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紙の本
この本の素晴らしさは、中身もありますが、むしろ本自体ではないでしょうか。この装丁をみるだけでお釣りがくる、そういう本です。ちなみに内容ではミルキイ・イソベの新刊に軍配。
2008/08/06 19:52
10人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
あとがき に初出について「二〇〇六年の夏から秋へ三度、二人の編集者に話したことが基になっている」とあり、一度原稿がまとまったものの自分のイメージと大きく隔たりがあったため、一年をかけて内容、装幀をすべて考え直したものだそうで、もとの原稿はともかく、今回のものについて言えば中身も外身も、これ以上のものはないといえるレベルのものになっているのではないでしょうか。
とエラソーなことを書いてしまいましたが、私が菊地の本を読むのはこれが2冊目、しかも名著といわれる『装幀談義』(筑摩書房)ではなく、どちらかというと失敗作ではないかと思う『みんなの「生きる」をデザインしよう』しか読んでいないので、批難されてもしかたがないところではあります。
でも、菊地が装幀した本となれば、いちいち上げることができないくらい手にしてきているので、少なくとも彼がいわんとするところは、専門用語や具体的な紙の種類などを別にして理解できているつもりです。ちなみに、この本のなかで実例として写真つきで紹介されている本としては、講談社文芸文庫、村田喜代子『鯉浄土』、平凡社新書の三つしか実物を手にしたことがありません、うーん残念。
では、と私自身のメモで検索をかけてみると、梁石日『終わりなき始まり』、中野孝次『暗殺者』、高橋昌男『饗宴』、倉橋由美子『老人のための残酷童話』、沢木耕太郎『杯 WORLD CUP』、奥泉光『新・地底旅行』、佐藤賢一『ジャンヌ・ダルクまたはロメ』、山本一力『欅しぐれ』、京極夏彦『姑獲鳥の夏』、乃南アサ『火のみち』、阿刀田高『風の組曲』、高樹のぶ子『マイマイ新子』、高橋三千綱『空の剣 男谷精一郎の孤独』、斎藤美奈子『物は言いよう』、酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明』、村松友視『幸田文のマッチ箱』、浅田次郎『天切り松 闇がたり』、歌野晶午『安達ヶ原の鬼密室』、島田荘司『摩天楼の怪人』、椎名誠『波切り草』、中川素子+坂本満・編『ブック・アートの世界』、池内恵『書物の運命』、小島信夫『月光 暮坂』、澁澤龍彦『快楽図書館』、鹿島茂『ドーダの近代史』、庄野潤三『愛撫 庄野潤三初期作品集』がでてきました。勿論、すべて菊地の手になるものです。中には講談社文庫、講談社文芸文庫、講談社ノベルズのようにシリーズ全体を担当しているものも含まれています。
ちなみに、これ以外でもヒットしていますが、装幀は別の人。で、それも含めて共通しているのが「技」「白い本」「清楚」「てっきり菊地の装幀だと思った」「菊地らしくないデザイン」といった言葉。それと関連して語られるのが「平野甲賀」「鈴木成一デザイン室」「祖父江慎一」「岩郷重力」「辰巳四郎」「熊谷一博」「北見隆」「松田行正」。
ついでに気になる装幀家を上げれば「多田和博」「大久保明子」「大久保伸子」「坂川栄治」「ミルキィ・イソベ」「和田誠」「新潮社装幀室」でしょうか。ま、最後の「新潮社装幀室」は、建設業界でいえばゼネコンの設計部みたいな存在で、ほかのアトリエ系設計事務所とは一味も二味も違ってはいるんですが、でも仕事の質は高いです。
装幀関係で脱線しておけば、私は松田行正『眼の冒険 デザインの道具箱』(紀伊國屋書店2005)の評で
「私がブックデザイン三羽烏と呼ぶ人がいます。ま、勝手に呼んでいるだけで、数も三人ではありませんから、もう、のっけから滅茶苦茶ですが、白を使う菊地信義、エンタメに強い鈴木一成、清楚な祖父江慎一、モダンな岩郷重力、辰巳四郎のあとを行くのか熊谷一博、イラストから装幀まで手がける北見隆。思い浮かぶままに書きましたけれど、もっといます。で、松田行正は色こそ違え、菊地信義タイプの装幀をする、といったら語弊があるでしょうか。」
と書いています。要するに菊地信義は、私が装幀を語るときに物指しというか指標として必ず触れる人なわけです。で、この本、大変ためになるんですが、手取り足取りなんでも教えてくれるといったものではありません。むしろ心構えを語る、取り組み方の基本を教える、そういう本だと思います。
例えば印刷と紙。私は本を手にした時の紙質を気にします。まずカバーの手触り、ツルツルなのか、手にしっくりくるのか。指紋や汚れがつくかつかないか、カバーをとったとき、手にして冷たいか温かいか。頁をめくる時、指先の感じがいいか、しなやかか硬いか、活字の見え方はどうか、総じて私はマットな質感が好きで、紙でもざらついたほうが好き。でも変色しやすいのはいやです。そういうことを装幀家が考えながら、コストとのバランスを考えて選ぶ。
函だってそうです。紙質もあります。この本では語られていませんが、私は造りにこだわる。ホチキスを使ったものは、いつか錆びがでます。それなら糊付けのほうががいい。でも、剥がれやすいのは困る。確かに菊地がいうように角背の本を函から出すのは難しい。それにたいしてこんな工夫があったんだ、なんて感心します。書店で実際に抜いて確認したいって思います。
私が好きなタイポグラフィックについてもしっかり書いてあります。様々な字体、新しい字体。コンピューターの登場で変わったこと。平野甲賀の手書き文字の素晴らしさ。原寸でデザインすることにこだわる菊地の考え方。字の見せ方。こうなってくるともう、文字だけの問題ではありません。立体としての本が問題になります。
書架に置かれたとき、平台に並べられた時。正面から見るとき、斜めからの見え方。距離との関係。私の頭になかったのは平台に並べた時の、他の本との隙間のこと。隙間から背の一部が見える、そこまで考えるんだ・・・と感心してしまいました。そういった話にかならず実例がつきます。これが一頁を丸々使った大きな写真。細かい工夫が見えます。
希望としては角背本を納めた函の実例、函から引き出すときの写真も欲しかった。それと紙です。菊地が例としてあげた代表的な紙を使い分けて本を作り、この紙は第一章に使っています、なんてやってもらったらもっと楽しめました。時々、実例がありますが、巻末にこの本で使った紙や活字のデータがあったほうがいい。ま、そんなことやってると、本の値段がもっと高くなっちゃうかもしれませんね。
ちなみに、この本、210頁の小型本なのに2200円、普通なら「高い」と感じるのですが、今回は「妥当」としかいいようがありません。ともかく装幀が素晴らしい。ちょっとフの入った辛子色のカバーと一体化したような表紙の隅っこに、小さな活字で書名、著者名、出版社名が並ぶ。背も同じ。ま、背の文字の左揃えが正解だったかは疑問ですが、でも書架に並んだら何の本だか分らない、そのさり気無さが潔い。
「著者自装」なんて注も、初めてです。普通なら「装幀 菊地信義」ですもの。さすがプロは違う・・・
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