紙の本
のんびり登山の勧め
2008/04/16 04:16
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:濱本 昇 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、昭和三十年代、北八ヶ岳をこよなく愛した著者の随筆である。手記と日記から構成されている。
私も八ヶ岳に登山した事が一度ある。私が登山したのは、赤岳、横岳、硫黄岳等、八ヶ岳の主峰が連なる八ヶ岳南部である。八ヶ岳南部は、大同心・小同心のような岩稜に象徴されるようにダイナミックな登山が楽しめる。しかし、著者は、そういう南八ヶ岳よりも静かな森に囲まれた「山歩き」と呼ぶに相応しい北八ツに、大きな魅力を感じている。
登山と言う行為は、エベレストから裏山まで、純粋に個人的な行為である。登山の志向も、人それぞれである。しかし、登山と言う行為の各人の底流を流れる思考は、共通のものがあるはずである。この「底流の思考」を本書は、ちゃんと語っている。「山登りというものは、人間がふだん忘れている、いちばんたいせつな、いちばんつつましい幸福の条件というものを、よろこんで教えてくれるものだからだ。」登山を愛する者が山に登る理由を明確に語っていると思う。
著者が、何故、北八ヶを愛するのか?その明確な答えも本書で語っている。「北八ヶでは、何時までにあの峠に着いて、何時にあの頂を出発しなければならないというような、時間にしばられた歩き方はしない。いいところがあれば、ねころんで煙草を吸って、いろんな空想をあたためたり、ヒガラやメボソのきれいな声に耳を傾けたり、気がすむまで腰をあげない。」これが、著者の登山の嗜好なのである。登山は、ヒマラヤが高級で、裏山は、低俗という定義は、一切成り立たない。全ての登山が、個人の意志として為される時、それは、高級な純人間的行為なのである。
本書は、のんびり山歩きという登山スタイルの真髄を語った著者の「ひとりごと」だったと思った。
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本書を入手すべく、古書店に足を運んだ方も多いだろう。旧本の絶版から20年たち、装いを新たに世に送り出された「伝説の書」である。10代の頃から登山を始め、山の文芸誌「アルプ」の編集に参加し、串田孫一らと300号の終刊まで委員を務めた著者。長い山登り歴の中で、一番打ち込んできた八ヶ岳に関する随想を、珠玉の1冊にまとめた。
「『にゅう』の頂で静かな山域を展望したときから、北八ッは私にとって『こころの山』と呼ぶにふさわしい山となった。そうして、北八ッによせる私の憧れのまんなかに、いつも雨池がひかっていた」。随想八ヶ岳として書き出された本書は、北八ヶ岳に関するものが大きい比重を占める結果となり、その題名に決まった。著者は自身の「こころの山」北八ヶ岳を、動的(ダイナミック)で情熱的な南八ヶ岳とは対照的な、静的(スタティック)で瞑想的な山と語っている。
「北八ッといえば、だれでもすぐ思い出すのはあの苔の匂いであろう。朽ちた倒木や、古い岩石や、湿っぽい土のそれとまじった、なつかしい森の匂いである…」。読んでいるうちに、自分が実際歩いて、山の香気を五感で受けている気持ちになる。
いざないの言葉は、読者それぞれの「山の想い」へと優しくゆだねられていく。
「さまよい。そんな言葉がいちばんぴったりするのが、北八ヶ岳だ」。(S)
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存在が気にはなっていたのですが、ちょっとお高いので図書館で借りてきました。
読んで、ガツンと来ました。
こんな素敵な山の本が存在するとは。
感動した本に出会ったときほど、
いろいろ感想を書きたいのに、
書いては削除し書いては削除し、
を繰り返し、
結局カタチにならないのはいつものこと。
だから今回も、あまり多くは書かずに、
思いついたこと心に残ったことをメモ。
ちなみに、私は文句なしの☆5つですが、
山歩きをしない人、自然にあまり興味がない人は
読みづらいかもしれません。
八ヶ岳を愛する著者の、山へ自然への想いが伝わってくる作品です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
P76
松林の落葉の様を描いた部分。
衝撃でした。
著者がもう何十年も前に感動した場所に、私も立っていました。
P121
山の斜面をながめていて、遠くに気になる一画がある。
「あそこに行こう!」となる。
地図を広げて「峠から見おろす地表の細部をそれと照合しながら、・・・・」目標の場所をめざす。
P179
森の中でであった小さな沢、ふだんは水が流れていない源流の水路などをたどって歩いてみる。
こんな歩き方もあるのか。
P198
人工の光に描き出された夜の森。
P208
シラビソの身を裂かれている様。
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八ヶ岳の本では
もっとも知られてるとおもいます。
いつか読まなくっちゃ!
と思っていて図書館で見つけました。
けっこうよかった。
にゅう(山の名前)とかも出てきました。
最初にちゃんと登った山。
やく30年まえ。
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八ヶ岳縦走のお供に持参、テントの中で読む。自然描写ももちろん美しいものがあるが、個人的には、50年以上も前の著書ゆえ、現在の山行スタイルとの比較が面白かった。荷物40kg!、夜の21時まで行動し、深夜まで酒盛り、朝は遅くまで寝てるし、あちこちで焚き火をして、不要なものはガソリンで燃やしちゃったりとか、現在の登山の『常識』では考えられない蛮行の数々…。でも、昔はそれが許されたんだろうなぁ。そういう自由さ、いい加減さがなんだかうらやましくもあった。今の登山は『安全第一』や『環境保全』のためにルールが増えすぎ、とても不自由になってしまったという気がした。
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こんなに素直に心の動きを描写してあるなんて。自然への眼差し、友に対する心情、何もかもが優しく愛情に満ち溢れている。よほど純粋な方なのだろう。山への想いが限りない。素敵な本。