紙の本
少年は荒野をめざす 荒野がめざすものは?
2011/12/18 16:38
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:星落秋風五丈原 - この投稿者のレビュー一覧を見る
先に読んだ『少女七竈と七人の可愛そうな大人』のヒロインの名前も相当変わっていましたが、本作のヒロイン、荒野もその名前のインパクトでは負けていません。本作は、娘に荒野なんて名前をつけた作家の父親と「ばあや」と呼ぶには若い女性との共同生活をしていた12歳から16歳に起きた出来事を、荒野の視点から描いたビルドゥングスロマンです。
『少女七竈…』にあったような「この二人の男女の関係は一体どうなっているのだろう?」というミステリー的要素はありません。強いてミステリーに似た部分を探すとするならば、荒野が年齢を重ねるにつれて大人の世界に近づくと共に、「ああ、実はあの人はこんな事を考えていたのか」「この行動にはこんな意味があったのか」と後から気付いていく所でしょう。しかし、物語が後半になるにつれて、当然のことですが、荒野も後追いではなく瞬時に大人の行動の意味を感じ取ってゆくようになります。
本作の魅力は、恋愛小説家の娘の割には極めて奥手で普通の少女・荒野を取り巻く個性的なキャラクターにあります。普通の父親が言えば「うっわ、きざ」と切り捨てられるような台詞を口にする、蜻蛉のような父・正慶、荒野よりも精神的に成熟していた想い人・悠也、模範的な母親と妻を目指しているが、夫の浮気に対して冷静ではいられない義母・蓉子、美しい容貌で人目を惹くが男性には全く興味を示さない学友・江里華、真っ当すぎるアプローチをしてくるが奥手の荒野に見事にノックアウトされる男の子など、無駄なキャラが一切ありません。完璧な人間など誰一人おらず、弱さも強さもある、凹凸のある人間として描かれています。
少女真っただ中の子たちはどう読むのか興味が尽きませんが、かつて少女だった女性たちは、思春期の瑞々しかった頃を思い出すのではないでしょうか。
荒野から戻ってきた悠也と帰りを待っていた荒野の恋がどう進展してゆくのか、興味が尽きません。
紙の本
荒野、十二才、中一。大人以前。高一で十六才になるまでの物語。
2017/12/24 20:17
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たけぞう - この投稿者のレビュー一覧を見る
桜庭一樹さんが合わないと嘆いていたら、知り合いからこの本を
薦めてもらいました。驚きましたね。ちょっとラノベっぽいところが
気になるかもというコメントも含め、想像以上にマッチしました。
書評を書くにあたり、桜庭一樹ファンらしい人の書評で
作品群の分類も見かけ、いろいろと納得しました。
いくつかの作品系統の中で、爽やかな青春要素のあるものは、
荒野と推定少女、砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けないなどが
紹介されていました。
これまで読んだ作品からの印象ですが、おぼこい少女が登場する
ことが多いですね。性格づけが極端なので、少々あざとく感じる
あたりが、わたしは合わないと感じているのかもしれません。
この作品も、いくらなんでも的なカマトト具合が気になりますが、
少女が地味に書かれているのでバランスは取れていると思います。
おかげさまで物語が頭にすっと入ってきました。
人気小説家の娘の荒野。父は蜻蛉みたいなぼーっとした人で、
外面はすごくいいのに相手に対する関心は空っぽで、
それがかえって女心を刺激するという魔性の男です。
そして食い物にした女性をモデルに次々と小説を書くという、
トンデモ野郎だったりします。
荒野はそんな父を見て育ち、あまり異性に関心を持たないで
すごします。唯一、意識した人とは、いつの間にか距離を縮め、
少女から少しずつ成長していくという青春物語です。
文章はかなり読みやすいです。
驚く展開はなく、主人公の荒野にじんわりと寄りそっていく
お話でした。心がふわっと包まれて心地よかったです。
いい時間が過ごせました。感謝の一冊です。
投稿元:
レビューを見る
ふむふむ。赤朽葉のときも思ったけれどこの人は女の人を描かせるとほんとにうまい。そして、中盤の盛り上がり。オチのつけかたもいい。ただし、相変わらずラスト近辺の進行にはマンネリズムが見られるね。奈々子さんのキャラがもっと立っても良かった気がするのだけど、まあ、1冊にまとまってむりやり大団円を結ばせたこと自体が大人の事情らしいから仕方ないといえば仕方ない、のかもしれない。ところどころ見え隠れする物語の綻びは、そういうこと。
投稿元:
レビューを見る
一人の少女の12歳からの物語です。
桜庭さんにしては、結構ダーク要素が少なかった……のかな?
義母が女、という感覚は再婚した子供にとっては、とてもリアルな感覚でしょう。
元家政婦が父親の愛人だった、というのは描写を見ていればわかります。
でも、かのじょはとてもサバサバしていて、読んでいると、この人はすごく素敵だ、と思えました。
主人公の来いについては、とても初々しい感じがしました。
さすがは青春。
投稿元:
レビューを見る
最後は「あれーっ、結論は!?」というかんじでしたが、結論を求めなければすばらしい本です。
歳をとるにつれて変化する微妙な心が、こんなにもよく書けるなあ、と思いました。
投稿元:
レビューを見る
荒野は少女の名まえ。有名作家で恋多き父の愛娘という設定が『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』に似ていたので、警戒して読みはじめたが、さにあらず。とてもよかった。冒頭にはなつかしい『青年は荒野をめざす』が出てきたりした。
『グラデーション』 『体育座りで、空を見上げて』『荒野』と少女の成長期を描いた作品を立て続けに読んだが、『荒野』に一番惹かれた。作者が主人公と同化せず、一定の距離をとっているからだろうか。
『私の男』がダメだったという人にもおすすめできます。☆は4以上。
投稿元:
レビューを見る
200807読了 ★★★
数年前のファミ通文庫の焼き直しと、3章追加、とのこと。少女小説の色合いが濃く、トントンとよめる。文章のテンポがいい。センテンスが短くて、ちょっかんてきに物語があたまにはいってくる。鎌倉という舞台のせいもあって、場面転換ごとに美しい季節の移り変わりを強調してくる。それが、少女の言葉によって軽やかに表現してあるので、舞台のよさが引き出されてる感じがした。物語には決着はない。成長のものがたり。こども、おとなのあわいな感じがよくでているのだけどちょっとなにか違う。わたしが育った12歳から16歳までより、この主人公は強い。少女性を意識した少女はちょっとやだな・・・少女には自覚なくぽやんとしていてほしい。このひとの書く文章とか、少女像ってちょっと男性っぽいなあと思う。さっぱりとしているけれど、女を強く意識していて、その乖離性が、実際のおんなのことはすこしブレてるかんじがする。しかしそのぶん、大人の女たちがなまぐさくてリアルだった。
投稿元:
レビューを見る
ちょっとタッチが違うな、と思ったら、初期作品に加筆したものだったのね。主人公が中学生〜高校生。まだ続く???
投稿元:
レビューを見る
面白かったな。中学生の心理がちゃんとわかって、ああそうだこんなんだったな、みたいに思うところが多かったです。思春期ってこんなんだよ。きらきらしてるけどどこか暗くてじめじめしてて、でもやっぱり一番楽しいんだなぁ。そんなことを考える本。
投稿元:
レビューを見る
可愛らしい小説です。直木賞受賞作の『私の男』で桜庭先生を知った方は驚かれるかもしれません。初々しい(しすぎる?)恋のお話です。特別天然記念物級かも。
意図的におさなさを残した、しかし軽やかなリズムと音をもった文体で、少女山野内荒野がすこしだけ大人になって姿を描いてます。最初は見上げるようだった荒野の目線がすこしづつ上がっていき、変わっていく自分とまわりを受け入れていきます。ふわふわした甘い描写と、さっと切り込んでくるような思春期特有の鋭さが同居していて不思議でレトロな感覚とリアルとを読み取ることができるかと思います。
あまーいけれど、ベタベタしていない。そんな恋愛小説を読んでみたい方におすすめです。ほんと読んでいるあいだくすぐったくてたまりませんでした。
投稿元:
レビューを見る
8.10読了。中学生から高校生までの少女の大人になっていく姿を描いている。読み始めは赤朽葉家のような一代記のような印象も受けたが青春の一瞬のキラメキを切り取ったような作品。
投稿元:
レビューを見る
子供から少女になり、そして女へ。
一人の少女、荒野の成長を描いた小説。
大人の女性に憧れていた頃が懐かしい。
あんなに夢見た大人の世界は実際はどろどろと脂ぎっていて。
荒野が義母や周囲の女性、自分の友達を冷静に分析できるのに、自分の事となると視野が曇って全く理解不能になるところに、少女特有の感覚を思いだし、女である私は、いわゆる女の直感は働くようになったけど、代わりに荒野が持っていた繊細でみずみずしい感覚をどこかに置き忘れてしまった事に気付いた。
女と家、台所。女を象徴するもの達の描き方に、なるほどなあとうなった。
それにしても、私はいつか女に戻れるのか。母ではない女に。
投稿元:
レビューを見る
鎌倉に暮す恋愛小説家を父に持つ少女・荒野の中学入学から高校3年生までの物語。小説だけではなく実生活でも恋愛小説のように「女」との関係を持ち続け、達観したかのように暮らす父。幼い頃に母を亡くした荒野は、家政婦に来た女に育てられる。家政婦が出て行った後に来たのは、同級生の男の子を持った義母。職業を持って「女」という性を消しえいるはずの女たちが、父と交わることによって全てが「女」という強烈な匂いを持ち、荒野に影響を与えていた。
子供だった頃の荒野にはわからなかったことが、成長するに従って理解するようになってくる。
荒野の抽象的で客観的な描写がいい。少女が女を感じて成長するとき、恋をする時ってこんな感じかとドキドキしながら読んでしまった。ウマい
でも、この著者は男なんだよなー
投稿元:
レビューを見る
山野内荒野、十二歳。恋愛小説家の父と暮らす少女に、新しい家族がやってきた。“恋”とは、“好き”とは? 感動の直木賞受賞第一作。
投稿元:
レビューを見る
ゆっくりと丁寧に綴られた少女の成長。桜庭作品の少女らしい、ヒリヒリとした痛みを時々感じるけれど、それでも今回は落ち着いた話だったのではないかと思います。読了後はどこか穏やかな気持ちになれました。荒野にも小さく可憐な花がそっと咲くように…。(2008.08.19読了)