紙の本
今回は、「電気」に焦点を合わせた一作。これからが非常に楽しみな作家さんです。
2009/03/23 10:21
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:紅葉雪 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ウィズ・ゼロ」でデビューした福田和代さんの、長編二作目。
8月24日。東京に送電している送電線の鉄塔のうち、三か所が破壊された。これにより、東京は必要な電力の供給を受ける事が出来なくなった。
ただでさえ真夏の東京。必要な電力量は膨大なもの。
下手をすれば東京のみならず関東地方を含めた広範囲でブラックアウト(大停電)に襲われる。それを防ぐため、東都電力の職員たちは必死で動き始める。
だが、彼らを嘲笑うかのような事態が勃発……。
東京・関東地方を大パニックに陥れつつ、『テロ』の犯人たちの要求もなければ、声明もない。
いったい、犯人の目的は……?
自分たちは『電気はつくのが当然』の世界に暮らしている。
この本でも触れられているが、大規模停電で思い当たるのは、2006年の夏、旧江戸川でクレーン車による送電線接触事故が発生した時の東京・千葉の停電。
だが、「今もし同じ事故が発生しても、もう停電は発生しない」ほど、電力供給を支えるシステムは日々進歩しているらしい。
だからこそ。この日本では、この本の登場人物の言葉を借りるならば、「いつでも使えて当たり前だと思いこむほど、ぼくらは電気に生活を依存していた」ことになる。
その電力が、東京のみならず関東地方全域で奪われる事態となったら。しかも、いわゆる「テロ」という形で。さらに復旧にかかる時間が3日間との予測が出たら……。
当たり前すぎて見過ごしてきた根本的な問題についても、改めて考えさせられた。
「水」や「ガス」と違って、「電気」は貯蔵が出来ない……。
「電気」は発電と同時に使用(消費)されるので、「いま現在必要とされている量の電気を、発電する側で調整して作り出すという職人芸を要求される」のだという。
需要と供給のバランスが崩れれば、即座に停電。
その全需要を計算・推測し、電力の量を調整するなど、素人からすれば神業としか思えない。だがそれを現実にやってのけている人たちがいるのだから、どんな世界でも『プロ』は凄いと感心した。
さて、本作。
「ウィズ・ゼロ」で作者が見せた、綿密な取材を基にした、詳細な部分まで描く描写力は健在。
登場人物もなかなか興味深い設定になっている。
必死に電力供給を保とうとする電力会社の社員。犯人を追う警察。さらには犯人グループ。
まず電力会社のベテラン社員、中央給電指令所の千早。
ストーリーの始め、鉄塔が破壊されて電力供給が危うくなった時、社員たちは彼を中心に必死にそれを回避しようとする。そのシーンは恐ろしいまでに迫力があり、一気に話に引き込まれてしまった。その後も、何とか電力供給を保とうと策を練り走り回る姿は、『これぞプロ』。
刑事の周防。かつては新宿の刑事課で鳴らした猛者。今は家庭の事情で、比較的暇な署へと移動していた。彼が担当していたスーパーでの殺人事件と、今回の事件が絡んでくる。
この運命の日、彼の娘は事故で昏睡状態になり、病院に搬送されていた。しかもその事故は、妻が起こしたもの。妻は娘に対する虐待を、そして事故も故意に起こしたものではないかと疑われている。
そして何より。
娘の命を守るために、「電力」は絶対に必要なのだ。病院の自家発電は、もって24時間。それ以上「停電」が続けば、娘の命は……。私情であることは重々承知のうえ、彼は「犯人」の逮捕に全力を傾ける。
最後に犯人。実はかなり早い時点で主犯格の犯人が割れるのだが、ネタばれになる恐れもあるので、ここでは触れる事を差し控える。
だが、その犯人と組んだベトナム人青年たちも印象的だった。
コストダウンを考える日本企業が利用している『研修生制度』。実際には研修生とは名ばかりの、まるで奴隷のような扱いを受ける彼らが、日本に向ける目、日本人に対して募らせる憎悪には、心に訴えかけてくるものも。
『代わりはいくらでもいる』とばかり、どこまでも人間を使い捨ての駒・まるで機械の一部品のように考える企業や社会全般に対し、日本人の自分たちにも思う事は山ほど抱えているだけに。
登場人物がそんな魅力的な設定だけに、実に惜しいと思える点も。
物語の前半は、それこそ息を呑むような緊迫した場面が続き、話はぐいぐい進んでいく。それだけに余計、後半の犯人の行動や、周防をはじめとする警察が犯人を追っていくシーンなどが、やや単調で「パワー不足?」の感も。
最後に。
福田さんの第一作目「ウィズ・ゼロ」を読んだとき、なかなか好みの作家があらわれた、という感想を持った。今回の「TOKYO BLACKOUT」もそうだが、作家で言うなら、服部真澄さんや福井晴敏さん、真保裕一さんを彷彿させるところがある。
さらに。「TOKYO BLACKOUT」は前作より読みやすい作品に仕上がっていた。
今回は星四つをつけたが、福田さんの今後の作品を非常に楽しみにしている。
いずれ必ず、「完敗です。ノックアウトされました」という作品を書いてくれる事は間違いないと感じているから。
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電力テロにより、首都東京が大停電に見舞われる―――
ドキドキ・ハラハラ感にあっという間に読了。
電力会社が舞台となるため、専門用語も多く、少し難解なところもあるけど、2年前の旧江戸川の送電線切断事故と比較して書いてあるため、実際にあの停電を経験している人間にはリアル感がたっぷり伝わってくる。
実際に東京が停電に陥った場合、自家発電機能を備えている病院や大きなビルでも、24時間が限度だそう。
「自家発があれば、安心」と勝手に思っていた自分の甘さに反省。
もちろん、電気のない生活なんて考えたこともないし・・・
物語自体、楽しめるだけではなく、私達の実生活から電気がなくなったら・・・?
そんなことを真剣に考えさせてくれる傑作!
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突如起こる「東京大停電」テロ。
非常事態に追われる電力会社や警察。
犯人の目的は!?
久々に読み応えのある本を読んだー。
徹底した取材からこの骨太感が生まれるのかー。脱帽。
スピード感溢れる展開に一気読み。
そしてラストはダダ泣き…w
イヤ。面白かった…
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なるほど、パニック小説としては確かにうまくまとめられていて、登場人物もまさに適材適所だとは思うんですが、電力会社の面々にしても、結局ただ単にそこにいただけで何ら積極的な対策を打てないままでしたし、主犯の動機の弱さとか外人グループの末路には若干の違和感を感じました。「次はがんばりましょう」ってとこですかね。
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日々の生活は電気に依存しているはずなのに、停電によってパニックになる人々の大変さが余り感じられない。
事件を起こす背景も切なさは感じられるが、それでここまでのことを起こしてしまうという設定にもムリがあるのでは!?
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東京から電力が消える!! という普段あまり考えなかったテーマと
その電力に関わるスタッフ達、そして、電力供給に関わるその
描写など、説明パートになりがちな部分も上手く読ませてくれます。
面白いです。
本当の夜の暗さを知らないまま、自分jはこのまま生きていくんだろうか?
ただ........犯人の本当の動機とこの事件との結びつきの説得力が
やや弱くないスか?
犯人の人物像と動機は結び付くんですが、その為にこの事件との
繋がりが残念ながら、ピンとこないです。
スゲー面白いのに....惜しい!
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2009/1/27〜2009/2/14
「このミス」で存在を知って以来、読みたい、読みたいと思っていた。
設定はすごく面白そうで期待大であったが、期待が大きすぎたのか
あまりよくなかった。
設定、デティールは良いのだが、ストーリーがイマイチというか、
作家がキャラクターや設定を自分のものにできていないように感じた。
発想、着想が面白いので、今後に期待したい。
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取材力が素晴らしいそうですが、停電に至る設定はとても現実感があって
とても素晴らしいですね。
ただ、停電の仕組みの拘りに反して、停電のパニックについては描ききれていないのか粉気のテーマでないのか、現実感の無い感じを受けました。
もっと都民はパニックになるのではないでしょうか?
また、犯人の動機と犯罪の内容のギャップがなんとも納得がいけないです
とはいえ、とても楽しめました。
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犯人に共感できないところはあるにせよ、一方マンガのキャラクターにはよくいるタイプと思うとまぁいいかなろ。それはともかく、周りの人たちの活躍にとても引き込まれる。特に電力会社の人たちの描写には、東北大震災からこっちの東京電力への風当たりの強さを思い出すと、少し考えさせられるものがある。
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午後7時、信濃幹線の鉄塔爆破。午後9時、東北連系線の鉄塔にヘリが衝突、倒壊。最後の希望が砕かれたとき、未曾有の大停電が東京を襲う! すべてを操る犯人の意図とは? 弩級のクライシス・ノベル。
多くの人物を描くことで物語を展開する手法はよくあるけれど、人物描写が希薄だと「この人、誰だった?」となってしまう。本作がそんな感じだった。
(D)
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日本の電力の配電の仕組みがよくわかる。ややこしいけど。犯罪の壮大さの割りに動機がちょっと私には理解し辛かった。でもストーリーはスリリングで楽しめました。
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鉄塔が爆破され東京は闇に包まれた。
いや、もっと深刻な電力不足となるのは明日の日中だ。
さらに電力制御システムにも異常が見つかり、
このシステムを開発した安西が行方を眩ました。
電気の回復に心血を注ぐ電力会社の社員たち。
ICUにいる娘のためにも安西を必死で探す周防。
故郷に戻るための資金を集める外国人労働者たち。
混乱の続く東京で安西の真の目的とは。
カバーデザイン:岩郷重力+WONDER WORKZ
東京総停電という大規模なテロなのに
電力の復旧と犯人探しに焦点が絞られているため
市民生活の混乱があまり伝わってきませんでした。
真夏に24時間以上電気が止まればどうなるのか、
考えただけでも恐ろしいです。真冬の方が怖いかも。
爆破の実行犯が必要だったとはいえグエンたちのエピソードは
なくてもよかったような気がします。
そして婚約者の仇を討った安西ですが
巻き添えになった酒井の婚約者のことを知ったらどう感じるのだろう。
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ちゃんと取材して勉強はしているのだが,単位や数値が間違っている部分もある。
犯人が○○だから可能なストーリーだし,送電鉄塔倒すためにヘリコプターは不要だし。
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この本を読んで1ヶ月もしないうちに3/11の大地震、それに続く計画停電・・
原因はテロと災害で違うが、電力不足による大規模停電=ブラックアウトを回避するために輪番停電を行うとニュースで聞いたときには、本書により電力供給のシステムを把握できていたので、すんなり理解することができた。あまりにもタイムリーな内容で驚いたが。
本の内容に関しては、もっと登場人物ひとりひとりについて掘り下げたら話に厚みが出たように思う。
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タイトルに惹かれ手に取ってみた一冊。
東北で大地震が起きて原発が停止し、送電量が落ちたところへ鉄塔(送電線)へのテロが起き、輪番停電を余儀なくされるも、テロリストはその先まで読んでいて、大停電に陥るといった話。
今回の大震災と重なるところもあって停電するまでは引き込まれはしたものの、後半にあたる停電後は正直物足りない。
しかし、テロリストのひとりがなんのために大停電を起こしたのか、ということが綴られているラストの部分(読んでいる途中でその理由がわかってしまうものの)はロマンチックで嫌いじゃない。
が、事実(真実)は小説よりも奇なり。
今回の大震災があまりにも深く心に刻み込まれているが故に、小説がとても薄っぺらく思えてしまった感は否めない。
きっと、震災前に読んでいたらもっと違った印象だったと思う。