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女王国の城 みんなのレビュー
- 有栖川 有栖 (著)
- 税込価格:2,420円(22pt)
- 出版社:東京創元社
- 発行年月:2007.9
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紙の本
新本格のルール、動機や社会、人間性のことなんてどうでもいい、事件だけが合理的に解決されれば、っていうところが納得できないと、絶対に楽しめません。でも、動機や人間性、社会のことを無視した合理性って何よ?
2008/02/04 19:54
9人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「このミス」など昨年の様々なミステリ・ベストテンに必ず顔をだす作品ですが、正直な話、私は全く楽しめませんでした。ある意味、新本格の典型ともいえる小説で、一旦そのリアリティに疑問を抱き始めると、もういけません。探偵役の学生たちのガキレベル動きが、「アリエネー」を連発させてしまうのです。
幾ら新本格が「動機」や「現実味」「人物描写」よりトリックの完成度を評価の基準にすると主張しても、やはりリアリティというのは必要で、少なくともその本を読んでいる間くらいは読者に違和感を抱かせないだけの説得力は必要だと思います。そういう意味で、大学生が幾つもの殺人現場を我が物顔に出入りするというのがあまりに不自然です。
佐野洋は、不自然さがあれば、それ自体がトリックであると解釈されても致し方ない、といったことを以前、推理日記のなかで書いていたように記憶します。警察官でもない人間が何度も殺人に出会うとか、現場を勝手にいじるとか、不法侵入を日常的に行なうとなれば、それも伏線と受け取る鬼がいても不思議ではありません。
おまけに、学生たちを疑っている〈人類協会〉が、結局は彼らを軟禁もせずに野放し状態にするというのは、不自然というより絵空事でしょう。それは、総本部内部の人間が外部と連絡が取れないという状況にも同言えます。なぜケータイを使わない?そう思うんですが、そういう人のために繰り返し、時代が1990年であることが説明されます。
有栖川らしからぬバブル時代についての言及も、結局はケータイが普及していなかった、その念押しだけのものです。学生たちの扱いと並んで、作者の都合が見えてしまい、いかにも中途半端。それなら。もっと時代設定を前にするほうが自然です。でもそうしたら、シリーズ・キャラクターを使えない、それだけのためにここまで話を捻じ曲げる?
佐野洋がシリーズ・キャラクターを安易に使うことに疑問を呈し、名探偵を盛んに登場させていた都筑道夫と論戦したことは有名ですが、それが論理の破綻に繋がる、あるいは作者のご都合主義でしかないとすれば、方針を変えるべきだったのではないでしょうか。繰り返しますが、このお話、1990年であること自体が不自然です。主人公たちの心の持ち方、行動様式、そのどれをとっても。
それと、本部の建物の形。これが山中にあるという不自然さ。確かに立派なイラストがついています。そして平面図も。でも、これまた単なるパビリオン建築を越えるものではありません。密室を作るためだけに考えられた構築物。ま、そいうことを言い出せば森博嗣の小説に出てくる建物だって、京極夏彦のお話に登場する函だって似たようなものですが、そこはそれ、森はお遊びムードだし、京極には文体があります。
有栖川には、独特のユーモアも読者を韜晦するような文体もありません。硬質な文体だから、かえって不自然さが露呈する。あとがきによれば、最終的には長篇5冊、短篇2冊となるらしいシリーズの4作目で、第1作が28歳、第2作が29歳、第三作が32歳、今回が48歳で脱稿、実に15年ぶりだそうですが、30代前半で書かれるべき作品じゃなかったのかな、なんて思います。この人はやはり短篇のほうが本来の力を出せるのではないでしょうか。
先走って結論から入りましたが、ブックデザインは緒方修一、装幀は大路浩美、編集協力・図画作成 天工舎 安井俊夫(一級建築士・ミステリファン)だそうです。ちなみにカバー折り返しの内容紹介は
舞台は、急成長の途上にある宗教団体〈人類協会〉の聖地、神倉。
大学に顔を見せない部長を案じて、推理小説研究会の後輩アリスは江神二郎の下宿を訪れる。
室内には神倉へ向かったと思しき痕跡。様子を見に行こうと考えたアリスにマリアが、
そして就職活動中の望月、織田も同調、四人はレンタカーを駆って木曾路をひた走る。
〈城〉と呼ばれる総本部で江神の安否は確認したものの、思いがけず殺人事件に直面。
外界との接触を阻まれ囚われの身となった一行は
決死の脱出と真相究明を試みるが、その間にも事件は続発し……。
入れない、出られない、不思議の〈城〉
江神シリーズ待望の書き下ろし第四長編
となっています。主な登場人物は
野坂公子:人類協会代表、21歳
由良比呂子:人類協会神倉総本部総務局主査
吹雪奈央:同 総務局長
臼井勲:同 財務局長
江神二郎:京都大学文学部4回生、28歳。浪人の留年
望月周平:同 経済学部4回生。
織田光次郎:同上
有栖川有栖:同 法学部三回生
有馬麻里亜:同上
椿準一:元警察官
時代はバブル華やかしき頃、1990年。木曾の開田高原近くの神倉という場所にある宗教団体、〈人類協会〉の総本部で起きる連続殺人事件に11年前の密室殺人事件がどう絡むか、がポイントのお話で、新本格であることを肝に銘じておかないと、私みたいに苛々すること請け合い。最後に、 目次
第一章 女王の都する所
第二章 入国
第三章 村の事件
第四章 天の川の下で
第五章 急転
第六章 ある晴れた午後
第七章 ペリハ
第八章 閉ざされた城
第九章 スターシップ
第十章 C棟の夜
第十一章 S&W
第十二章 自由をわれらに
第十三章 混沌
第十四章 合流と離散
第十五章 不思議の城のアリス
第十六章 ディスカッション
第十七章 暗闇を抜けて
読者への挑戦
第十八章 秩序
エピローグ
あとがき