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ホンジュラス生まれのグアテマラ人。
グアテマラでの経歴は、
ホルヘ・ウビコによる独裁政権を文学界から批判
⇒独裁政権打倒後のアレバロ政権とアルベンス政権では自由闊達な民主的国家となりモンテロッソは外交官に就任
⇒反アルベンス派がアメリカの協力を経てアルベンス辞任によりモンテロッソはメキシコ亡命
ということの様子。ラテンアメリカ作家は政治情勢と切り離せない。
作品の特徴はブラックユーモア調でした。
この本は図書館で借りたのですが、予約の時「全集 その他の物語」というからモンテロッソの全作品が収録された分厚い本が来るのかと思っていたら13編入っただけの短編集だったから、おや?と思ったのですが、どうやらこういう題名のつけ方もモンテロッソらしいところみたい。
『ミスター・テイラー』
アマゾンのジャングルで貧乏暮らししていたアメリカ人のミスター・テイラーは、ある時原住民から”干し首”を手に入れたのです。なんとなしにアメリカにいる叔父さんにその首を送ったところ、叔父は干し首商売を始めました。
そこから二人は大儲け。そしてアマゾンのその国も大儲け。
国を挙げて死刑を増やし、他国に戦争を仕掛け首を作って作ってアメリカに売りまくったのです。
しかしあまりにも多くの人の胴体から首を切り離したため、もう干して売るための首がなくなってしまったのです…。
##まあこういうオチになるよね、という結末なのですが、
民主的国家だったグアテマラに、アメリカが政治的に商業的に介入していくことへの皮肉という作品、ということ。
『三人にひとりは…』
人は自分の話に興味深く耳を傾けてくれる友達が一番ありがたいと感じてきました。それが辛い話であれ、楽しい話であれ、ただただ自分の話を聞いてくれる友人を求めているのです。
今片端から友人を捕まえてご自分の失った恋の話をなさっているあなた、あなたにぴったりの場所を提供いたしましょう。
そこでは自分の話を聞いてもらいたい方々がただただお話をする場所です。遭遇した事故の話、家族を失った日の事を細部にわたるまで、それともかつての栄光を。
私たちはご自分の身に起きたことを延々と訴え、同情してほしいと訴える場を提供できるのですよ…。
『完成交響曲』
シューベルトの「未完成交響曲」の最後の二楽章が見つかった!
グアテマラの老オルガン弾きはこの世紀の発見を持ち颯爽とヨーロッパへ渡る!
しかし世間の反応は冷たい。「未完成交響曲が完成交響曲になることなど誰も望まないだろう?」
哀れ老オルガン弾きとシューベルトの二楽章の命運や如何に。
『ファースト・レディ』
もちろん喜んで協力いたしますわ。
貧しい子供たちへのチャリティーでしたら是非大統領夫人であるわたくしが詩を朗読いたしますわね。
白ぉ百合の様な心ぉーを持つぅ男ぉー
会場が小さいのではありません?それではチャリティーの募金が集まりませんわ。どうでしょう、もっと広い会場でわたくしがもっとたくさんの詩を朗読するというのは。
喜んで協力いたします��。
だって貧しい子供たちのためですもの。
##子供たちのためと言いつつ自分の虚栄心を満たそうとする大統領夫人。
後ろから頭をぱこーーん( -。-)=○としたくなるお話しその①(笑)
『日食』
ジャングルで原住民たちの生贄にされかけた宣教師は、その日が日食であることを利用して助かろうとするが…
##冒険小説お約束をひっくり返したおはなし。同じオチのアメリカの一コマ漫画を星新一が紹介していたな(笑)
『ディオゲネスよ、お前もか』
私の父はほとんど家にいなかった。帰ってくれば母と私に暴力を奮っていた。
酒で臭い息を吐きながら父は母を売女と罵り監視し、そして私を殴りつけた。
あいつは私の本当の父ではないと思いたかった。だがやはり私の父なのだろう。
あいつの言うことを聞いちゃいけないぜ。
俺の息子は嘘つきなんだ。
あいつの母はすでに死んでいた。
俺はあいつに三輪車だって買ってやったんだ。
こっそりポケットに隠し、そして取り出すときには部屋が三輪車で埋まるくらいに増えていたんだぜ。
##どっちが正しいのか、そもそも本当に複数の人間が語っているのかは不明。
『恐竜』
目を覚ました時、恐竜はまだそこにいた。
##…、…、…この短編を読み進め、このページを開いたときまさに目が点、且つ笑いが込み上げてきました。
スペイン語圏では有名な作品らしく、モンテロッソの名前は「世界一短い短編、恐竜の作者」といえばわかるくらいだそう。
しかしこんな話を見てしまたら(読んだ、でなく、見た)気持ちを切り替えて次の作品!という気持ちになれずこの日の読書はここで止めにしましたよ(笑)
『レオポルド(その作品)』
レオポルドはどこから見ても作家なのだ。話し方も考え方も雰囲気もまったくすべてが作家だった。
だから彼がまだ1作も書けずにいるからと言ってそれは彼が誠実で完璧を求めているからなのだ。
レオポルドは毎日図書館に行って調べ物をする、周りの人間を観察する、あらゆることにメモを取る、よく知らないことを書くだなんてそんなことはとてもできやしない。
犬とハリネズミが田舎で対決する短編を書こう、そう思った彼は犬について調べ尽くした。
そして気が付く、なんていうことだ!私はハリネズミの事を知らないではないか!
そもそも私が作家になったのは…そうだ、その話を書いてはどうだろう。
それには友達の医者の話が役に立つぞ。それななら医者について調べなければ!
そうだ、犬の話も進めなければ。そのためには田舎についても…
##後ろから頭をぱこーーん( -。-)=○としたくなるお話しその②(笑)
でももしかして、作家や漫画家さんたちには「分かるわかる」となるんだろうか(笑)
『コンサート』
ほら、私の娘が間もなく出てくる。
権力者である私の娘の初演奏に、新聞記者たちが集まっている。
もう間もなくだ。
そして明日の新聞にはお前への称賛の記事が並ぶだろう。
だがそのニセの称賛はきっとお前を苦しめるだろう…
『百周年』
オレスト・ハンソンは国で一番背の高い男さ。
彼自身が見世物となって国中を回ったもんだ。
だが彼の骨はあまりにも弱かった。
だからあんな死に方をしちまうとはなあ。
『みなさまを騙すなんて、できませんわ』
ご紹介いただきありがとうございます。
しかし申し上げねばなりません、わたくしはいまご紹介いただいたような大女優ではありませんわ。女優ですらありませんの。女優に憧れてはおりますが実際に演技をしたのは女学校での発表だけですもの。
でも大女優とご紹介いただいたのですからそうなるように努力せねばなりませんわね。
わたくしの欠点は意思が弱く飽きっぽいことですの。
でもここで誓います、今ご紹介いただいたような大女優にいつかきっとなって、そしてまたご挨拶にまいりますわ。
そのためにはトレーニングを行わなければ…
##後ろから頭をぱこーーん( -。-)=○としたくなるお話しその③(笑)
『牛』
私は確かに見たのだ。
自分の遺体を葬ってもらえず、おまえは本当にいい牛だったと言ってもらえず、心のこもった惜別を述べてももらえない、ただ道端に横たわっている牛の姿を。
##後ろから頭をはたきたくなるようなおしゃべりを読んだ後に、こういう短くも鋭い話が来るとドキッとしますね。
『全集』
フォンボーナ教授は文学研究家としての名声を得ていた。
彼は学生に合うテーマを探してさり気なくその道を示してやる。
しかし教授は、実に親切に実に丁寧に、自分がかつて叶わなかった夢を学生にも捨てさせるのだ…。