紙の本
本格ミステリーとしても青春小説としても一級品の上質な作品。出来れば2度読みたい。
2009/03/14 20:35
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トラキチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
このミス7位作品。
メインとなる舞台は1952年の神戸・六甲。
東京で暮らす14歳の寺元進が夏休みに古い父の友人である浅木の別荘に遊びに来たことから始まる。
そこで浅木の息子で進と同じ年の一彦と別荘近くの池に遊びに行った時に運命の出会いが起きる。
美少女(という表現あったかな)でヒロイン・香との出会いである。
その後物語は進の父親が登場する過去(戦前)のベルリンの話に遡ったりで、読者としたら現在(1952年)とどういった関連性があるのだろう、そして現在の恋物語はどうなるのだろうと、ほとんどの読者が二つのことを同時進行形で考えながら、どっぷり読書に嵌ることを余儀なくされるのですね。
主人公と言っていいだろう、進の視点が初々しくて爽やかである。
拙い日記形式で冒頭が語られていてこれはかなり成功ですね。
彼の物語全体を支配して豊穣な雰囲気を醸し出している。
それと作者の文章の上手さは確かで保証しますわ。
瑞々しい筆致がたまりません。
本当に1952年の世界に戻ったような気分にさせられます。
読みながら二つのことが気になるのですね。
まず、淡い恋心の行方。
現代小説では味わえない純真無垢な部分が巧みに表現されてます。
読者はどうしても進に肩入れしちゃいますよね。
あとはミステリー部分。これは読んでのお楽しみということにしときましょうか。
凄くミスリードしてますのでご注意を、流し読みは禁物です。
詳しくここで語れば興趣をそぎますが、一言“六甲の女王に騙されるな(笑)”
--------------------------------------------------------------------------------
私的な読み方としては、まずは前述した主人公・進の“純真な恋心”に背筋を伸ばさざるを得なかった点。
逆に香やベルリン時代の真千子に代表される“女性の不幸な部分”にゾクゾクと来た点。
両者のコントラストが凄いと思ったのですね。
ちまたで言われてるミステリー部分も確かに凄いのですが、それよりも女性達の凛として生きているところに感動。
健気にかつ一生懸命生きている姿が胸を打つので、ラストで香の近況が語られるが、彼女が真千子のようになって欲しくないなと思って本を閉じたのであるが、旦那があの人なんで大丈夫だよね。
自分に言い聞かせてます(笑)
こう言った読み方された方他にいるかなと思ったりするのであるが、それほど個性豊かにかつ魅力的に描かれているのですね。
時には謎めいて、でもかわいい少女ですわ香は。
ちょっと変わった結論かもしれませんが、それは本作と同じでご容赦を(笑)
私的には香がタイトル名のように“黒百合”的な生き方をしてないことを願って本を閉じたのである。
何はともあれ、とにかく楽しませてくれた作品です、満足満足。
特に関西人のかた必読かも、関西弁が心地よいですわ。
投稿元:
レビューを見る
カバーのそでに「文芸とミステリの融合を果たした傑作長編」とありますけど、さほど文芸臭もない普通のミステリ。見事にだまされましたが、カタルシスは今一歩か?
投稿元:
レビューを見る
4・5点。
読後、「ああ! このやり方があったか!」と唸ってしまいました。文章の雰囲気も良かった。
投稿元:
レビューを見る
「六甲山に小さな別荘があるんだ。下の街とは気温が八度も違うから涼しく過ごせるよ。きみと同い年のひとり息子がいるので、きっといい遊び相手になる。一彦という名前だ」
父の古い友人である浅木さんに招かれた私は、別荘に到着した翌日、一彦とともに向かったヒョウタン池で「この池の精」と名乗る少女に出会う。
夏休みの宿題、ハイキング、次第に育まれる淡い恋、そして死―一九五二年夏、六甲の避暑地でかけがえのない時間を過ごす少年たちを瑞々しい筆致で描き、文芸とミステリの融合を果たした傑作長編。《・・・「BOOK」データベースより》
2009年版「このミス」第7位、というコトで興味を持ち、初めて手にした著者作品。
「このミス」に選ばれた作品故、もちろん“ミステリー”なんだろうなぁ・・・と、
しかも、「このミス」自体に目を通していたから、
『騙されんぞ!!!』の意気込み満々で読み始めた。
前半・・・『どこがミステリーぢゃっ!』と思われる内容と文体。
昭和の時代の1人の少女と2人の少年のひと夏の甘酸っぱい「恋物語」で、
ともすれば、ムズがゆ〜い感じ。
が、挫折どころか、なんだか心地よくページが進む。
ひたってばかりはいられない。
どこかで何かが起こり、伏線はしかけられているはず!
と、しっかりと読み込みつつ、進めたさっ!
中半以降・・・出てきたよ。
さぁ、ひっかからないように、ページを行きつ戻りつ・・・
最後の数ページ・・・
ありゃ、どうも様子がおかしい。
この男?→いえいえ、こっちの男か?→いや、この女だね!
考えつつ読み進んだはずなのに、
ノーマークなあの人だったわよ!!!!!
衝撃っちゃ、衝撃だね。
あ、でもね、この作品、最後まで、いわゆる【真犯人】は
名指しされてないよ・・・たぶん。
きちんと読めば、ちゃ〜んとわかるようになってるけど、
「こいつだ!」とか「お前だ!」
みたいのは無い。
筆者の意図であろうか?
読後はタイトルにも納得。
こちらも、中には「意味不明」とおっしゃる方もいるかもね。
全体の雰囲気(3人の恋について)に酔いしることができ、
ミステリーの要素も織り込まれ、
堪能できた1冊でした。
《2009年1月10日 読了》
投稿元:
レビューを見る
久々の だ ま さ れ た !!!!!!!
こんなに上手くだまされたのは「葉桜」以来です。
読了後、タイトルをみると本当にうわあああああだまされたあああああ!
すべてわかるとおもしろさがわかる本ですね。
投稿元:
レビューを見る
夏休みの絵日記を読んでるような感覚。筆致は特に癖もなく、さくさくと読みやすい。ストーリーそのものが単純だし、閉鎖的な空間で特定のキャラしか登場しないため、寄り道も脱線もなく最後まで一気に読了した。
「文芸とミステリの融合」というキャッチコピ−らしいが、正直この手のフレーズはもうやめてほしい。本作品にしても、どのカテゴリに分類していいのやらしばし悩んだ。結局どこにも属さないということで「本格」扱いにはしてみたが、決して本格ではない。着地点だけで本格と言えるなら、本家の作家が可哀想な気もする。その唯一のミステリ要素──ラストのサプライズにしても、規模は小さくそれほどのインパクトはない。むしろ荒技でもって無理矢理ねじ伏せたようで、後味も微妙に悪い。どこからでも自由な展開が拡がりそうな設定だけに、過剰な期待をした私が悪いのかも。作者久々のミステリということらしいが、これを期に少しずつ量産してもらいたい。
投稿元:
レビューを見る
しまった。
時間掛けて少しずつ読むんじゃなかった。。。
じわじわと読んじゃったもんだから、じわじわと解っていくペースと合っちゃって、逆につまんなくなってしまったような?
結局騙されたんだけど、静かな話すぎて「あら、そうか」みたいな。
でも、結局これで全て解決しているのか??
相関図書いたけど、いまいち自信がない。。
誰か、私に解説を!
投稿元:
レビューを見る
13歳の夏休み。東京から父の友人宅・六甲山の避暑地へ招かれた寺元進、そこには進と同じ年の浅木一彦がいた。そしてまた近くに住む、お金持ちの倉沢香と出会う。
ほとんどが、進の日記の思い出、進・一彦・香の過ごした日々、淡い恋心…嫉妬…友情からなる青春物語。
その間に、進と一彦の父が若かりし日にベルリンで出会った不思議な女性、相田真知子とのエピソード。香の叔母倉沢日登美の青春時代の鉄道員との恋が織り込まれている。
小芝翁・六甲の女王・日登美の旦那・香の継母・運転手・香の叔父
彼らの持つ謎に一生懸命になるも、この何の脈略もない3編がどう繋がってミステリなのか!
「なんか大事な部分を拾ってないのじゃないかしら?」と不安になるほど。
ミスディレクションが巧です。
そうして、ラストで一気に解決するのだけれど、探偵物でもないので「この事件の真相はこうでした。」と云うのがない。読みきって一人「なるほど!やられた。」と、また振り出しに戻って読み返してしまいました。
情景や人の描写が、難なく昭和初期の古い映像を思い起こさせるキレイな仕上がりだと思います。苦手な関西弁も品があってキレイでした。
投稿元:
レビューを見る
う〜ん。激賞されてたので借りてみました。う〜ん。どうかな。後半色々伏線を解きすぎでは?前半の戦時中のベルリンのエピソードが映像を見るようだったのでもっと書いて欲しかった。日登美さんが好きだったのはだんなさんじゃないのね??
投稿元:
レビューを見る
ラストが衝撃らしいと騒がれていたので読んでみましたが…う〜ん; どう繋がっていくのかという物語は興味深かったですし、ラストで納得はするのですが、自分の中で「どれほど意外な結末が?!」とか期待し過ぎていて今ひとつでした。(2009.03.17読了)
投稿元:
レビューを見る
戦後の六甲山で夏休みを過ごした少年の日記をベースに物語は進んでいく。
途中、戦前のヨーロッパでの出来事に場面は変わり、古い日本映画とヨーロッパ映画を同時に見ているような不思議な気持ちになる。
物語自体は淡々と進められ、特に盛り上がる場面もないが、最後にはどんでん返しが待っているので、最後まで読んでいても、全然損した気分にはならない作品。
投稿元:
レビューを見る
多島さんお初の作品です。
かねてから気になっていたのですがやっと読むチャンスができました。
少年少女の思い出の話と匂わせて・・・・。
読み直したらびっくり!!!
これはしっかり読んだほうがいい・・。
しかも題名が。。。
もーとにかく一度読んでこのびっくりを味わってくださいませ。
投稿元:
レビューを見る
時代設定が戦前戦後なのがちょっと特殊かな。
夏休み、六甲の別荘を訪れた少年、少女が出会うという文学要素にさらにはミステリーも、ということですが。
びっくりしたよ、確かに。
投稿元:
レビューを見る
1952年、夏、父の友人である浅野さんの別荘で過ごすことになった私(進)は、
その時14歳だった。その別荘には、同い年の一彦がいて、
2人でひょうたん池へ遊びに出かけた時、香という少女に出会う。
そんな3人の夏休みが、美しく鮮やかに描かれている。。。
あれ?これは、たしか。。。ミステリーだったはずだけど。。。?
と読みすすめると、確かに人が殺される。。。
でも、それほど、この物語に重要な殺人でもないようで。。。
このまま、ただの青春小説で終わってしまうのかと、
ちょっとがっかりしつつ、ラストへ
が。。。。!
ラストで・・・ん?・・・・あれ?・・・・えーーーーーっ!?
まさか、そんなことが!?
思わず、もう1度、最初からパラパラと読み直すと、
確かに。。。
さまざまな伏線がはられていたんだわ〜!
ちっとも気づかなかった。。。
まんまと作者に騙されました〜!
さあ! 我こそは、絶対騙されないぞ!というミステリー好きの貴方!
心して、お読みくださいませ。
投稿元:
レビューを見る
ミステリーと文芸がうまくかみ合った、しっとりとした読み心地でした。
中学生の淡い恋物語を中心に、戦後すぐのブルジョア生活や、六甲山の自然が飾り気のない簡潔な表現で書かれています。
謎の女が意外なところで出現して、ちょっぴりミステリーチックですが、全体は文芸色が濃いです。
久しぶりに、気持ちがふんわりと落ち着く本を読みました。
少年が喫茶店でバヤリースを注文するあたり、アラウンド50にはたまらなく懐かしくなる感じです