- 現在お取り扱いが
できません - ほしい本に追加する
- 予約購入について
-
- 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
- ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
- ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
- 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。
4 件中 1 件~ 4 件を表示 |
紙の本
アートとしての魔術から科学まで
2010/08/12 20:49
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
奇態、奇天烈な物語だ。フランス船が南アフリカ近くポニュケレ国の沖で座礁し、助けられた乗客達は皇帝タルー七世の元で摩訶不思議な見聞をする。彼らは皇帝の前で演じ、披露される奇妙な発明や舞台を見る。その珍奇さ、斬新さは呆れるばかりなのだが、ただ冒頭にこのシーンが延々描かれるので面喰らう。これは一体何なのか。
続いて、彼らが如何なるいわくでこの国に辿り着き、これらの発明を生み出すに至ったのかが語られて、ようやく謎解きとなる。だがその皇帝の客であったり人質であったりする人物達がここに至った道筋も驚異に満ちている。その経歴からすると、妙チキリンな発明達も必然の産物であったことも分かる。
この新大陸へ向かう船に乗っていたフランス人はもとより、ヨーロッパ各地を出身とする、科学者、芸術家、建築家、女優、サーカス団。かつてヨーロッパに連れて行かれて過酷な体験の後に故郷に帰ってきた黒人。皇帝の愛人の、そのまた愛人の愛人の・・・。ヤンチャだが機知に富んだ皇帝の息子達。そしてポニュケレ国が生まれるまでの波乱の歴史、怨恨の連鎖。
人々の野望と、皇帝の意向が重なり合って生まれたのは、新発見の元素を用いた実験や、魔術的な精密さを持つ機械、かと思えば超人的な歌唱、まったく新しいシェークスピアの解釈。鳥や、ウミウシもどきの生物の奇妙な生態を利用した見世物、そしてチターを弾く大ミミズ。あるいは例を見ない手段で為される公開処刑。
科学技術、芸術、自然の驚異、いずれも人間の心を揺さぶるものであり、また人類文明を変えて行くものでもあって、いずれも人間の苦悩の積み重ねで生まれ発見されることが、突飛な空想の中から描き出される。ポニュケレ国の神話的成立と二重になって、夢幻の世界のようでもありながら、ヨーロッパ人の彷徨も、アフリカの権力抗争も、生身の人間の物語としては等質なものだ。空中に浮かんだ異世界のような舞台であっても、日常世界に地続きな場所であり、現実離れした発明も緻密な想像力の産物であったことは、執筆から1世紀を経た現代においての方がはっきり感じられるだろう。
本作はまた言語的実験の産物としても知られているということで、その言語実験を主体に書かれたようにも見られるが、やはりそれは韻律にも似た言語的「制約」であり、とめどない想像力に一定の枠と方向性を与え、発明を造り出す深い論理を紡ぐ形式として採用されたとも考えられる。雑多で、まったく繋がりの感じられないような個々の発明や芸術は、しかし技巧、技芸を凝らした成果であるアート(art)という観点で見れば、心血を注いで完成に漕ぎ着けるまでの執念ともども、統一的な構成を果たしているし、そして文学としての本作自身もまたその一列に加わりさえするのだ。その痛快さを訴え、人類の偉業に対する尊敬を表現する文学形式として、本作は問われていいのではないだろうか。
4 件中 1 件~ 4 件を表示 |