の中でも端整な風貌で一際異彩を放っていたのが本書の著者、イーホームズ社長・藤田東吾である。特に著者と好対照となる脂っこい系ワンマン社長・ヒューザー小嶋進との衆院参考人招致での競演は、姉歯秀次が鬘をはずして収監される場面と並んで、この物語のクライマックスといえる名場面であった、のだが。
しかし、本書を一読した今、そんな見方は権力とマスメディアが共謀して世論をミスリードすべく巧妙に作り上げたストーリーを表層的になぞっただけのものだったと感じる。メディア受けするキャラクターたちの泥仕合とは全く異なる次元で、本書ではこの事件の本質を執拗に抉っている。その本質とは、耐震偽装という事象の果てしない広がりと、偽装を生んだ原因が他ならぬ国にあったという事実、そして、最も重要なのは、真実を隠蔽するという国家意思の前には中小の企業や個人等の存在は羽毛よりも軽いという現実である。藤田はその現実に対し自分の全存在を賭けて闘い、そして現在も闘っている。逃げようと思えば逃げられたし、現にこの事件に関わった多くの人は如才なく振舞うことで、自らの保身を図ることに成功した。経営者としてだけでなく、一人の人間として彼のように闘うことは本当に難しいことだと思う。心から敬服し、エールを送りたい。