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アブドラアジズ初代サウジアラビア国王が実際に国王の座に就いて以降、もう少し正確に言えば、その後、サウジアラビアで石油が発見されて以降の、サウジとアメリカの外交史。すさまじい取材量と、それら材料の整理力、読み応え充分のノンフィクションである。
興味深いのは、サウジアラビアという国が、現在、宗教(イスラム教)から復讐を受けている構造のように思える点である。
ソ連がアフガニスタンに侵攻したときに、サウジアラビアの政府、というか王家は非常に大きな危機感を抱いた。それは、ソ連が中東への侵略の意図を持っているだろうことへの危機感・恐怖心であり、実際問題、ソ連がペルシャ湾までの領土に野心を抱いていると想像することは、当時としては充分に現実味を帯びた仮定だったからである。ホルムズ海峡・ペルシャ湾をはさんで対岸がソ連である、という状態を想像した王家が非常に大きな危機感を持ったことは容易に想像できることである。
これへの対策として、サウジアラビアは「宗教」を使ったわけである。アフガニスタンもイスラム教国家であり、そのイスラムの神聖な土地を、イスラム的価値基準としては最も唾棄すべき、無神論者である共産主義者が蹂躙しても良いのか、真に信仰心に篤いイスラム教徒であるならば、アフガニスタンに乗り込んでソ連と闘うべきではないのか、という政府・王家のプロパガンダにのって、サウジから多くの若者がアフガニスタンに、いわば、「宗教戦争」を戦いに出かけたのである。彼らは当然のごとく過激なイスラム原理主義者であり、戦いの過程で、さらに信仰心は深くなったはずであるし、さらに、戦い方、後になってみれば、テロのしかけ方を実戦で学ぶことになるのである。
冷戦が終わり、ソ連がアフガニスタンから引き揚げた後、これらサウジの若者は祖国に帰ってきたわけであるが、聖戦(ジハード)を戦ったはずの彼らを、祖国では誰も高く評価しない、ばかりか、やっかい者扱いされもする。そんな彼らがテロリストの卵となり、やがて、9.11事件が起きる。9.11事件で逮捕された実行犯19人のうち、実に15人がサウジ人であったことには、こういう背景があったのである。
こういう話もなかなか興味深かったのであるが、私自身は、サウジアラビアへのビジネス投資プロジェクトを検討する立場にある人間であり、一番の興味は、サウジアラビアの政治的安定性にあった。それが世界史的にみて良いことなのかどうか、という議論は全く別に置いておくとして、現在の王家が権力を握り続けている限りにおいては、ビジネスマンとしては、一応、サウジという国は安定した国である、と考えるわけである。要は、現在の王家の基盤は磐石なのかどうか、もし何らかの形で王制が崩れるとすれば、それはどんな形で起こり得るのか、ということが興味の対象なのだ。
と書いてきて、非常に長い感想になってしまったことに気がついた。これからも何冊かサウジ関係の本を読むつもりなので、王家の安定性についての感想は、他の本の感想のときに譲ることにしよう。