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篠田 節子 『Χωρα ――死都――』
(2008年4月・文藝春秋)
互いに家庭がありながら不倫の関係を続ける亜紀と聡史は、エーゲ海の小島にやってきた。
その島の廃墟の教会で、亜紀は聖母マリアのような幻を見た上、手のひらから急に血が流れ出すという体験をする。
だが島の人々は、廃墟は「ホーラ」と呼ばれる不吉な場所で、そこに教会など存在しないという。
さらに重なる不可思議な出来事。それらはホーラの持つ妖しい力によるものなのか……。
(文藝春秋HPより)
私にとっての篠田節子とは、ぶれのない日本語で芯の通った話を書く印象が強い。
テンポ良く展開していく話が多いのに、なぜだかB級の匂いのしない、品のある作品を書く。
いわゆる「何も起こらない話」がどうも苦手なので、篠田さんの作品は非常に有り難い。
しかし、そんな篠田作品の中にも「何も起こらない話」は紛れこんでいて、もちろんそういう話だと事前にわかっているときには問題ないのだが、予備知識無しにコレに当たると肩透かしを食らう。
この作品がまさかその系統だとは夢にも思わなかったのだが・・・。
厳かな宗教画が施された装丁、帯にはゴシックホラーなんて銘打ってあるし、「おぉ、まさしくこれは」と喜び勇んで読み始めてはみたものの、どうも要領を得ない。
聖母マリアの幻影を見たり、聖痕というのだろうか、傷も無いのに両手から血が流れてきたりして、ホラーらしい片鱗は見せても、そこで足踏みしてしまっている印象を受けた。
ホラー的な要素よりも、不倫という原罪にキリスト教や仏教(というより無神論)の宗教観を絡めた方向に主眼が置かれており、これはこれで面白く読めたけれども、やはり期待していた怖~い展開にならなかったのが実に惜しい。
西洋を舞台にしたホラーに日本人を飛び込ませたらどんな展開になるのか、読んでみたかったなぁ。
60点(100点満点)。
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音楽家の話。
ヴァイオリニストが建築家とギリシアに旅行し、
不思議な島で不思議な廃墟に行く。
帰り道で自損事故を起こす。
ギリシアの文化と音楽とが交差する。
参考文献
ギリシア史 (新版 世界各国史)
山川出版社(2005/03) 値段:¥ 3,675
ギリシャの歴史 (ケンブリッジ版世界各国史)
リチャード クロッグ
創土社(2004/08/30) 値段:¥ 2,730
ヴェネツィアの歴史―共和国の残照 (刀水歴史全書)
永井 三明
刀水書房(2004/06) 値段:¥ 2,940
ギリシャ正教 無限の神 (講談社選書メチエ)
落合 仁司
講談社(2001/09) 値段:¥ 1,575
東方キリスト教の世界
森安 達也
山川出版社(1991/04) 値段:¥ 4,400
http://researchmap.jp/jogctoyn2-45644/#_45644
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表紙にひかれたのですが、いきなり不倫の話でした。
敬虔なクリスチャンと惑わす死都。
夏の暑い日にゾクっとするにはよかったと思います。
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読み応えがあり、面白かった。昔読んだ森瑶子さんの「傷」を思い出した。設定が少し似ているだけで、文体もストーリーも全く違うのに、心に残る余韻が同じ種類のもの。主人公の心の葛藤も辿り着く先も予想がつくのに、丁寧な描写で飽きさせない。ただ、死の床で看病される男のプライドは、看護人が愛人であっても妻であっても変わらないと思う。彼の性格であるならなおさら。主人公の女性の心情としての描写だからこれでいいとも考えられるが、つい本の世界から離れて異を唱えたくなった。ともかく、そんな瞬間が多少あったとしても、質の良い小説であることには変わらない。
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エーゲ海の架空の小島を舞台とする幻想ホラー。「呪われたヴァイオリン」「いわくつきの廃墟」「聖痕と流血」といった「いかにも」なモチーフがめくるめく集められ、そこにセレブ中年男女の不倫の「罪と罰」の物語が進行する。島の地理・歴史の構築や、登場人物の実在感の描写はさすがに上手く、目の前に映像が浮かんでくるようで、終始弛緩のない緊張感あふれる作品になっているが、他方で著者の得意とする好物を「再利用」した自己模倣感は否めず、新鮮味がないのも確か。読み手の篠田作品「経験値」の違いによって評価は異なるのではないか。
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まず装丁画のギュスターヴ・モローの『オルフェウスの首を運ぶトラキアの娘』が既に美しいのに暗くて物騒で最高
篠田節子先生の異国の空気を感じる作品は、やっぱり不穏で怖くて…凄いな~~~
この世のどこにも安住の地などないのだと突きつけられる…