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Wed, 07 Oct 2009
人間の組織を改革しようとして,論理的に事を運ぼうとすると,うまくいかなかった事はないだろうか?
世の中の問題に対して,持論をもっていて,人に話すと,全然視点が違って,歯がゆい思いをしたことはないだろうか?
世の中の事を科学的に実証的に捉えようとする営みが,非効率に思ったことはないだろうか?
このあたりのギャップがチェックランドが「ソフトシステム」に向った理由だろう.
人間を含んだ系を改善しようとするとき,人間が「意味の生き物」であるという事実が我々の前に立ちはだかる.
人間社会において「正しい」とは.,自然科学において「正しい」という事とは意味が違うのだ.
つまり,実証主義的なハードシステムとして世界を捉えて,
「それが正しいから,それに従って動け」
では,人の世界は動かないのだ.
これは,まさに,人間が物によって動くのではなく,意味によって動くセミオティックな生き物だと言うことを表わしている.
ソフトシステムズ方法論の中では,系を要素還元不可能なホロンとして捉え,その創発性を重視する.
同じ事象を見ていても人は見る側面も違えば,文脈や歴史によってその解釈が違う.
このばあい,研究者はそれを俯瞰的に見ることで現象理解する・・・というのでは,全く本当の姿を理解出来ない.
ソフトシステムズ方法論では研究者にも鳥の視点ではなく,虫の視点を求めるのだ.
それは行為者として系に関わるということだ.
それがアクションリサーチである.
行為を軸に主体として系に関わる事は,リアリティではなく,主観的な世界認識であるアクチュアリティを重視することになる.
内山氏が本書で狙おうとしたのは,ソフトシステムズ方法論の解説に終始するのではなく,アクチュアリティを軸にしたソフトシステムズ方法論,アクションリサーチの位置づけを,有る程度,哲学的議論の中に定位したかったということだとおもう.
それ故か,実用性を狙い,即物的な視点からよんでいると
前置きが長いという印象を受けてしまうこともあるだろう.
特に木村敏のモノ・コト,アクチュアリティ,リアリティ論に負うところ多く,頻繁に参照する.
ただ,チェックランドの記述を超えて,ソフトシステムズ方法論の基礎をサポートするには,思弁的な議論が増しすぎているようにも思えた.
また,分量も非常に多く,横書きで400頁近くあるので,縦書きにしたら700頁くらいになるのだろうと,書き手の熱意には敬服.
自分に置き換えるとぞっとするなぁ.
ただし,日本文化に馴染みの深い,ソフトシステムズ方法論を日本人の視点から,まとめなおしたのは本書くらいであり,非常に意義深いと思う.
ソフトシステムズ方法論で実践をしたい人は,あまり全部読もうとせず,章を選んで読めばいいと思う.
ソフトシステムズ方法論・アクションリサーチは,なかなかに的を射た議論であると思う.
SSMについては,@ITにも解説があるので,ご覧頂きたい.