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紙の本
今さら/今なお、恋愛小説
2008/04/29 18:15
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:けんいち - この投稿者のレビュー一覧を見る
小林恭二のデビューは、1984年だから、すでに作家として20年以上のキャリアを経てきたことになる。もちろん、その間、その名を広く知らしめることになる俳句や歌舞伎に関する著作も多いのだが、小説においても『カブキの日』をはじめ、現役作家としての第一線での活躍を続けているといってよい。ただ、ページの下半分がほとんど真っ白という、改行に改行を重ねたデビュー作『電話男』以来の、わかりやすい先鋭性は、ずいぶんと影を潜めたようにも思われる。そして、本作『宇田川心中』もまた、空間を軸に3つの時間=世界を重層化させてはいるものの、その表記はいわゆるふつうの小説に戻り、モチーフとされたのも、あの凡庸な「恋愛」に他ならない。かつて『ゼウスガーデン衰亡史』のような意欲的なモチーフを、見事小説に仕立て上げていたことを思えば、残念な気がしなくもない。
しかし。
それなのに。
『宇田川心中』を読み終えてみたら。
そんなことではなかったのだ。
改行があるとかないとか。
モチーフが変わってるとか凡庸だとか。
そんなことではなくって、
もっと核心的なところで、
小林恭二という作家は、
老獪な勝負をしていたのだ。
それは実に、20年のキャリアにふさわしい、
作家的な成長、もとい成熟ともいえる仕方で。
文庫で500ページに及ぼうかというこの小説のあらすじを説明することはしない。ただ、その分量を読むだけの価値があり、その分量を読み通さなければ、この小説の価値がわからないことだけはたしかである。そこで試みられているのは、端的に、小説の、現代小説の冒険といってよい。もうすこしいえば、「恋愛」という、近代小説の黎明期から取り上げられてきたモチーフを、いかにして現代に成立させるか、そうした試みと呼べるだろう。だから、そこに動員された仕掛けは、「恋愛」のためというより、いかに「恋愛」を現代読者に意義あるものとして伝達するか、そうした方法論に奉仕していく。その成否は読者それぞれが決めればいいのだが、評者の判断は「成」である。
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