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紙の本
ミホさんの進化は目を見張るものがあります。しかも描く世界がどんどん広がっていきます。好きですよ、レズで揺れる心も
2008/04/24 19:51
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
出れば読む状態の豊島ミホの新作です。今回描かれるのは主に大学を出て数年の世界ですから、豊島の年齢がそのまま出ているお話ばかりといっていいでしょう。ついでに各話で共通したことを書いてしまえば、描かれるのは年齢の上下はあるものの、男と女ではなく女と女の関係です。関係って書くと、ナマな感じがしますが、もっとソフトなものだと思ってください。
ただし、長谷川洋子/artliaisonの装画はちょっとイメージが違います。これじゃあ女子中学生か女子高生になってしまう。可愛らしいのは認めますが、お話のほうはチャラチャラしたところ皆無、モエ、なんていうところも全くなし、甘さが苦さに変わるようなものばかりですから。ま、このカバーに釣られた人が読書の楽しさを知ってくれれば僥倖ものなんですが。装幀は中村光宏/N.D.O.です。
こればっかりは概論を語っても意味がない。ということで、各話について簡単に紹介しておきます。( )内は初出です。
・銀杏泥棒は金色 (「小説宝石」2006年7月号):好きなものは特にない、ただ絵を描いていればいい。そんな私・春に美術部の先生は「一回、好きなもん描いてみたら」という。そして出会ったのが隣のクラスの加菜・・・
・ポニーテール・ドリーム (「小説宝石」2006年5月号):大人になったら、綺麗になってポニーテールにして恋をする、そんな私・えみは高校の化学の教師。24歳の私に制服のことで注意された二年の岡田由貴が・・・
・忘れないでね (「小説宝石」2006年3月号):父親が銀行に勤めている関係で転校ばかりしていた私・美奈が友だちに選ぶのは、きまって仲間ハズレにされている子ばかり。高校のときの友だち?はそんな真琴。成績もよくない彼女と同じ大学を受験して・・・
・ながれるひめ (「小説宝石」2006年9月号):大学の教育実習で私・藍が選んだ高校は自分の出身校。でも、そこには私の姉が美術の教師として勤めている。いつか疎遠になっていた姉と再会して・・・
・いちごとくま (「小説宝石」2006年11月号):誰もが私を見ると、自分を卑下したようなニュアンスで「お人形みたい」と言ってくる。そんな私に裏も表も無く「この子超かわいい~」と言ってきたのが「くまっち」だった。誰からも好かれる「くまっち」・・・
・やさしい人 (「小説宝石」2007年1月号):木田芙見のことを思い出したのは、浅野が同窓会をやろうよと言ってきたときのこと。全く忘れていた彼女から電話がかかってきて・・・
・ゆうちゃんはレズ (書下ろし):二年の新木結生には、レズっていう噂があった。18歳の榊明子は、大学の推薦合格も決まって、久しぶりに弓道場を訪れた時、ゆうちゃんから愛の告白を受けた・・・
好きなのは「ポニーテール・ドリーム」「やさしい人」「ゆうちゃんはレズ」の三篇ですが、登場人物の年齢設定がやや高めの「やさしい人」が一番かもしれません。ま、個人的な関心から言えば「ゆうちゃんはレズ」が趣味ではあります。その延長線上にある「銀杏泥棒は金色」は、次でしょうか。
話はよくできていますが、暗めの結末である「忘れないでね」「いちごとくま」は、今ひとつ喜べない。乃南アサ風の「ながれるひめ」は、嫌いではありませんが、他の人でも書けるかな、って。それはともかく、好きなお話でも単純なハッピーエンドはありません。苦いとはいわないけれど、読者が喜びそうなところを微妙にかわしている。それが今の豊島なんだ、とあらためて思います。
いいポジションですよ、豊島に今いるところ・・・。