紙の本
私論に少々異論
2007/05/22 16:32
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エコロジスト - この投稿者のレビュー一覧を見る
大変深い思索と実践に裏付けられているなと感心いたしました。是非、次の書籍も今後の著者のご発展に有益と思い、まず推薦させていただきます。省エネルギーセンター刊、シュミットブレーク編 エコリュックサック。ここには、オーストリーのクラーゲンフルト市で行った交共調達で、配慮された環境(特に資源の有効利用)指標の紹介と、材料の指標が載っています。著者が、普通使われるアルミサッシを選択しなかった根拠として、アルミが熱が入ったり逃げたりしやすい弱点に加えて、このエコリュックサック評価からも、劣っていると判断したものと推察します。しかし、断熱性能が優れ、さらにメンテのしやすさから欧州でブルー・エンジェル対象品である塩ビサッシを、検討されたのかが分からないのは、温暖化防止の重要性に鑑み、合点が行きかねます。
著者の旧宅の解体の観察、調査が、具体性を持っているのは、これまで余り、紹介されてこなかったので、大いに有意義と思います。建築廃材については、分別の徹底を、行政が指導しています。この成果を、環境配慮上、生かすためには、建材業界や材料業界での再資源化が必須と思います。アルミも再資源化を十分に行えば、塩ビ同等の優位性が出ると、上記のエコリュックサックで記載しています。日本で焼却に伴う、ダイオキシンの心配や、シックハウスへの懸念から、忌避されがちな塩ビ壁紙について、世間の風評に影響されたのだと思いますが、エコハウスにふさわしくないと判断されたのは、短慮に過ぎるのかなと感じました。小職が業務で関係していた数年前から、シックハウス対策は十分取るようになり、さらに、いわゆるケミカルリサイクルにも、手をつけています。著者の再度の検討を望みます。
全体的に、具体性は十二分に伝わってきました。例えば、指標を数個ご提示頂き、(断熱性、資源の有効利用性、メンテのしやすさ、リサイクルできるかリサイクルされたものか、コストなど)、それぞれを、材料、建材、施工法などで点数付けをして、総合的に判断するようになるような、簡易な評価シートを、著者が先導して、お造りいただけると、エコハウスの普及に弾みがつくと確信しています。成果を期待しております。
投稿元:
レビューを見る
同居老人の過剰暖房や消灯忘れ、水の出しっぱなしなどにどう対処し、無駄をなくすかが「エコ」の観点で語られていて、スッキリ。
投稿元:
レビューを見る
小林光なる人物を知りたくて、読む。エコロジーに掛ける強い思いは、十分に伝わったが、中途半端な知識に振り回された関係業者がとても可哀想にと思った。
投稿元:
レビューを見る
今日の書評ブログは「エコハウス私論」小林光さんという方が著者だ。小林さんは環境省のお役人さんだ(慶応義塾大学経済学部卒)。
なぜ、「エコハウス私論」という題名かというと、ご両親との同居の話が持ち上がり、ちょうどご両親がその時住んでいた家が借地権付き建物だったので、地権者が借地権を放棄する代わりに、少し狭小にはなるが、所有権と交換するという話が持ち上がった。
小林さんは、ご両親と小林さん一家と甥御さんの7人の住む家を新たに建てることに決定。職業柄、環境に優しい「エコハウス」を建てようと決意をした、その経験に基づいた書籍である。
まずは地盤調査から始める。スウェーデン式の簡便な検査による地盤調査の結果、支持力は平方メートル当たり3トンと想像された。これは小林さんが思い浮かべていた3回の建物を支えるにはぎりぎりだった。
そこで、工務店の勧めに従い、現場の土壌とコンクリートを地面の中で筒状に練り合わせ、深さ八メートル、直径六十センチの、いわば土中の杭を合計42本を設ける工法で地盤をまず改良し、その上に基礎を載せる形で建築することにしたとのこと。
また、鉄筋コンクリートの強度はニュートン(N)値で表すが、小林宅では一平方ミリ当たり27ニュートンまでの力に耐えるコンクリートが注文された。小林さんは施工中に現場でサンプルを抜き取り、自分で調べるとその値は、39であった。鉄筋コンクリートの耐久性を決めるには、骨材や鉄筋の被り厚さなども重要だが、このN値の数値も見て欲しいという。小林さん宅は供用限界が100年を超えることを意味しているそうだ。
さらに、まぜられる砂利や砂が海のものでないことにも注意すべきだという。塩分を含むと、中に入った鉄筋が錆びて膨潤し、コンクリートにヒビが入る原因となる。
あと小林さんはOM式の太陽熱床暖房のために、床下がほぼ全面にわたって蓄熱コンクリートになっていて、これが湿気を遮断する働きをしている。
それに家に関しては構造材の太さもある。従来10、5センチ角の木材が使われることが多いのだが、小林さんは12センチ角、18センチ角(通し柱)を用いることにした。鉄骨造りになっている箇所では17、5センチ角の鉄骨が使われた。
次に断熱対策だが、十二分の断熱を、と設計者や工務店に強くお願いした。まず壁面の断熱はグラスウール十六K/百ミリ厚、屋根下が同じくグラスウール三十二K/百ミリ厚、床下の蓄熱コンクリート下の断熱には押し出しポリスレンフォーム五十ミリ厚の断熱材を用いた。Kとは、一立方メートルあたりの重量で、断熱材の密度を表している。
また、壁面よりはるかに多くの熱が出入りする窓、テラスドアについては、可能な限り枠断熱サッシュを用いつつ、すべての窓を複層ガラスとした。複層ガラスは単板ガラスに比べて、熱を四割以上通しにくくする。玄関ドアも木製の断熱気密ドアにしたとのことだ。
エコハウスといえば太陽光発電などが思い浮かぶが、それよりもこのような躯体に費用をかけることがより重要であるというのが小林さんの論旨である。
エコハウスの基礎体力として次に気密対策があげられるが、気密性が乏しいと、すき間風で温まった空気や冷たい空気が出入りして熱は逃げてしまう。また結露もしやすくなる。そうするとカビが生えるなどして、シックハウス症候群などをして家の寿命をみじかくする。そこで気密性について述べる。
気密性の指標はC値で表される。C値は天井や壁などの住宅全体にある隙間の面積を導き出し、それを延べ床面積で割った数値で、実測することができる。
計算の結果小林宅のC値は四・六となった。床面積一平方メートルの家に換算すると、家全体で四・六平方センチ分の隙間があるということだ。これは在来の木造住宅としては、かなり気密性のある方だという。
またエコハウスの要素としては素材の選択があげられる。ムクの材木など自然素材には利点が多い。ムク材は湿気を吸ったり吐いたりして、湿度を調節する機能が高い。また家を解体した後は容易にリユース(再使用)できる。
小林宅では、構造材になるべく大径木を使ったり、床材に唐松のムクの間伐材を使ったりした結果、床面積一平方メートル当たりでは0、216立方メートルの木材を使った計算となった。当時の全国平均に比べ約13%増しの数字である。
つまり、エコハウスの基礎体力とは頑強な基礎や構造、断熱、気密性、素材の4点に集約される。
次にエコハウスといって皆さんが思い浮かべると思う、太陽光発電である。小林家ではOMソーラーシステムを採用した。これは空気を主な熱媒体に使った自然エネルギーによる床暖房と太陽光温水器の複合システムである。
床暖房とは、軒先下から取り入れられた外気を南の屋根のガラス面の下を通って温め、押し込みファンの力でダクトを下り、一回の床下にまで送られ、そこで厚い蓄熱コンクリート層を暖めるものである。
OM式では断熱保温された温水タンクの中で、熱を水に移す。実際使ってみると夏なら55℃、冬なら25℃程度の温水、約300リットルが得られる。冬はそのまま使うにはぬる過ぎるけれども、追い炊きを可能にすることで必要エネルギーは大幅に少なくて済む。
わき道だが、太陽光パネルはたくさん貼れば貼るほどよい、というわけではない。小林家では北屋根に貼った。それを見習い東にも西も貼って、合計で出力を稼ごう、と思ってもなかなかそうはいかないのである。
なぜかというと、それぞれの方向で光の当たり方が違う。その結果、それぞれのパネルは違った電圧・電流の電気を生み出す。それを並列につなぎ、一つにインバーターに入れて直流から交流に直そうとすると、最大の交流電気量が得られる変換の仕方がうまく探し出せず、無駄が生じてしまう。足し算にはならないのである。
老人用の補助暖房、太陽が出ない日の一階の主力暖房、薪ストーブ(詳細は本書で)が温まるのを待ってられない急ぎの時の暖房、それに唯一の冷房設備として、普通の家にあるような空調設備がやはり必要だ。それを何にしようかと小林さんは考えた。
判断の基準は、当然、二酸化炭素の排出量だ。二酸化炭素の排出効率については直接のデータはないが、似た指標としてCOPという基準がある。これは、ヒートポン��の性能を比べるのによく使われる値だ。
これは空調機から出された暖かい空気あるいは冷たい空気の熱量と、空調機を動かすのに使われた熱量の比率である。例えば暖房では、室外の熱を拾ってきてそれを室内に移すが、移すためのエネルギーと実際に移されたエネルギーとは別物である。この二つのエネルギーを比べると、移されたエネルギーは移すためのエネルギーよりずっと大きなものである。その比がCOP(=Coefficiecnt of Performance)だ。
前述したOM式のソーラーシステムも、押し込みファンを駆動させる程度のわずかな量の電子エネルギーを消費して、それを上回る熱量の暖気を床下に送り込み、またお湯を作る。そのCOPの数値は定かでないが、おそらく相当に高い数字になるに違いない。冷蔵庫もヒートポンプによって冷やされていて、COPの改善が著しい。そこで小林さんはエアコンを買いにお店に行ったら、まずはCOPの数値を比べてみることをお薦めする、とのことである。
その他、小林さんは水の使用方法についても詳述するが、詳しくは本書を見て欲しいが、水を大切にする上では、水の使用量そのものを減らすのも有効だと言う。具体的には台所には、食器洗い機を備え付けた。
カタログによると当該食器洗い機の一回に使う水の使用量は十五リットル。きわめて上手な人が二層式のシンクの台所で食器などを洗えば、食器洗い機よりも節水できるというが、普通は食器洗い機のほうが節水上手だ。それに、フキンで水気を拭い去らなくとも食器が渇く。
結果、小林さん宅では食器洗い機が一番評判の良い家電となった。また、洗濯機も横置きドラム式のものにした。なぜなら洗濯槽の水の中で衣服を付け洗いするのではなく、ドラム半分くらいの水に上から衣服を落として、いわば叩き洗いするので、節水になる仕組みだ。
とこのように、小林さんはエコハウスの作り方について、時系列かつ詳細に方法論を詳述している。ここに書いていることは本書のほんのさわりだ。また環境省のお役人らしく、環境問題にしてもエコハウスとリンケージして述べている。
「いったいいくらかかったの?」というのが皆さんの一番知りたいところだろうけど、それは本書に譲る。是非本書を手に取って、これから家を施工する方、建設業の皆様に参考にして欲しい。けれどバリバリの霞が関のお役人さんが書いた本だから難しいよ。