紙の本
前回の直木賞選考で二つの「本格警察小説」がノミネートされた。この作品と佐々木譲『警官の血』だったが受賞できなかった。両作品とも警察組織の暗部を鋭く突いたものだけに受賞して話題性がでれば、苦々しく思う向きもあったのだろう
2008/05/02 12:16
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
全国の都道府県警は組織ぐるみで何十年間にもわたって裏金を作ってきた。この警察の腐敗体質が発覚して何年になるだろうか。今でもときどきマスコミ沙汰になっている。事実として裏金は捜査費、捜査報償費(捜査協力者や情報提供者に対するお礼)の架空領収書、「カラ出張」、警備員の水増しなどで作られている。
それがなにに使われているか。この『悪果』によれば、「幹部のヤミ給与、彼等の異動の際の餞別」「署長経費は月百万と噂され、飲み代からゴルフ代、官舎の家具、電気製品、カーテンから味噌、醤油にいたる」のだそうだが、市民としては腹立たしい限りだ。
上が上なら下は下である。サラ金、ヤミ金に個人情報を流す。税務署、ヤクザ対策の口利き役を風俗営業者などから引き受ける。マンションころがしにつきものの居座りヤクザを追い払う。飲食業、風俗業に対する許認可権、取締権をバックにした過剰供応。などなどこれらをヤクザ並みにシノギというらしいが、腹立たしいというより、むしろ恐ろしい。この作品は警察の腐敗体質を暴く一種の告発小説である。
ただし単なる暴露小説ではない。
大阪今里署、暴力団犯罪係の刑事・堀内、38歳、妻帯。ブランドもののスーツと靴で南のクラブ通い、女もいる。帰りはいつもタクシー。持ち家あり、車はBMW。相棒の伊達、37歳、家族持ち。ものいい、服装、目つき、体形、歩き方、すべてが極道以上に極道らしい。マル暴担は情報源と付き合うために金が要る。しかし正規の捜査手当は裏金として上層部に吸い上げられてしまう。だから堀内のような働きのある刑事ほど自由になる金が必要になり、ひいてはぬかるみにはまって必要以上に贅沢がしたくなる。堀内の場合、得意のシノギは金のありそうな奴の弱みにつけこむ、やくざ顔負けの強請りである。警察組織に残る闇の末端に居直った男たちのこの暗い欲望とふてぶてしさを強烈なタッチで描き出している。そしてこんな悪徳刑事が本当にいるのだろうかと思わせつつ、優秀な警察官として情報をつかみ内偵し証拠を固め検挙する。実に丹念な捜査活動で犯罪を追う。よくあるご都合主義のアクション捜査ではない。手順を踏んだ、まさに地に足のついた捜査のリアルな描写は読み応えがある。地道な捜査活動と期待を裏切らないバイオレンスシーンとが絶妙に調和しているあたり、この作品のユニークな魅力があると言えよう。
なかなかサスペンスフルで、読者はいつこのシノギがばれるのかとハラハラしながら読み続けることになる。
堀内が得た賭博開帳の情報から、二人は丹念な内偵の末、組員や参加者を一網打尽にする。だが堀内の目的は別にあった。客の中には賭博をしていたことを隠しておきたい身分のものがいる。この機密をいつものようにブラックジャーナリストの坂部に流し、坂部が強請りにかけるその分け前にありつく寸法だ。ところが坂辺がひき逃げされて死亡するあたりから事件に奥行きが加わる。巧妙な地上げ、脱税、マネーロンダリング、不正経理、内部告発、殺人と暴力団。この種の企業犯罪は昔からあって特に目新しい手口ではないが、構想がしっかりしているから劇的に、そして現実性ある全貌が浮かび上がってくるところ、経済事件小説としても完成度は高い。
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大阪弁のテンポ良いやり取りが面白い。悪徳刑事と極道達の探り合い、バラバラのパズルが段々と埋まっていくと見えてくるのは何か?最後までドキドキの展開。
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伊達、堀内は暴犯の刑事。花札賭博の摘発。常に何かシノギを得ようと情報収集に励む。大きなアップダウンのストーリーではないが、刑事の事件を捜査する日常のなかでどうなっていくか気になり読み進む。'08.2.11
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黒川博行得意の警察もの。警察組織のなんともいえない「腐敗」が背景にはある。ここまで極端とは思えないがありそうにも思える。必要悪の部分もあるかもしれない。
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黒川博行の作品を読んだのは、今回が初めてだったが、なんと私好みの作品なんだろう!!!
もう、単純に筆者の筆力に感動
関西の情景描写といい、関西人の気質をうまく捕らえた表現といい。
と、関西が懐かしい私の思いはコレくらいにして・・・
この作品は、日本のピカレスク小説としては今まで使われてきた暴力団対策課の二人を主人公にしながら、今までに無いリアリズムで切り込んでいる。
また、時勢的な流れから暴力団の資金源の変成を考えながらも、賭博という古典的なやくざ資金をもキーに組み込んでいる。
なんとも難しく書いたが、何はともあれ私好みの一冊だ!
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【内容紹介】
癒着、横領、隠蔽、暴力・・・日本の警察の暗部を描き出すノワールの傑作!
大阪今里署のマル暴担当刑事・堀内は淇道会が賭場を開いているという情報を掴み、
金曜日深夜、賭場に突入し二十八名を現行犯逮捕する。
堀内は、賭場に参加していた学校経営者を経済誌編集・坂辺を使いゆすり始める…
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関西を舞台とした話。
暴担の堀内と相棒の伊達が主人公になっていて
このコンビの関西弁でのやり取りは面白くて
本を読みながら笑ってしまったほど!
最後の方では、この2人はどうなるのか
気になって一気に読んでしまった感じです。
これは読みやすく面白かった!
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直木賞候補にもなったということで、面白そうなので読んでみたのですが、
警察小説大好きな私にとっては、充分過ぎるほど楽しめる作品でした。
マル暴の刑事・堀川は、正義の味方の刑事ではなく、
ネタ元から得た情報を利用したり、ヤクザなどとかかわり、
ゆすりなどをして、小遣い稼ぎをしている。
悪い奴なんだけど、なんだか魅力的で。。。
同僚の刑事との掛け合いも、面白いし、
フィクションだとはわかっていても、
警察の裏側って、こんな感じもアリかも。。。なんて思わせる、
シリアスな感じに、どんどん引き込まれていきます。
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大阪府警所轄のマル暴担当刑事・堀内。情報を横流しし恐喝の片棒を担いで小遣いを稼ぎもする。あるひネタ元からある組が胴元の博打の話が入り、一斉検挙に到るが、博打の客の中においしいネタを見つけ、いつものように恐喝へと持っていこうとするが。
後半は展開が速く面白かったけど、最後がちょっとなんか物足りない。
2008.6.5
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黒川 博行初読本。警官の汚職等を悪として書いているんだと思うけど、ままありがちな話かも。日本ではあまり感じないが洋画などでは良くみる感覚。最後にはその報いがある、ような所は日本的か。でも、ずいぶん長い本で読み終えるのに手こずった。
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私は図書館派。借りるに6ヶ月かかりました。とにかく面白い!! 読み始めたら止められなくて一気に読みました。大阪府警の防犯係(マル暴担当)の刑事ときたらエゲツナイはず あくどいはず!小遣い稼ぎのためなら何でも悪用して悪人、弱い者から金を巻き上げる。警察内部の裏金作りや 暴力団の賭博のディーテルを詳しく教えてくれる。その賭博で学校法人の理事長が捕まるが.. これが大悪人でわざっと捕まるのである。その真相を突き詰めていくのが最大の山場である。それがそう簡単にいかず そこの悪刑事と大悪人との駆け引きが最高に面白く、ウーンこういう訳でわざわざ捕まったのか.....その真相を突きつけて悪人から最高の“シノギ”を巻き上げるのである。ハードボイルドの傑作である。
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大阪を舞台にした刑事もの
なんだかドラマを見てるような典型的な展開
読みやすいです
結局「悪果」は誰なんだろう。。。
もしかして警察全体?!
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マル暴担当の刑事、堀内と伊達。暴力団に情報を流し、バックを受け取る先輩。依願退職させられ生活安全課。賭場開催の情報つかみ全員逮捕。
逮捕者を脅す記事に情報を流し、広告料の分け前を受け取っていた。その金はクラブの女につぎ込む。引越し代として70万円せびられ払う。
元を取るために寝込みを訪ねてFUCK。記者が車でひき殺される。自分もヤクザに待ち伏せされ、警察手帳と引き換えにメモを要求される。
メモの内容は、学校法人の土地をマンション用の土地として売ることの期限を示していた。ゆすっていた男は沖縄の磯釣り事故を装い殺されていた。
3000万円の要求から、1億円にあげる。コピーを作成するがばれる。受け渡し場所、デパート屋上でヤクザに切られる。血痕と指紋を残し
監察にばれ、依願退職。警官として最後の日に理事長に発砲して脅し、5000万、2500万、2500万の小切手を得る。
相棒の伊達には5000万円受け取ったと嘘をつき、半分の2500円わたす。
マルチにはまる妻を残し、女と済む。1年後、上京。銀座に店を出すが赤字。伊達が三角関係のもつれでヤクザに刺された記事が出る。
自分の女にも他の男がいるのは確実。いつ、刺されるのだろうか?
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関西マル暴犯係の話。
最初は映画や漫画によくある、ステレオタイプの暴犯刑事がはちゃめちゃな生活してるだけの話かと思って、
な〜んだと思いながら読んでたんですが、ミステリーとしていつのまにか成立していたことに驚きました。
もう本を開いたところから、布石、布石の連続だったことを読み終わってから気づかされるんです。
でも、なぜか全然悔しくない。たぶん、小説として十分面白かったからだと思います。
とくに、後半主人公がずるずると堕ちていくさまは、スピード感とあいまって痛快です。
「隠蔽捜査」とは真逆の位置にある警察小説だと思いました。
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これは楽しめた。第138回直木賞候補作。受賞作『私の男』をつい先日読んだばかりだが、個人的にはこっちの方が大衆作品として楽しめました。まぁ、あくまで素人の主観なんですが。あ、この回って『警官の血』も候補に挙がってたんだ。うーむ、激戦って感じですね。
大阪府警今里署のマル暴担当刑事が主人公のハードボイルド小説。主人公の堀内は暴力団とは持ちつ持たれつ、悪徳業界紙と組んで強請(ゆす)りをしたり、とにかく悪徳刑事だ。いや堀内だけでなく暴犯係のほとんどの刑事が何かしらの悪徳商売(シノギ)で稼いでいるし、警察幹部のための組織的な裏金作りなど、警察自体が悪の巣窟として描かれている。
そんな現実とは思えない設定にも関わらず、大阪弁の小気味いい会話や緊張感溢れる捜査状況の描写にリアリティがありすぎて、え?これマジ?と思ってしまう。いや、でもこれが仮に本当だとしたら警察がゆるさんだろ。悪徳警察に筆者が消されちゃうよなぁ。。。あ、ちなみに大阪府警には今里警察署ってのはないです。架空の警察署です。
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内容
癒着、横領、隠蔽、暴力・・・日本の警察の暗部を描き出すノワールの傑作! 大阪今里署のマル暴担当刑事・堀内は淇道会が賭場を開いているという情報を掴み、金曜日深夜、賭場に突入し二十八名を現行犯逮捕する。堀内は、賭場に参加していた学校経営者を経済誌編集・坂辺を使いゆすり始める…
(借)