紙の本
将軍綱吉とその僚友側用人柳沢吉保の視点をつうじて松の廊下刃傷事件を解明
2009/05/04 19:42
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あまでうす - この投稿者のレビュー一覧を見る
「此間の遺恨、覚えたか」と叫びながら、浅野内匠頭はなぜ上野介に刃傷に及んだか。「此間の遺恨」とは何か。著者は主に五代将軍綱吉とその僚友側用人柳沢吉保の視点をつうじてこの松の廊下刃傷事件を解明しようとしている。
元禄14年当時の彼らにとって最大のテーマは、綱吉の母桂昌院の従一位授与問題「桂一計画」であった。栄耀栄華を極めた京堀川の八百屋の娘を史上最高の官位に就け、愛する母に死土産として贈りたい。この綱吉の悲願を達成するために、柳沢吉保が朝廷に対する折衝と政治工作のために特命を授けて送り込んだのが吉良上野介であった。
ところが先祖代々朝廷贔屓で知られる浅野家は、親しい関白を通じてそのような朝幕間の内部事情に通暁しており、こうした幕府の理不尽なごりおしに反発を懐いていた。
そしてたまたま朝使饗応役に任じられた浅野内匠頭の前に吉良上野介が登場し、「桂一計画」において自分が担っている大役を誇らしげに漏らした。そのとき、内匠頭が何らかの否定的な発言を行ない、それに対して上野介が武士のプライドを傷つけるような種類の発言を行ない、堪忍袋の緒を切らせた内匠頭が斬りつけた、というのが著者の解釈である。
当初仇討に否定的であった内蔵助はこうした朝幕間の醜い争いを外部に漏らすことなく恨みを呑んで刑場の露と消えた内匠頭の真意を知ってはじめて討ち入りに立ちあがる。それは主君への私怨をはらすのではなく公儀への異議申し立てであった。
いっぽう吉良上野介の朝廷への働きかけが不成功に終わったことを知った綱吉と吉保は、上野介の限界を悟って別のルートから猛烈に運動し、桂昌院の従一位授与問題は討ち入り寸前に成就する。 松の廊下事件が喧嘩両成敗ではなく一方的に浅野内匠頭に不利な裁きであったことから反発する世論をなだめるために、綱吉と吉保は、赤穂浪士の策動を隅々まで熟知しながら上野介暗殺を許したというのである。
まあこの説が嘘か本当かはにわかに断定できないが、従来悪人とされてきた綱吉と吉保の功罪を洗い直し、彼らの暦や貨幣改革とオランダによる暴利の追及、さらには家康が福島正則に書いた密書の行方など数々の派生的エピソードにいそいそと言及している点も思いがけず楽しめる。
赤穂浪士の吉良邸討ち入りは綱吉と彼を裏面操作した側用人柳沢吉保の陰謀である、というのは、この間読んだ秋山駿著「忠臣蔵」と同じ結論であるが、この本の引用は、ほとんど福本日南の「元禄快挙録」と徳富蘇峰の「近世日本国民史・赤穂浪士」の二著に依存していたために、そのくわしい実証的な説明はなかった。本書では、その渇を存分に癒すことができるだろう。
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今まで観た映画や芝居のストリートはまったく違った視点にワクワクドキドキして読み進む。作家・加藤廣氏の著書はすべて読んでいるけど、本当に面白い。果たして映像化されるかどうか? 次回作はどのようなものか? さらなるワクワクドキドキである。
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週刊誌は本来文春派なのですが、この連載のために新潮を購読してました♪
「これが赤穂事件の真実だ!」などと思いはしませんが(笑)
作品としては十分に面白かったです^^;
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浅野の殿は、幕府に殉じて果てたのだ―。
浅野内匠頭が最期まで秘匿した事実は、幕閣・柳沢吉保を震撼させた―。
朝幕の紛争・喪われた密書の行方…日本人は三百年間騙されていた!
『信長の棺』を凌駕する、壮大な歴史ミステリー。
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将軍綱吉の母・桂昌院に従一位を取らせる「桂一計画」の使者として朝廷との往復を重ねるも遅々として進まぬ吉良上野介。
綱吉たってのこの望みを叶えるべく頭を悩ます側用人・柳沢保明(吉保)は、同時にその存在すらあやふやながらも、真実であれば徳川幕府の消滅にもつながる《神君密書》探しにも躍起になっていた。
密書が真に存在するとすれば、大いにその鍵を握るであろう浅野内匠頭は、年中行事の勅旨を迎える接待役を持病を理由に断ろうとする。持病は神君密書が原因で起こり始めたのではないか――。
保明が穿った見方をしつつ様々に思いを寄せている中、勅旨を迎える当日、当の内匠頭が殿中にて吉良に斬りつける事件が起こる。その原因の不透明さはもちろん、本来刺す用途の小さ刀で斬りかかるという内匠頭の異常さ、背後から襲ったという武士にあるまじき行為などが浮き彫りになる中、何よりも衝撃的な報が保明を揺るがす。
――朝廷勅旨登城時間繰上げ。
内匠頭の刃傷事件が公家たちに丸見えだったということではないか!!
そして、時間繰上げは吉良の独断によるものとの情報が入り、吉良への怒りがこみ上がる保明。同時に、公家たちは内匠頭による刃傷事件を予見して傍観のために時間を繰り上げたのではないかという疑念も浮かぶ。
一方、殿中での刃傷事件の責任をとって内匠頭が即日切腹させられた報に、蜂の巣をつついたが如くの赤穂藩。
激昂する藩士を尻目に主君の本意を探ろうとする大石内蔵助。内匠頭が吉良に抱いた「遺恨」とは一体何なのか――。
(2009/3/9 読了)
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「信長の棺」「秀吉の枷」「明智左馬助の恋」と続く、加藤廣の新作
毎回なかなか良く出来ており、感心する。
「温故知新、すべての問題も解答も、我々の歴史の中に隠れておりまする」
忠臣蔵の謎はいかに?
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江戸時代、忠臣蔵ってあまり興味がなくて手がでなかったが、作者につられて読んでみると・・・案外読む手が止まらなかった。忠臣蔵そのものを詳しく知らないが、印象と違って複雑に入り組んだ事情のあるミステリーな事件なのだなと感じた。
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柳沢吉保の視点で忠臣蔵の展開をみるという点では面白い趣向で読み進めました。上巻の段階での大石内蔵助の描き方は、まぁ無難な感じですかね。下巻が楽しみな終わり方になってて良かったです。
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加藤廣さんの作品ということもあり、どんな忠臣蔵を描いてくれるのかと期待して読み始めました。やはり今までの忠臣蔵とは違う!下巻が楽しみです。
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柳沢吉保の視点からスタート
内容忘れた
一年半ぶりに読み返す
忠臣蔵はやはり大好物
神君の秘められた約定が全ての原因だったのか
痞(つかえ)の発端は9歳で、幕府の秘密に触れたが
原因だとすれば・・・そして、発動した原因は朝廷を
ないがしろにした高家吉良上野介の態度であるが
表ざたにするのも天皇をないがしろにすることになる
ジレンマに病気の中であるにも関わらず従容と死に
向かった主君の気持ちに気がついた大石
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歌舞伎やドラマだと討ち入りに向かう浪士たちの心の動きがメインになりますが、『謎手本・・』ではあくまでその謎に焦点をあてている・・感情に押し流されるのではなく冷静に現状を見つめる2つの目から(大石 柳沢)話しが進められていきます。そのせいでしょうか小説・・と言うよりは「その時歴史が動いた」っていうテレビ番組を活字で読んでいる感覚でした。(笑)小説の中にいきなり作家目線の文章が出てきたりするので小説読みはちょっと戸惑うかもしれませんが慣れればOKです。(再現ドラマの後の松平さんの解説みたいな・・感じ?)私はちょっと読むのに手こずりましたが 忠臣蔵をよく知らない人でも楽しめる本だと思います。
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著者が挑む忠臣蔵の謎解き。側用人・柳沢吉保へスポットを当てて、対朝廷政策、浪士びいきの世論の醸成など、事件の背後で操っていたという説をとる。
どこまで史実か不明な点と人物描写であまり感情移入できなかったが、忠臣蔵の背景を推理した点は興味深かった。
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<新潮社の本書紹介文から>日本人は三百年間騙されていた! 『信長の棺』を凌駕する壮大な歴史ミステリー。その朝、勅使の登城はなぜ早められたのか? 将軍側近・柳沢吉保の胸中に兆した、微かな疑念。背景に浮上したのは、朝廷との確執と、喪われた密書。動機を語らず切腹した内匠頭の真意とは――。これは幕府と朝廷の情報戦争だ! 元禄赤穂事件の謎を解き明かす国民文学・忠臣蔵の決定版。私が歴史に弱いこともあるが、本書の内容は歴史的事実として鵜呑みにしてしまいそうになるほど、よく練られていた。幕府と朝廷の情報戦争という、著者・加藤廣さんの視点から語られる物語は、興味深いものだった。浅野内匠頭の起こした刃傷事件にはそれなりのわけがあるはずであり、その謎を加藤廣さんなりに推理したのが本書である。忠臣蔵の物語は映像では観ていたが、本で読むのは初めてだった。深い考察は本だからこそなのかと、読書の良さを思った。
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最新作の「空白の桶狭間」を読んだのですが、その時に、この本がすでに書かれていたことに気づきました。今回は、本能寺の変に引き続いて、「忠臣蔵」にまつわる事件をベースにした小説です。このレビューは小説の中で触れられている、当時の経済・歴史の秘話等を垣間見ることができる内容を中心に、気になったことを抽出しておこうと思います。
以下は気になったポイントです。
・家康が関が原の戦い時に、家康が福島正則に与えた保障として、「秀頼を地方大名として残さなかった場合には、その誓書の持参者に江戸城を明け渡す」という内容を記述したものがあった(p36)
・当時の官僚である目付は、徒頭・小十人頭・御小姓からの、先輩目付の投票により選ばれ、若年寄の認可を経て就任する、年功序列とは全く異なる実力主義のシステムであった(p62)
・綱吉時代の銀換算700貫は、金換算すると、9300両となる(p127)
・当時の大名が直接抱える藩士は、平均して禄高の3厘(0.3%)以下であり、赤穂浅野家(公称:5.3万石、塩収入入れて6.5万石程度)の場合は150人程度、それに対して実際は200数十人であったので多い(p129)
・内蔵助が会得した剣法(東軍流)は、最初から相手の絶命を狙うことを意図せず、もっぱら耳・指・腕・脚を切って相手の戦闘意欲を失わせることにある、剣が刃こぼれすることもなく、何人相手にしても戦闘能力が落ちない、やられた敵が生きているため、僚友は放置するわけにもいかず、さらに戦闘能力は下がる(p270)
・女一宮(将軍家光の姪)を次期天皇(明正天皇)にすることで、女帝は夫を持つことがないため、徳川の血統を一代で終わらすことに成功した(p312)
・旧来の「宣明暦」は862年に唐からもたらされていたが、800年間において誤差を生じていた、それを日本向けに工夫したのが「大和暦」で、織田信長が変更しようとしてから102年後の1684年に採用された(p321)
・秀吉は、金(慶長大判、小判)を褒美にあたえる「見せ金」として、流通には、銀と銅を使う、二重貨幣政策を採っていたが、家康はこれを理解できず、生活貨幣に金を混ぜるという愚を犯してしまった(p335)
・元禄小判発行による慶長小判との出目(金の差額利益)は、5000万両(3兆~5兆円)に及んだので、綱吉も四代の家綱同様に浪費を続けることができた(p336)