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最近は「小説」はあまり読まなくなったのだが、「辻井喬」という作家には昔から興味を持っていたこともあり、本書を手にとってみた。
著者は「西武デパート」から「西武流通グループ」「セゾングループ」を創業した後に、「グループ崩壊」となった「失敗した経営者」とも言われた「堤清二氏」である。
著者は「セゾングループ崩壊後」に本格的な作家生活に入っており、いくつかの著作を読んだこともあるが、「辻井喬」は「経営者」として失敗したことにより、「作家」として大成することができたのではないのだろうかとも思えた。
本書を読み、実に興味深い充実した時間を実感することができた。
本書は、ふたりの兄弟の人生をとおして「歴史的大事件」「文明論ビジョン」「狂おしい愛の物語」を織り込むことにより、読者に「生きるということは」という課題を問いかけてくる。まさに「文学」の醍醐味を味あわせてくれる一作である。
しかし、著者の年代によると思えるが主人公二人の年代が「戦中・戦後世代」を扱っているために、本書は若者にはあまりアピールしないかもしれない。
著者がもっと若い時期に著作活動に取り組み得ていれば、もっと素晴らしい作品を書くことができたのではないか。
いや、「経営者」として失敗したからこそ、本書のような歴史の中で懸命に生きる人間の感情のひだを克明に表現するような作品を生み出すことができたのかもしれない。
本書は、二人の主人公の人生のみならず、様々なことを読書中にも考えさせられる良書であるとおもう。