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マリア・シビラ・メーリアン 17世紀、昆虫を求めて新大陸へ渡ったナチュラリスト みんなのレビュー
- キム・トッド (著), 屋代 通子 (訳)
- 税込価格:3,520円(32pt)
- 出版社:みすず書房
- 発行年月:2008.9
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紙の本
昆虫研究の流れの中でのメーリアン。
2009/03/04 17:31
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
表紙の絵を見ていただきたい。カイコのいろいろな成長段階を描いた、メーリアンの水彩画である。色遣いも穏やかで、このまま和書の「昆虫図譜」にしても通りそうな気がするほどである。よく見ないと見落としそうだが、この絵の中央のメスは薄い黄色の卵を産みつけている。蛹になるときに脱ぎ捨てた幼虫の皮の残骸や、糞までも(ちゃんと小さい幼虫のは小さく、大きい幼虫のものは大きく)描かれている。繭も、内側の糸が密な部分と外側の粗い部分がよく描き分けてある。科学者の観察の目が、そこにある。
この本はマリア・シビラ・メーリアンを、昆虫の発生、変態の大きな研究史の流れの中の存在としてはめ込んで描いている。腐った肉からハエが生まれるというような生物の自然発生が信じられていた時代から現代のホルモンによる脱皮調節や遺伝子関与の知見まで、かなりのページが「昆虫の研究史」に割かれ、メーリアンとは方向性が違った同時代の研究家としてスワンメルダムが何度も対比的に言及されているのも「研究史」を重視した著者の姿勢であろう。
それでも、中盤のスリナムでの採集・観察の様子、オランダに戻っての出版に奔走する姿あたりは、メーリアンの心に乗り移ったかのような文章である。研究の流れの中、そこだけはズームをしていった、なかなか鮮やかな書き方である。
カイコの絵はスリナムに渡る前のもの。熱帯スリナムの色彩に触れてから描かれたものは、色調も雰囲気も変わって当然だろう。しかしどの絵を見ても、(もちろん思い込みによる間違いなどもあるのだが)やはり彼女の原点は「科学的な観察」だったのだ、と思う。食草や捕食者との関係も描かれる。著者の絵の説明も丁寧で、なかなか親切である。
それにしても、50才を過ぎて娘と二人、大西洋を渡ったエネルギーはやはりすごい。これだけの作品を残してくれたことも賞賛に値する。
昆虫学史の記述という点では、各章のはじめにおかれたレーウェンフックやスワンメルダムの文章なども、なかなか読めないものなので興味深い。現代の昆虫研究の話あたりは、研究内容紹介としては少々簡単で中途半端な感じも否めないが、全体の大きな流れをつかむ、ということではこのぐらいでもよいのだろう。
日本の「虫めづる姫君」の話が引用されていることも面白い。姫君の「その後」について著者が思いを巡らせているところなどはなかなか楽しく読める。女性と虫という取り合わせは、依然として世界中で珍しく思われているということなのだろうか。
各章の扉絵がすべてメーリアンの作品になっているのだが、題材についての説明がないのがすこし残念。せっかくだからそれぞれの生物の名称などもつけてあればより興味深く鑑賞できた気がする。
この本を読む前に、同じ人物を書いた中野京子さんの著書「情熱の女流「昆虫画家」」も読んでいたので、少し比較をお許し願いたい。同じ人物を取り上げているのだが、著者のスタンスはずいぶん違い、表紙にどの作品を取り上げたか、にもそれは表れている。こちらはカイコの変態を忠実にを描いたもの。もう一方はスリナムでの匂い立つような強烈な印象のバナナの絵である。視点も、中野さんの方はメーリアン個人の家庭環境など、個人にかなり力点が置かれている。
「科学研究」の面に興味があってお読みになるなら本書、「女性の生き方」として読むのなら中野さんの著書、というところだろうか。両方読むと、絵の評価の違いなどもわかってそれはそれでなかなか参考になる。
個人的にはこちらの著者のスタンス、評価のほうが好みであったので、今回は☆4とさせていただいた。
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