紙の本
気色の悪いものもあるが、ほとんどが短編として素晴らしい出来栄え
2007/09/23 22:33
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
あるまとまったテーマについて、作家が競うジャンルがアンソロジーというのだそうだ。本書でのまとまったテーマというのは、本書のタイトル『孤独な交響曲』であるからといって、クラシック音楽というわけではない。「ひとでなし」と「ひとでないでない」の2つである。何とも人を喰ったテーマである。このテーマ自体は解説に書かれていた。タイトルやサブタイトルには出てこない。
それにしても本書の短編は面白さの粋を結集したような傑作ぞろいであった。交響曲というタイトルに魅かれた訳ではないのだが、解説を読むまではそのテーマがよく見えないアンソロジーでもあった。
本書には10のストーリーが掲載されている。そのうちの幾つかを振り返ってみたい。横山秀夫の作品は、『第四の殺意』である。F県警刑事部強行犯捜査係の物語である。このF県警の強行犯係は、『第三の時効』でも登場している。基本的には3つの班の競い合いである。それぞれの班長に個性があるのだが、さらに一班が加わるというのだ。この班はプロファイリング専門の班だという。警部補で署の刑事課係長だった主人公がなぜ選ばれたのか、プロファイリングなど本気で導入する気なのか。主人公の不安定な心情を描く。それにしても、このF県警の強行犯係は面白い材料である。
田中啓文の『時うどん』は私が最も引き込まれたものである。材料は上方の芸人たちの物語だ。漫才、落語、色物、これらの芸人たちの意外な素顔が描かれている。折りしも芸人ブームで次々と若手お笑い芸人が世に出てくる。下積みの世界はけっして表には出てこないのだが、ここでは落語家の弟子を通して芸人たちのエピソードを物語っている。この『時うどん』は田中啓文が描いたシリーズものの一作だが、私はその原作本まで買ってしまった。それほど興味をひかれ、他の作品も読んでみたくなったのだ。
小川勝己の『胡鬼板心中』の胡鬼板とは所謂羽子板である。画家である兄とその影響を受けて羽子板絵の作家となった主人公の物語である。主人公が羽子板絵の作家になったのは、兄の天才的な絵を見たからで、それほど兄の作品は天才肌の出来であった。しかし、その結末は破滅的でもあり、幻想的でもある。
折原一『偶然』は、最近の社会的な犯罪である「おれおれ詐欺」を題材にしている。偶然を理由にされると先ず疑ってかかりたくなるのが人情である。そういう偶然だけでは面白くない。折原は工夫を凝らして読者の意表を突くのである。
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逢坂剛、横山秀夫、伊坂幸太郎、折原一などなど豪華作家陣のミステリ短編集。
伊坂さんの「死神の精度」が読みたくて借りました。
アンソロジーは、新たな作家さんとの出会いがあっていいなぁ。
全10編の中でも、田中啓文さんの「時うどん」が特にお気に入り。田中さんのほかの作品も読んでみたいです。
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アンソロジー。
*「欠けた古茶碗」逢坂剛
*「第四の殺意」横山秀夫
*「ヒーラー」篠田節子
*「死神の精度」伊坂幸太郎
*「思いだした」畠中恵
*「偶然」折原一
*「転居先不明」歌野晶午
*「時うどん」田中啓文
*「胡鬼板心中」小川勝己
*「とむらい鉄道」小貫風樹
どれもエッジのきいた、良作なんですよ。良作なんですが、このタイトルはないだろう。
タイトルで、音楽ミステリーのアンソロジーだと思ってたので、相当がっくりしましたよ。
うん、「孤独な」っていうところに偽りはないけど、「交響曲(シンフォニー)」は違うって。
「ヒーラー」と「思いだした」がすごい。
そーいえば、篠田節子の「絹の変容」もすごかったなぁと、思いだした。なんとういうか、人間の他の生物に対するエゴの、その醜さがじわじわと伝わってくるのが怖かった。
「思いだした」は、主人公の淡々さがこわい。
なので、あらすじだけだと可愛そうなのは主人公なのに、なんか少しも彼女がかわいそうに思えないんだよね。もっとも、彼女が可愛そうと思われることを拒否してるっていう部分があるからっても言えると思う。
ともあれ、中身が面白かっただけに、ホントタイトルがおしいです。
はい。
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ミステリー短編集。
知った話があったので、有名どころを集めてるっぽい。
変化に富んでいて、そこそこ面白かった。
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推理小説年鑑2004-1(http://blogs.dion.ne.jp/kentuku902/archives/5236223.html)
(収録作品)欠けた古茶碗(逢坂剛)/第四の殺意(横山秀夫)/ヒーラー(篠田節子)/死神の精度(伊坂幸太郎)(日本推理作家協会賞(2004/57回))/思い出した(畠中恵)/偶然(折原一)/転居先不明(歌野晶午)/時うどん(田中啓文)/胡鬼板心中(小川勝己)/とむらい鉄道(小貫風樹)
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まだ途中ですが、映画館の前を通ったとき反応してしまった「死神の精度」が秀逸。 死ぬ運命をほぼ決められた人間を最後に判定しに来る死神たち。その一人が地味で悲観的なOLに惰性的に死のGOサインを出そうとしたところ、彼女につきまとう怪しい男が現れる。その男の正体は?目的は?死神はどうするのか?ってなミステリー。 つかみどころのない若者の性格をした死神の心境の変化に、読後さわやかさが漂う一篇です。 デスノートみたいじゃなくてよかった。
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「欠けた古茶碗」 by 逢坂剛 ★★
登場人物にはそこそこ好感が持てたけど、短編推理としての面白みは今いち。
「第四の殺意」 by 横山秀夫 ★★
著者への期待が空回りした思いが、点を辛くしてしまう(--;
「ヒーラー」 by 篠山節子 ★
男性を癒す深海の謎の生物が、社会の活気を失わせていく。。こういうSFちっくなのは苦手。
「死神の精度」 by 伊坂幸太郎 ★★★
同名で同じような内容のを読んだ覚えがあるのだけど。こういうの好き。
「思いだした……」 by 畠中めぐみ ★★★
財産目当ての夫とその愛人に殺害された妻の目線で描写されるその後の顛末。この著者のは時代物しか読んだことなかったけど、なかなか面白かった。
「偶然」 by 折原一 ★★★
短編の醍醐味を見せ付けるような最後のどんでん返しが良かった。
「転居先不明」 by 歌野晶午 ★★
これまた最後のどんでん返しに技が光る^^…けど、ちょっとだらだらと長過ぎたな。
「時うどん」 by 田中啓文 ★★
古き良き芸人達の気質自体がイマドキの人には理解し難いだろうな。
「胡鬼板心中」 by 小川勝己 ★★
名前を度忘れしたけど、手首を切って天井に血飛沫をつける、みたいなストーリーを書いてたなんとかいう作家を思い出した。これもわたしの苦手な雰囲気。。
「とむらい鉄道」 by 小貫風樹 ★
推理に無理がありすぎて、面白くなかった。
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日本推理作家協会によるミステリーアンソロジー
文字通りのミステリー傑作選。
安定の刑事物
(逢坂剛「欠けた古茶碗」・横山秀夫「第四の殺意」。どちらもシリーズもの一端だが、特に後者。お目当ての横山氏のF県警シリーズの一つ。これが読みたかった。アクの強い警視庁捜査一課強行班一係に新設された四班の班長を任された若い刑事の最初の事件。驚きの真相とその糸口。面白い。人の心の内の全てを見透かすような彼らの目からは逃れられないようだ。彼らの活躍をもっと読みたい!)
少しファンタジックな物語
(篠田節子「ヒーラー」や、伊坂幸太郎「死神の精度」・畠中恵「思い出した」)
綺麗なミステリ
(折原一「偶然」・歌野晶午「転居先不明」)
人情・心情にスポットをあてた作品
(田中啓文「時うどん」・小川勝己「胡鬼板心中」)
などなど多種多様な作品が飾られている中でオチを任されたのが、小貫風樹「とむらい鉄道」。
この作品が一番印象的だったかもしれない。そんな幕引きって。。。探偵役として登場しているキャラクターが魅力的で、そのままシリーズ化出来そうな雰囲気なのにこの作者さんは作家活動はしてない様子。残念。。。まぁそれはそれでしょうがない。この方の残り2作品が掲載されている本も買おうかな。
目当ての作品以外も面白く、いざ読み終えてみれば意外にも満足度は高かった。
良い掘り出し物だったのかも。