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投稿者:ナナカマド - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルから、
生々しい屏風・・・例えば人体の一部が素材になっているような、
そういう屏風の出て来るグロめのホラーかと思っていたので、
読んでみて意外でした。
なんというか、
とぼけた感じで少しもの寂しい、
ほんわりとした怪談でした。
紙の本
のんびり雪のように舞い降りたい・・・夏だけど(笑)
2009/06/25 12:59
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投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本ホラー小説大賞受賞作というからどんな恐ろしい作品かと思えば、ホラーのホの字も無いなんとものどかな作風である。
作風、だけではない。文章だけでもない。
時代は江戸かそこらだろうか?流れる時間の緩やかさ、妖たちの悠々自適な生き方、人間たちののんびりした立ち振る舞いと彼らの間に交わされる愛嬌ある会話。そして時折私たちをひきつけて止まない素朴で魅力的な料理の数々・・・
『しゃばけ』シリーズのように笑いや事件があるわけでも、魅力溢れるキャラが登場するのでもない。夢のような桃源郷や地獄のような修羅場があるでもなし、また事件というほどのものもおきはしない。
しかしなんだろう、この暖かな心持とファンタジーを読んだ直後のような不思議さは。
そもそもしょっぱなからして主人公の妖鬼・皐月は馬の首を寝床にしている。しかも起きるたびに「寝床」と名づけたその馬の首を落とし、這い出てから再びくっつけるというなんとも恐ろしい血みどろの冒頭だ。
しかし次のページを読み終わるころにはそんな面持ちはどこへやら。寝床を確保するために人間の押し付けがましい依頼も引き受ける皐月はどうにも頼りない。鬼とは名ばかり、額についている角は小さく髪に隠れてしまうほどだし、人を喰うわけでも人を脅かす妖力をもつでもない。根無し草であっちをフラリこっちをフラリと旅をして、ひょいと届いた手紙に誘われるままこの地の県境にたどり着き、そのまま守り神の役目を引き継いだ・・・なんらいわれがあるわけでもこの土地に思い入れがあるでもない。すべて成り行き任せの気ままなお話なのである。
そう、3章を通じていえること。それは人間であれ妖であれ、誰もが成り行き任せ、行き当たりばったり、のんびりのほほんとした贅沢な時間をもっているということだ。そしてそんなかにも少しだけ切なかったりちょっとだけ悲しかったりやるせないエピソードもちらりと見える・・・。なんといとおしく優しい物語だろう。
まず表題作第一章「生き屏風」に登場する恐妻ともいえる奥方の幽霊は生前とかわらぬズボラな態度で堂々と居ついている。もと夫に邪険にされ、たたられても困るから同じ妖同士、皐月があてがわれたというだけの話なのだが、交わされていくうちに少しずつあらわになる皐月と奥方の身の上話。饒舌にさせる酒につまみ。
そうしたものが少し現実離れしていて、それでいてするりとしみこんでくる・・・なんとも面白おかしい語りなのだ。
第二章に登場する男は何にも執着が無く欲も無い、ただ女好きはたいそうなもので皐月の前任者(猫の姿をした得体の知れない妖である)に、ひと時雪にして欲しいと頼み込む。ゆらゆらフラフラと風任せに舞い降りる雪となった男はあちらの女かつての女の肌の上に降ってはしみこんでいく快感にまどろんでなんとも幸せそうである。
人も妖も、何があるわけでもないのっぺりした日常をのんびり緩やかに過ごしている。時折饗される食事や酒はなんともよだれの出そうなほど美味しそうに描かれる。
「銀杏は大好物なので一番最後に、薄い皮を口の中で剥いでから、飴玉のようにして転がしながら噛んで食べる。白い飯には汁を注ぎ、ほぐした干し鰯を載せてからクチにいれる。酒をちろちろと舐めながら、長い朝食を終えて次郎はごろりと横になった。」 (本文より抜粋)
なんとも羨ましい限りではないか。思わずそうそう、それが美味しいんだよね!と膝を叩きたくなる嬉しさである。
彼らは私たちよりずっと寿命も短く不便な生活、つつましい生活をしていたに違いないが、私たちよりずっと優雅で悠久の空間と時間をもっているようにすら思えるのだ。
この世界では妖も幽霊も否定されない、そんな時代が確かにあったのかもしれない。
口の中に転がる銀杏一つに幸せをかみ締めてしまうくらい日々のささやかなことがささやかなままに幸せとして大事に転がされる時代。なんとなくうらやましくなるものだ。
紙の本
モノノケ・セラピー
2008/12/10 02:49
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投稿者:仙人掌きのこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
もしあなたが、心の中にひとつ隠れ里を持ちたいと願うなら、この「生き屏風」を読むと良いだろう。
日本ホラー小説大賞短編賞という肩書きや、そのタイトルから、おどろおどろしいイメージを持つかもしれないが心配御無用。確かに、死霊や鬼の子は登場するが、怨恨・復讐・暴力などとは無縁で、ひなびた温泉宿でのんびりとくつろいだような気分を味わう事ができる。日本むかし話とムーミン谷、そしてアリスが巡った不思議の国を混成したような理想郷がここにある。
それにしても主人公・皐月の人(鬼?)の良さは、読んでいて気の毒になるほどだ。初対面の相手からはまず容姿を褒められないし、村を災いから守っているのに尊敬もされていない。自慢のツノを見せれば「変わった色のこぶか、オデキにしか見えない」と貶され、片思いに悩む村娘からすら「頼りない」と罵倒される始末。それでも皐月は怒らない。
これは徹底した平和主義者というよりも、経験不足からどう対処していいのか判らない子供の態度だろう。人より寿命が長いからといって、精神が成熟しているとは限らない。皐月はまだまだ子供なのだ。それは食べ物を前にした時にはっきりする。「食べなくても飢えて参ってしまう事はない」存在のはずなのに、好物の梅の実や酒・西瓜に心を奪われてしまう。それらを食する時の無邪気さは、本当にほほえましい。
好物を喜び、人からの相談には不器用に、しかし真摯に向き合う皐月。読み進むにつれ、その素直さがどんどん好もしくなってくる。
田辺青蛙氏の作品に初めて接したのは、ビーケーワン主催の第四回怪談大賞だった。佳作受賞作の『薫糖』(てのひら怪談ポプラ文庫)にも鬼が登場するが、なにより「水あめで髪を練る」という発想の奇抜さと「日本のどこかに本当にある習俗かもしれない」と思わせる説得力が印象的だった。
その手腕は、「生き屏風」でもいかんなく発揮されていて、その代表的なものは「馬の首の中でねむる」と「雪に化身する」だろう。その強烈な、或いはつかみどころのないイメージを読者に追体験させ、しかも嫌な感じがしないという匙加減は見事だ。前者では血の匂いよりも胎内回帰の安心感を、後者では感傷的な心象風景ではなく若旦那の洒脱な遊び心を感じさせて、読後感が心地よい。
「生き屏風」「猫雪」「狐妖の宴」の連作の中で、時間軸を前後しながら浮かび上がってくる各キャラクターの物語。それらは思わぬ所でからみあっていて、何度も再読したくなる。そして、まだ語られていない空白の時間に思いをはせる。さいわい続編が予定されているそうで、その空隙を埋める事ができる日も近そうだ。それまで、しばし「布団」にくるまって待つ事にしよう。次回作へのさらなる期待を込めて、星をひとつ減らした。
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ペンネーム?も凝ってますこと。ジャンルとしてはホラーですが、帯にも書いてあるように、しみじみ泣ける人情モノに仕上がっています。まだ新人さんのようなので、あまり作品出てないようですが、他のも探してみたいと思います。
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ホラーというより昔話風のなにか。ホラーじゃないだろうこれ。言われてみれば「手のひら怪談」にこの名前があった気がする。
つまらないほどでもないですが全体的にあっさりしててもうちょっと。
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ホラーと聞いて、読む前に少し身構えてしまった自分が馬鹿らしい。
人ではないものがそこにいて、ただ生きている。人をどうにかしようなど、そのような思惑なく、人と微妙な距離感を持って生活をしている。
人でないものが人や同じく人でないものと会話をしている。確かにそこには各々の物語があるのだろうが、本としてはそれだけが内容だ。
しかし、それでも感じられる雰囲気はほんのりと暖かく、気付けば語り手の話を聞きもらさないように耳を近づけ、ところどころ首肯し、それでそれでと話を促している、そんな不思議な体験ができた。
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第15回ホラー小説大賞の小説中「庵堂三兄弟の聖職」と「粘膜人間」と本作とどれにしようか悩んだ末、
「庵堂三兄弟の聖職」は書評がどうも微妙だし、「粘膜人間」はサイコー!とのことだが、非常に描写がグロそうで読むのに勇気が要りそうなので
こちらを購入。
雰囲気的には夏目友人帳くらいのホラーさで程よかった。
主人公の妖鬼の性格描写が非常に人間味があって、妙に読みやすい。
3話あるうちどれも良かったが、やはり標題の屏風の話が一番好きかも。
最後のエピソード(オチ?)がすごく暖か。ベタかもしれないけどこういうのが好き。
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第15回の日本ホラー小説大賞短編賞受賞作。
ホラーといっても妖怪とかファンタジックな要素があるからそう分類されているだけで、別に怖いわけではなく、「癒し系幻想小説」とでも言うべき内容だった。人とつかず離れずの微妙な距離感で暮らす妖たちの日常。
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とくになにかが起こるわけでもないのでどういうことかと思いながら読んだが、孤独と友情について書かれているのだとわかった。
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ホラー小説大賞短編賞。ホラー、といってもあまり怖くはないです。どこかユーモラスでほんわかとした、メルヘンめいたお話。キャラクターもユニークで魅力的。これはシリーズとして読みたいですね。
やはり表題作が良いです。読んでいると情景が目に浮かぶよう。ラストの海のシーンでかなりしんみりとした気分になったのですが。この結末は良いよなあ~。ありうる結末だったのだろうけど、思いつきませんでした。
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「皐月はいつも馬の首の中で眠っている」
この書き出しで、掴まってしまった。
主人公は妖鬼の皐月。
県境で余所の土地から好くないモノ(病とか)が
来ないように守っている妖である。
この作品世界では、人が妖の存在を認めていて、
ほどよい距離を保ちながら生活している。
人と妖がそれぞれに振り返る思い出や想いは
淡々と語られながらもどこか滑稽で切なくて、
それでいて結末が優しい気持ちになれるのがいい。
飲み食いのシーンがもの凄くそそられます。
癒し系ホラー?というか「家守綺譚」のような
ファンタジーだと思う。
楽しませていただきました。
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ちょっと前に読み終わった本。
本屋さんでこの本の2巻の魂追いを見つけて、気になったはいいけど1巻読んでなかったので読んでみた。
ホラー文庫に分類されてるけど、全然怖いことはなくて妖怪だとかをテーマにしたほのぼのとしたお話で、グロいのが苦手な自分としてはすっごく助かった!
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ホラー大賞といいつつ、いわゆる恐怖やグロテスクさを売りにするホラーとは全くかけ離れた上質のファンタジー。淡々とした中にある儚さや切なさ、諦観はどこか『夏目友人帳』や『キノ』シリーズに通底するものを感じる。続編の《魂追い》が飛躍的に完成度があがった反面、輪郭がはっきりしすぎて一作目の魅力になっていた不安定な消えてしまって残念。表紙イラストも谷山彩子のイラストの方がフィットしていた。《生き屏風》と《猫雪》が秀逸。
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トンコ同様にどちらかというとホラーではなく純文学に近い雰囲気の話。
連作短編となってますが、どれも不可はない安定した感じでした。
人間と妖が共存する世界。屏風に取り憑いた女の退屈を紛らせてほしいと頼まれた妖鬼がその家に行き――といったストーリー。
妖怪が語る「妖怪の話」と「人間の話」。静かな空気で進んでいく中でその描写には瑞々しさがある。
個人的にはこれが一番好きな話でした。
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作者の名前、読めるかね? 私しゃ思いっきり「タナベ アオガエル」と読んでおった
シャレで付けた名前かの~とか思ったもんでの(ハハハハハハ)
どうやら京田辺市に在住し、蛙好きってことで決定したペンネームらしい
本来「タナベ セイア」と読むそうな~(笑)絶対に読めん!(ハハハハハ)
ちなみに…女性だそうな。
村はずれに人間に良く似た妖鬼の「皐月」が住んでおる。
村に悪い気や物の怪が入ってこないようにと、目を光らせておる。
ある日、村にある大きな酒屋から使いが来る。
「死んだはずの奥方が…あの世から舞い戻り、家の屏風に取り付いた」と言うのだ。
へ~~~~~~。そりゃ~見てみたい!っと思ったのは私だが…(ハハハハハ)
使いの者が「奥方の相手をし、退屈を紛らわせてほしい」っと頼んで来たのを
皐月は、ちょっと嫌がる。
村を守っているハズの「皐月」に対し、酒屋から来た使いの者は恐れる風もなく
また、あり難がる風もなく、むしろちょっとした「こずるい人間」を出してくる
「ガオ~~!」と脅して人間を撃退するかと思いきや
皐月は渋々と出かけて行くことにする。
死んだ奥方が、家の屏風に乗り移り「酒を持ってこい」とか「美味いもん食わせろ」だとか
あ~だ、こ~だと家人をこき使う(笑)
いっそのこと屏風を縄で縛って押入れにでも入れたらエエのに、とも思ったが
それが出来ない「家庭の事情」とかがあるらしい(笑)
さても妖しとしては若い「皐月」は、どうするんじゃろう??ってなお話しと
皐月の先任者であった猫に化けた妖怪が、人間の男に一瞬の夢を与えた「猫雪」
ホレ薬を作って欲しいと言う少女に、恋多き狐の妖怪を紹介する「狐妖の宴」
など、3編が収録されておる。
リズミカルでノホホ~ンとした文体に、怖さは微塵も感じられないが
そこそこ気持ちが安らぐのはナゼだろうか。
人と妖しがこうも巧く付き合える世界なら、少し参加してみたくなる(笑)
私が育った北海道の地にも妖怪は沢山居た。
元はアイヌ民族の伝承なので、日本語の妖怪という言葉が当てはまるかどうかは解らん
有名ところで言えば「コロポックル」。
アイヌの人達が北海道に移住してくる以前に住んでいた先住民族だったらしい
さて、それとは別に先に住んでいたアイヌ民族に疱瘡を司る神と共に訪れた我等和人。
沢山のアイヌの人々が疱瘡で死ぬのを見たアイヌの神が疱瘡神と戦い
最後の最後に打ち勝った神が、水死して生まれたのが「ミンツチ」と言う妖怪である。
私が育った地域の、そばに流れる石狩川に住んでいた。
形状はカッパと変わりない。北海道全域に広がる河童伝説の「祖」じゃないかと思う(笑)
豊漁も司るが、年に数人川へ引きずり込み水死させるので困ったもんじゃと考えた人々が
「もそっと、上流へ行ってくれねぇ~べか」とお願いしたところ
あっさりと上流へ引っ越してくれたそうだが、それと同時に魚も採れなくな��たらしい
確かに私が生まれた頃には「ミンツチ」は既に引っ越した後だったようで
生活用水に汚染された石狩川には、魚の影なんぞまったく居なかった(笑)
それでも川は氾濫し、年に数人死亡者を出していたもんで
上流にデッカイダムを作り、高い堤防も作り、生活用水を浄化し
私が成人するころには、人が溺れることもなく、シャケが遡上する綺麗な川となっていた
多分…世界中で一番信用の置けない私の父が言うことだから、まったく当てにはならないが
石狩川の堤防がまだ低く土で出来ていたころ
氾濫した川の様子を見に行った父が、川の真ん中あたりで濁流をものともせず
ボ~っと立っておる人影を見たとか言っておったことがある。
その後その人影は、ジャボジャボと川を渡り向こう岸へ渡ったかっと思ったら…
フっと消えたそうな。
バー様を筆頭に家族全員「そりゃアンタ。誰か溺れてたんだべさ」と考えたが
行方不明になった人は居なかったそうだ。
だいたい、河が氾濫しそうじゃっと聞くと…わざわざ危険な川へ出かけていく男性がおるが
こういう時こそ「ミンツチ」がテグスネ引いて待っておるのかもしれん(笑)
あんまし最近暑いもんで、川にまつわる妖怪の話をしてみたが…
はて、涼しくなったかの?(ハハハハハ)
私が育った頃は、既に妖怪の類は奥地へ引っ越してしまった後だったが
それでも時々は里へ現れておった(笑)
今、彼らは何処でどうしておるんじゃろう? なんて思っていたら
しっかりと人間に混じって会社経営しておる(ブワハハハハハ)
まさか、そんな会社に就職するとは思いもせなんだがの~~~(笑)