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紙の本
オランダ通詞は多くの言葉を残しても、自身の功績については多くを語らず。
2008/01/06 13:45
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:佐々木 昇 - この投稿者のレビュー一覧を見る
出世作ともいえる『戦艦武蔵』を書いた吉村 昭は作品の題材の多くを長崎に求めた。
蘭医であるシーボルトの娘、「解体新書」の翻訳を手がけた前野良沢などを小説の主人公として登場させたが、脇役ながらもオランダ通詞の存在を盛りこんだところに氏の人柄が偲ばれる。
本書は小説の中でも陰のように主役に寄り添うオランダ通詞の一人であった志筑忠雄の生涯と功績にスポットライトを当てた珍しいものだが、日本を取り巻く環境の変化を雲中飛行船という西洋科学の発展と併走させるというダイナミックな展開が読み手を飽きさせなかった。
日本における蘭学の発展において上方では緒方洪庵、江戸では杉田玄白、前野良沢等の名前が出てくる。しかしながら、その窓口である長崎での蘭学といえばシーボルトの医学校ともいうべき「鳴滝塾」しか思い浮かばない。
これは長崎以外の蘭学塾から福沢諭吉、大村益次郎、大槻玄沢など多くの著名な人材を輩出したことにもよるだろうが、シーボルトが国禁の品々を国外に持ち出そうとしたことでオランダ通詞たちが幕府から責を問われ、大量に処分されたことにもよるだろう。
しかし、明治の勃興期、文明開化を急ぐ多くの人々がオランダ通詞の流れを汲む志筑忠雄の恩恵に浴したことは知られていない。
『日蘭交流400年の歴史と展望』という日蘭学会刊行の一冊に志筑忠雄の功績を称える一文が掲載されているが、皮肉なことにそれは日本人ではなくオランダ人のヘンク・デ・フロート氏の手になるものである。志筑忠雄が<代名詞><動詞>などの訳語を紹介したのみならず、天文、物理、地理に関する言葉を日本語に翻訳し、オランダ語の文法書を編纂したことが紹介されている。ここでは日蘭関係に特化した書物故にオランダが中心になっているが、後に、この志筑忠雄が編み出した文法解説により英語、フランス語、ロシア語などの学習が容易になったことを多くの日本人は知るべきだろう。
とはいいながら、<真空><重力><求心力>など、今では日常的に使っている言葉が志筑忠雄によって編み出されたことなど、本書を読むまでは知らず、思いを馳せることもなかった。杉田玄白はオランダ通詞の力量を批判しているが、シーボルトがオランダ人ではなく雇われのドイツ人医師であることをオランダ通詞たちが見抜くだけの語学力を備えていたことを吉村 昭もその作品のなかで顕かにしている。
本書は著者である松尾龍之介氏の丹念な研究結果を現代人に分かり易く解説した書であるとともに、歴史の彼方に葬り去られようとしたオランダ通詞の功績を世に問うたものである。
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