古典的な名作を読んできていない私には、この小説と同じ題のゴールディング作品との比較ができないんです。でも、〈蠅〉はともかくとして、遺跡から発掘されたものが人類に災厄を及ぼすっていうのは、伝奇小説の王道だなって、しかも若い妊婦がそれに絡むんですから・・・
2012/05/01 19:16
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投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ま、いかにも田中啓文らしいホラーというか、ともかくタイトルが『蝿の王』ですから。ん? 『蠅の王』って、1954年出版のウィリアム・ゴールディングの有名な小説と同じじゃん。とまあ、ゴールディングの本を読んでいない私は、エラソーなことはいえないけれど、そうだとすればこの題名をつけるっていうのは、チキンレースやっているようなものじゃないか、って思ったりもします。
で、まして田中のこの本が、注にあるように
*
本書は2001年11月に徳間書店から刊行された『ベルゼブブ』を加筆・訂正のうえ改題し文庫化したものです。
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ということになると、なぜタイトルを変えたんだろう、なんていうことも思ってしまいます。で、wikipedia を見れば、そこにはゴールディングの作品について「題名の「蠅の王」とは、聖書に登場する悪魔であるベルゼブブを指しており、作品中では蠅が群がる豚の生首を「蠅の王」と形容している。」とまあ、田中の小説の原題の『ベルゼブブ』も、ゴールディング作品にあるんだ、と知って驚いた次第。で、二作を読み比べずない評っていうのは、ないよなあ、でも読む時間ないし・・・
ということで、同姓同名のゴールディング本ガン無視で、紹介することになります。ゴメン。フジワラヨウコウのカバーイラスト&デザイン、これは、このタイトルからして選択の余地なしというか、でもこのシリーズ、ホラーだから真っ黒っていうパターン、別にこだわる必要ないんじゃないか、とは思います。わかりやすいのはいいのですが、どの本も同じに見えるという欠点が・・・
で、この本、まず冒頭がいいです。遺跡で物が発見され、それによって封印が解かれるっていうパターン、これだけで大伝奇SF、っていう感じがします。ただし、虫がついて回るのが嫌ですけど。で、その発見者の名前が蛭川貞夫、ここも虫づくし。で、この考古学の名誉教授っていうのが如何にも人間臭い。
最初の妻とは離婚していて、間にできた娘は事故で死亡というから、不幸に不幸を重ねたようなものですが、せっかくの二度目の妻は浪費家で、大学の後輩教授と不倫中で、離婚に踏み切ることもできず、ただ考古学にのめり込む不潔な老人です。研究仲間からは色々ないみでバカにされていて、いかにも日本を震撼させることになる禍々しいものを発掘してしまった人間に相応しいキャラです。
でも、この教授は所詮前振り役でしかありません。本当の主人公は、有名な昆虫学者の両親を火災で亡くし、財産目当ての叔母・美恵に引き取られた16歳の少女・添川瀬美です。両親が昆虫学者だった影響もありますが、そのせいで母親から虐待されたようなところもあって、本人は虫が大嫌いです。で、今どきの少女らしく人気グループ TICCAの親衛隊のメンバーでもあります。
で、瀬美はひょんなことからTICCAのメンバーのショウ付き合うことになりますが、周囲の反発が怖くて、人に教えることもできません。で、そんな彼女が身に覚えのない妊娠をします。身に覚えのない、とはいいますが、一つだけ彼女には思い当たることがあります。それが彼女が最近見るようになった淫夢です。そしてその夢に登場するのが宙馬で、瀬美は男の前で身も心も蕩けさせてしまうのです。
はたして瀬美の妊娠は本物でしょうか、本物だとしたらその父親は、そして彼女は無事出産することができるのでしょうか。そして生まれてくるものは一体何ものでしょう。黒魔術などに異常な興味を示す若者ショウ、そして〈虫の王〉の力を得て、邪悪な行動に走る危険な子どもオサマルこと塩谷治の運命は。うーん、ハエが嫌いだと心底楽しむことはできないかも・・・
カバー後の内容紹介は
*
ある遺跡で無数の赤子の骨とひ
とつの壷が発見された。その封
印が解かれたとき、人類は未曾
有の危機を迎えた。突如、東京
では児童殺人が頻発する。そこ
には必ず虫が大量発生するとい
う怪現象が…。その最中、ひと
りの少女が身に覚えのない妊娠
をした。頭の中では自分の子を
産み、〈ベルゼブブ〉からこの世
を救えという声が響きわたる。
ベルゼブブとは? 前人未到の
伝奇ホラーの扉が開かれる!
*
目次を写しておけば
プロローグ
第一章 夢魔
第二章 かくれ
第三章 ほろび
エピローグ
あとがき
となります。
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世の中の終わりが来るとしたら、ここまで陰惨で悪意に満ちているであろうか?と考えさせられるほどに超ド級のエグい表現力。神と悪魔は紙一重という意味合いにおいては共感するところはアリ。敬虔なキリスト教信者にとっては、神に逆らうものは全てが悪魔であるであろう。だがしかし神の名の下におびただしい犠牲を払わせた歴史からして、何を以って神で何を以って悪魔かと問われれば閉口してしまう。恐ろしく攻撃的で悪意に満ちた恐怖を堪能できる。ただし不適切な表現により、あまりお子様にはおすすめできない一冊w
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田中啓文作のSFホラー。
ていうか虫グロホラー。
大抵のグロホラーなら飯を食べながらで見る&読むことはできるけれども、虫グロだけが勘弁かなあという思いから、なかなか読み進まなかった本です。
分厚い本だけあって、なかなか壮大な作品に仕上がっているのではないかと思います。
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「蠅の王」と言っても William Golding ではなく、田中啓文。田中啓文の本は、日本SF界きっての奇書「銀河帝国の弘法も筆の誤り」を読んだことがあるだけなので、本書も 600ページを越える壮大なナンシー・サイ・ゴードンがオチなのかと思って読み進めていたが、一応(外見は)普通の伝奇ホラーだった。随所にくすぐりと言うか何というか、本領を発揮したおバカなギャグが挟んであるものの、その構想力と描写力は、田中啓文も一応作家であったことを思い出させてくれる。
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2001年に徳間書店から刊行された『ベルゼブブ』を加筆修正した文庫版。
どちらかといえばグロ系ホラーで怖いというより気持ち悪い感じ。
特に虫に関する描写が多いので嫌いな人にもお勧めできません。
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ぐろすぎて汚くてえげつなくて、最終の行き着きたい先がわからず。
理由のある残虐シーンやえげつないシーンはある程度は許容する気はあるけれど、
ただ書き連ねられ、ひたすら残酷を追求しただけのような理由に乏しい殺戮シーンがあまりに目立つ。
とにかく不快だった。
特に、猫が好きな人には絶対に勧めません。
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水霊よりは面白いとは思わなかった。虫系、スプラッタ系の気持ち悪く不快感を煽られたい方ぜひ。ちなみに私はそういう分野は嫌いではありません。
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表現がかなりグロい
読んでいると気持ち悪りましたが、なんとか読みきろうと努力して
読破しました。
リアル世界とは隔絶された世界の話なので、感情移入することなく
読んでしまった感じです。
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『水霊』の田中さん、久々のホラー文庫です。
帯に「超B級ホラー」と書かれていて何だそれは~と思っていたのですが。
……本当に最高級のB級ホラーでした。笑
簡単な粗筋。
ある遺跡で無数の赤子の骨とひとつの壺が発見され、悪魔の封印が解かれた。
異常な事件が立て続けに起こる異常な事件には、必ず虫が大量発生する。
そんな時に、ひとりの少女が身に覚えのない妊娠をし――
分類するならカルトホラー。
旧約聖書、悪魔信仰、隠れキリシタンなどなど、宗教的なもの満載です。
けれども何が重要かというと、タイトル通り「虫」なんです。
うじゃうじゃ虫だらけのストーリーです。
が。
もう何がアレってとにかくグロイ。
しかし血みどろのグロテスクじゃなく(や、それもあるが)、一番目に付くのは「汚物」のグロさ。
嫌悪感溢れる表現ばかりで、苦手な人にはとことん駄目なんじゃないかと思うほど。
殺人シーンだけでなく性的描写もえげつない書き方をしてますし。
私自身も「ここまで書くか」と思ってしまったくらいです。
おかげで「虫が怖い」とか思うよりも、感想は「グロイ」だけになりました。
虫が大量発生するシーンなども、その殺され方の方が印象的ですしね。
まぁそんな話だからこそ、人に薦めるには人間性を疑われそうですが、
さすがは田中さん。とにかく知識がすごい。
長さもありますが、悪魔信仰の話などはかなり読み応えのあるモノです。
話自体も面白いんですよ(ラストは少しぐだぐだでしたが)。
軽々しく「読んでみてー」とは言えないけれど、興味があるなら是非。
それにしても想像すれば綾辻さんの『殺人鬼』など目じゃないほどグロイのに、
眉をしかめるほどではなかったのは、あっさりした書き方だったのかオイラがおかしいのか。
慣れって怖いですね。
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くだらない内容だった。怖いと感じる要素は乏しく、趣味の悪い表現を連ねているだけだった。ま読みやすかったけど
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虫とはなにか?
宇宙の外からやってきた
異星人なのか?
少女は妊娠したが、
その子は神で、
「世界を救え」という。
人類は、虫の脅威に曝される。
少女は、世界をすくえるのか?
ベルゼブブはいったい何者なのか?
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田中 啓文 『蠅の王』
(原題『ベルゼブブ』・徳間書店・2001年11月/角川ホラー文庫・2008年1月)
ある遺跡で、無数の赤子の骨と一つの壷が発掘された。
その封印が解かれた時、この世は底知れぬ“悪意”で満たされた。
突如、東京で頻発しだした奇怪な児童殺人。
地底から幼児の呪歌が湧き上がる異常の街に、悪魔教団が姿を現す。
その頃、一人の少女が身に覚えのない妊娠をした。
生まれ出ようとしているのは何者なのか?そして、巨大な呪いは誰のものか?
想像もつかぬ真実がついに解き明かされたとき、“蠅の王”が出現した。(セブンアンドワイHPより)
この伝奇ホラー、というジャンル、当たりが少ない籤をひくようなものだと認識しているので敬遠気味であったのだが、あの田中啓文が・・・、と思わず手にとってしまった。
「あの」田中啓文と言っても、最近は落語やジャズを題材にしたミステリの方で注目されてたのでそのイメージしかなかったのだが、そういえば『ミズチ』も角川ホラー文庫だし、SFもいろいろ書く人だったはず。『馬子』や『蹴りたい田中』もたしかこの人だったなぁ。
で、肝心の内容はと言うと、可もなく不可もなく、であった。
蠅や蜂、蛾、蟻に蓑虫と、これでもかと虫が出てきて、これでもかと人が死ぬ話。
生来の虫嫌いの私には刺激が強すぎると思っていたが、「怖いモノ見たさ」で結構楽しめた。
無論、これが映像化などされようものなら、それこそ失神もしくは瀕死状態は不可避だったろう。
しかし深層意識の虫バリアーが脳内での映像化を固く拒否してくれたので、無駄なエネルギーを使うことなくスラスラ読めた。
田中啓文はもともとエログロダジャレの人なんだから、こんな省エネな読み方は邪道なわけで、本来味わうべきカタルシスの何分の一しか味わえていないだろうが、もう満腹、ごちそうさま、である。
キリスト教信仰と悪魔信仰、カルト教団と言った具材に、SF的要素を味付け程度に加え、うまく料理している気もするが、そこの掘り下げというか、ビックリ感が希薄であったのが惜しい。
これだけの筆力があるのなら、もっと荒唐無稽な展開、驚天動地の真相を、と期待してしまう。
と言っても、あとがきを読むと、これからもこのタイプのやばい伝奇ホラーをばんばん書く、と宣言してらっしゃるので、このまま期待外れに終わることはまずないだろう。
次は何とぞ虫以外でお願いいたします。
ところで、こんなダークな話なのに割と核心に近いところにダジャレを入れてくるその勇気は買い、だ。
あと、神様の造形も出色!最後のほうのセリフなんて、ただのおっさんになってて爆笑モノであった。
70点(100点満点)。
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完全に身構えてしまった。600数十ページにも及ぶ厚さとキリストもの伝記ホラーという事で、眉間にシワを寄せ序盤から1ページ1ページを大事に噛み締めながら読む。面白い。歪んだ世界観の描写は素晴らしく、お得意のグロ描写も斬れ味抜群だ。しかし田中啓文はこれで終わらないのだ!終盤は今迄のは何だったんだ!?とハチャメチャにブチ壊した展開になるのだ。もう東宝特撮シリーズなのだ。虫や臓物のグロさ、性的描写のキツいエロさ、架空の表現や駄洒落のくだらなさ。田中ワールド全開の超スペクタルキリスト伝記お下劣脱糞クソ虫ホラーはいい意味で裏切られた。