紙の本
感動、っていうことからは★五つっていうのには合わないと思います。心地よい話でもありません。リアルか、っていうとそれとも違う。でも、読んでしまう。吉田修一『悪人』とどこか似たような読後感
2007/07/11 20:23
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ボリュームも含めて桐野らしからぬ本ではないでしょうか。特にブックデザイン、この大胆さは、どちらかと言うと坂東真砂子風です。ま、それが何だ?って聞かれても、答えようはないんですが、そんな装幀は大久保伸子、カバー写真は、TAKAHIRO MIYAMOTO/SEBUN PHOTO/amanaimages 、初出「朝日新聞」2005.11.28~2006.12.21です。
帯の言葉は
「破壊されつくした
僕たちは、〈自分殺し〉
の旅に出る。
なぜ「僕」の記憶は失われたのか?
世界から搾取され、漂流するしかない
若者は、日々の記憶を塗りかえる。
孤独な魂の冒険を描く、
まったく新しいロードフィクション!」
で、目次を書けば
第一章 他人の夢の中で
第二章 ピサラ
第三章 剥がれ落ちる僕の細胞
第四章 安楽ハウス
第五章 ヨルサクハナ
第六章 ガープ川
第七章 スイートホームミヤコ
第八章 デストロイ
第九章 イエローランプ
第十章 ズミズミ、上等
となっています。主人公は、〈僕〉こと磯村ギンジ、25歳ということにしています。姉は磯村ミカですが、本当の姉弟ではありません。そう、主人公は記憶を失っています。言葉はわかりますが、自分が誰であるかは分らない。名前も年齢も。少なくとも格好いい男ではないことだけは確からしい。
で、沖縄の森の中を彷徨っている〈僕〉を見つけたのが、教育施設から逃げ出してきた宮古島出身の青年・伊良部昭光で、彼は自分をジェイクと呼ぶように〈僕〉に言います。ジェイクは、その名のイメージの通りイケメンで、女に持てそうな要素をもった高校中退の若者です。その、ジェイクが〈僕〉につけた名前がギンジ。飼い犬の名前からとった、といいますが・・・
そう、お分かりのようにこの時点では〈僕〉は、ただの〈ギンジ〉でしかありません。磯村、という姓はこのあと、ジェイクの美貌に目をつけたコンビニのパート店員・磯村ミカの部屋にジェイクと〈ギンジ〉が転がり込む方便だったのです。磯村ギンジは、あくまで仮のものですが、ジェイクのほうはどうか、といえばこれまた嘘だらけ。
名前と出身、17歳というところまでは本当ですが、家庭はかなりしっかりしています。父親は、宮古の市会議員で、指折りの資産家です。〈ギンジ〉は犬の名前ではなくて、下地銀次という、昭光の幼なじみに由来します。この銀次というのが、ある意味、ジゴロというか伊良部家にとって疫病神で、昭光の憧れの彼女・愛も、最後には昭光の姉をもたらし込んで、逃げてしまう。
そう、〈僕〉が表の主人公ならば、昭光は裏の主人公です。〈僕〉は自分が誰であるかを求め、昭光は家族から離れ一人で生きていくことを選びますが、過去は彼らの前に立ちふさがり、真っ直ぐに生きていくことを許しません。二人が選ぶ生き方は、あまりにも愚かしい、それでいて、選択の余地のないものとして描かれていきます。小説における「リアル」の意味を見せつける作品で、ある意味『OUT』を彷彿させます。
投稿元:
レビューを見る
痛々しい。「自意識」という怪物のなれの果てを見る思いがする。
中国やインドの経済成長が叫ばれる中、日本が提示できる「哲学」は、経済成長を終えた日本における、人生をめぐる自意識の物語である。
投稿元:
レビューを見る
新聞小説のせいか、淡々とした印象。ディテールの書き込みがリアルなのがさすが桐野。それがストーリーに向かって有機的に機能しているとは言いがたいところが惜しい。この人はオンナを描いて一番力が発揮される人だと思うんだけどなー…。
投稿元:
レビューを見る
6/23 ズミズミ,上等.
愛情は変質する.家族は消滅する.人は死んでいく.空も海も毎日違い,この世に絶対変わらないものなんてない.
投稿元:
レビューを見る
「すんきゃーびびったさ、まっじ、はごかったー」「ズミズミ、上等」
沖縄を舞台に記憶喪失のギンジ、宮古島出身のジェイクという二人の若者が出会い、それぞれ生きる道を探って彷徨っていく。二人のサバイバル、ギンジの過去、沖縄の社会の現状など、隙のない圧倒的な展開力と人物造型で、一気読みするしかない。う〜〜む、もうさすが桐野夏生、である。あばっ、〜べき?、オゴエっ、あっがいー、うわり、だいず、〜さいが、なんとなんと、なーんとなしに……正確なニュアンスは分からないが、宮古島の方言がチャーミングでそれだけでも読んでいてうわり楽しい。しかしながら、いかにもロードノベルというか、やっぱり桐野作品だからというか、あのラストしかなかったのか……主人公二人が桐野作品の主人公にしては健気なだけに救いがなくて、2、3日後味の悪さを引きずった。
投稿元:
レビューを見る
天才・桐野夏生の新たな一面を見た感じ。
今までは女性が主人公となる話が多かった。
途中まではすんぎゃーおもしろかったよ。
だいずーおもしろかった。
最後の方、ちょっと失速・・・
それでも、この人の文章には惹かれるわ。
投稿元:
レビューを見る
桐野夏生の描く主人公やそれを取り巻く環境は、その時々に点在する日本の見過ごしてはならないが、そっと目の外に置かれているようなことが多い。それゆえに説得力があり、読んでいて辛く思えるところがある。DV、離散、崩壊、ニート、底辺。ただ今回の作品は、宮古島の方言を多用し、そこになんとなしに救いがあるような。終わり方も、ちょっと意外というか、桐野作品にしては失速気味というか。しかし、面白い。一気に読んだ。
投稿元:
レビューを見る
すっごく面白く、どんどん読めて
続きが気になる、おもしろ本。
新聞連載の小説ってことで、ややいろんなことを詰め込みすぎのきらいがあり、
終わり方も唐突で、えっ?これで終わっっちゃうん?感がかなりあり、ちょっと苦しげ。
ギンジの性格にバラつきがあり、育った境遇に同情はすれど、姑息で嫌な性格モードの時は、読んでてかなり鬱々する。
時事ねたも多いけど、すっごく面白い本であるってのは、間違いないです。
「細胞は生まれ変わる。夕方の僕は、朝の僕ではない。」
「あたしたちって、ヨルサクハナだなって。もうこの入り口入ると出られないって」
「だから、ここで死ぬまでヨルサクハナなのかな、と思うと悲しくなる時があるさーよ。」
「言葉を尽くして語ったとしても、どうしてそんなことで、と言われるかもしれない。人が死を選ぶ理由は様々で、レベルでも軽重でもない。あるのは、まさに個人的としか言いようのない理由なのだから、それを他人にわかって貰おうと思うこと、そして他人がわかろうとすること、双方共、錯覚に過ぎないのだ。僕の逡巡はそこにある。」
投稿元:
レビューを見る
07年8月。
沖縄で記憶を失った青年と、森の中で彼に最初に会った昭光が主人公。
家庭崩壊、就職難、ニート、ホストクラブ、政治などの話題を絡ませ、一気に読ませる。
青年は記憶を取り戻せるのか?苦労知らずの昭光はどうなっていくのか?
夢のある者と未来に光を見出せない者たちが次々に登場し、自分勝手に行動していく様が、現代日本の暗部を示していて怖かった。
投稿元:
レビューを見る
記憶喪失になった主人公。
ジャングルを必死で逃げ惑う内にであった青年は名前も忘れた自分を「ギンジ」と名づける。
沖縄モノはどうもスキです。でも、尻切れ感が否めません。
なんとなんと。
投稿元:
レビューを見る
破壊されつくした僕たちは、\"自分殺し\"の旅に出る。なぜ\"僕\"の記憶は失われたのか?世界から搾取され、漂流するしかない若者は、日々の記憶を塗りかえる。孤独な魂の冒険を描く、まったく新しいロードフィクション。
投稿元:
レビューを見る
集団ネット自殺、環境問題、ワーキングプアなど現在問題になっているものをたくさん集めて小説にし、それを一気に読ませる力はさすがです。
心が痛くなりました。
投稿元:
レビューを見る
あまりの分厚さに借りるのを躊躇したけど、帯の羅列したキーワードで借りた。
持ち歩くにはズッシリなので、自宅で一気読み。
厚さや救いのない内容の割には、飽きることも疲れることもなく一気に読めた。
ラストはなんらかの決着は見たかったが、それ以外は満足な1冊。 〔図書館・初読・12/2読了〕
投稿元:
レビューを見る
去年あたりに新聞連載でちょこちょこ見てたのだけど
抜けた部分を補完の意味を込めて購入。
名前も生きていた場所も空白状態の主人公。
まっさらのの主人公に重ねられる記憶。
その主人公の実の自分探しな旅でもあるのだが、
彼に絡む脇役達もさまよいながら自分探しを続ける。
見つかるかどうかはさておき、ラストは苦しいの
一言につきるのかもしれない。
人生はたのくるしい。
でも、絶望の中にも何かはある。
投稿元:
レビューを見る
昭光、磯村ギンジこと香月雄太、そしてその家族、銀治と愛、過酷な労働に耐えながらも明るい中国人。息つく暇もないほど、この本に引き込まれてゆく。終わる事のない心の葛藤を抱えながら、自分の道を切り開き、強く生きてゆく者、最後、死を選ぶ者、決断のタイミングがもう少しずれていれば、また、違ったかもしれない。家族崩壊、ネット自殺、DV(ドメスティックバイオレンス)、同性愛、ホストなど飽きる事ない題材を散りばめられた、まさに、現代を象徴するかのような作品であった。これほど、勢いよく読み進めたのは実に久しぶりである。