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みんなのレビュー156件

みんなの評価3.6

評価内訳

155 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

ゆっくりと頁を捲りながら、共に半生記を生きてしまった。

2009/02/11 03:48

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:田川ミメイ - この投稿者のレビュー一覧を見る

最後の一行を読み終えたとき、思わず、ああ、と声をあげた。そのまましばし茫然として、ひとつ深くため息をつき、ようやく本を閉じたのだった。

上下2段組で、565頁。大作である。「初出」を見れば、2002年2月~2007年8月。5年半もの歳月をかけたこの小説は、1971年2月の博多駅、17歳の寺内茉莉が「駆け落ち」する場面から始まる。といっても、家出することも男と一緒だということも、親は既に承諾しているという。だから、さほど劇的なオープニングという訳でもない。むしろ、ひとり娘の駆け落ちを「止めても無駄だと分かっているから」了承してしまうなんて、いったいどんな家庭なんだ、と、そのことに気を取られていると、まるで答えを差しだすかのように茉莉の回想が静かにゆっくりとはじまっていく。

ガーデニングが好きで「緑色」が好きで、どこにいくにも『鮮やかなオレンジ色の口紅をさし、胸をはって歩く派手好きな母親』、「喜代」。『大学を終の研究室と思いさだめ、以来、見事に出世競争からはずれた』という父親の「新(あらた)」は、愛妻家で穏やかな紳士だ。幼い頃から人並み外れて聡明で大人びた兄「惣一郎」を茉莉は誰よりも頼りにし、彼に対する信頼や尊敬は、ほとんど「信奉」とも言えるようなものだった。その惣一郎と一番仲の良かった「祖父江九」は隣家に住む正義感にあふれた真っ直ぐな少年で、幼い頃の惣一郎と茉莉と九は、いつもどこに行くのも一緒だった。

群れることが苦手で、嫌なことはしたくない、という茉莉は当然ながら学校に馴染めない。そんな茉莉に向かって惣一郎は「チョウゼンとしていればいい」と、事あるごとに静かに言うのだった。その惣一郎に守られて過ごした幼い日々から、駆け落ちをするこの日までのあいだ、茉莉の家族にはいくつかの大きな事件が沸き起こり、それが彼女の人生を揺さぶり始める。だからこそ茉莉はチョウゼンと自分の人生を歩いていこうと、住み慣れた町を離れて、東京へ向かうのだ。

人と群れるのは苦手だけれど決して「人嫌い」ではない茉莉は、いくつもの出会いと別れを経験する。時に母親譲りの「奔放さ」を見せたりもする。男が変わり、住む土地も職業も変えて、時には流れに抗い、時には濁流に流されていくその人生は、確かに平々凡々なものではないけれど、でも「数奇」というほどでもない。その時々で迷い、悩み、打ちのめされてはなんとか起き上がり、また歩きだすその様は、きっと誰にも覚えがあるものだろう。特異な「物語」の中だけに存在する女を描いたものではなく、きっとどこかにいるはずのひとりの女の「半生記」。「左岸」はそんな小説だ。

うねりながら続いていく人生の河は、あまりに広くて長くて、先が見えない。だから、茉莉の姿だけを追いかけて一気に読みたくなるのだけれど、でもそんなふうには読めなかった。積み重なっていく歳月を少しずつ体に馴染ませながら、一日に5頁とか10頁とか、惜しむようにしてゆっくり読んだ。そのせいなのか、いつの間にか「茉莉」が遠く離れて暮す友人のようにも思えてきて、なんだか不思議な感覚だった。そして、いよいよラストが近づいたとき、なぜか唐突に冒頭の場面が浮かんできたのだった。無愛想で不器用だった幼い茉莉の姿も。その瞬間、思ったのだ。なんて遠くまできたのだろう、と。

歳を重ねて、ある日ふいに過去を振り返ったとき、たぶん誰もが一度は思う「遠くまで来た」という感覚。振り向いた先にいるのは当然自分自身の姿で、だからこそ「実感」としてそう思うのだけれど、小説の中の主人公にそれを実感したのは初めてのことかもしれない。この500頁余りの本を読むあいだに、茉莉と共に半生記を生きてしまった。そのことに驚き戸惑っていたあたしは、いよいよラストを迎えて更に驚くこととなる。ああ、と、ようやく気がついて、だからこそ茫然としたのだった。

喪失、不在、出会いと別れ、家族の絆、恋、友情。この物語にはたくさんの事が散りばめられているけれど、考えてみれば誰の人生にもそれらはいつも入り混じっている。すべてをひっくるめたものが人生なのだ。だからこの小説を読むとき、テーマは何かとか作者の伝えたいことは何かとか、そんな事は考えなくていい。頭で考えずに、ただ茉莉と共に半生記を生きてみれば、きっと最後にすべてが腑に落ちるはずだから。そう、そうだった、と茫然として、深くため息をついたあと、柔らかな明るい光に抱かれる。

そういえば、同じく辻仁成とのコラボ作品だった「情熱と冷静のあいだ」は、停滞した静けさに満ちた小説で、そこには絶えず雨がふっていたような気がする。何かが起るのをじっと待ちながら、あるいは半ば諦めながら、降りそそぐ雨に閉じこめられていた。が、この「左岸」には全編を通して明るい「光」が射している。時も人もひとところに留まることなく、絶えず流れつづけていくこの小説には、初夏の心地よい風を感じるのだ。

だが、「情熱と冷静のあいだ」は恋愛小説だったから、行き着くところも、並行するもうひとつの物語も想像に難くなかったけれど、ひとりの人間の半生記を描いた「左岸」では、向う岸にいる祖父江九の物語「右岸」がいったいどういうものなのか、想像し難い。茉莉の人生の合間に見え隠れする九の姿から察するに、「左岸」とは全く違う物語になるのではないかとは思うのだけれど。描き方によってはジャンルさえ違ってしまいそうで、これはやっぱり「右岸」も読んでみなくては、と、読み終えてそう思ったあたしは、どうやら江國香織と辻仁成の術中にまんまと陥ってしまったらしい。お見事、というしかない。


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2008/10/27 17:06

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