紙の本
物語に入り込めなかった
2009/02/16 22:35
10人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
命を落とした人々を悼むために全国放浪の旅を続ける坂築静人。ふとしたことから彼と行動を共にすることになった奈義倖世には、夫殺しで服役していた過去がある。さらには静人の行動に興味を持った雑誌記者の薪野抗太郎、そして静人の母で末期がんに冒されている巡子。これは彼らをめぐる物語。
400頁を超えるこの直木賞受賞作を読み通しても、私には静人の行動に気もちが近づくことがありませんでした。
彼が見知らぬ人を悼むための手がかりとするのは雑誌や新聞の記事。つまり彼が悼むのは、事件や事故で命を落とした見知らぬ人々ばかりです。だからこそ、病気によって今まさに命がついえる日を迎えようとする実母のように、報道されることのない身近な死から彼は遠いところにいます。
病気で死ぬ人よりも事件事故で落命する人を選択していくという彼の行動指針をどう解釈すればよいのかが私には分からないのです。
彼はドラマチックでスキャンダラスな死をえり好みして放浪を続けているという事実が私にはどうしても生理的に受けつけないのです。
おそらく作者は、日々報道される死が数字や記号に落とし込まれている気がし、その多くの死者に「顔」や「肉体」をもった人間としての存在を感じてほしいと考えてこの物語を紡いだのではないでしょうか。その出発点は必ずしも間違ってはいないと私も思います。
しかし、必要なのは見知らぬ死者を悼む行為をとることではなく、私たち市井の人びとがそうした数値化されてしまった報道上の死を痛ましいと思う健全な心を持つことではないでしょうか。静人の行動は「悼む」という外形はとっているには違いありませんが、彼がそれを「痛ましい」と内面で感じている様子が伝わってこないのです。そこに私は生理的な不快感をいだいてしまうのです。
また静人の随伴者として登場する倖世が夫殺しに至る経緯もさっぱり理解できません。
殺された夫・朔也の豹変ぶりが現実離れしている上に、倖世に憑依し続けるさまがあまりに人智を超えているとしかいいようがないのです。
その一方で私の心に残ったのは、闘病する母・巡子の終末期医療の詳細ぶりです。
50代という若さで死期を迎える巡子の心の内は強く読む者の胸に迫ってくるのです。それは彼女のような平凡な人物こそが、今の私にもっとも近い存在であり、感情移入が容易な対象であるからでしょう。
ひょっとしたら巡子の、そして彼女の夫・鷹彦と、二人の娘=静人の妹である美汐、この3人の家族の物語だけで、人の心を揺さぶる物語が十分に構築できたのではないでしょうか。
静人や倖世、そして抗太郎という存在はむしろ物語の夾雑物にすぎなかったのではないか。
そんな思いが残った読後感でした。
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「ある人物の行動をあれこれ評価するより…
その人との出会いで、私は何を得たか、何が残ったか、ということが大切だと思うんです。」
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衝撃の名作です。普段、小説を読まない方も、この本だけは読んだほうがいい。
この本を読むと心のささくれが取れ、気持ちが優しくなっていきます。心を浄化する作用のある、本当に不思議な本です。
ドラマ化した『永遠の仔』や、映画化した『包帯クラブ』はもちろん名作ですが、それらを遥かに凌駕する、ある意味完成された小説です。天童さんはこの作品を書くのに7年以上費やしたと言っていましたが、確かにそれくらいの時間がなければ醸成されない傑作です。
「悼む人」とはいったい何者なのか。登場人物たちとともに、読者も読みながらその疑問と向き合っていくことになります。そして、それは同時に自分の中にある「悼む人」と向き合うことでもあるのです。人の死をどうとらえるかは、すなわち、人をどう尊重できるかという問題につながります。皆さんはどうでしょうか。亡くなった人を、どう尊重してきたでしょうか。この作品を読み、涙を流した時、皆さんの中で何かが変わるだろうと思います。ぜひ、思いっきり泣ける環境でお読みください。
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私は「誰を愛し、誰に愛され、誰から感謝されているのだろうか?」
7年の歳月をかけた重みのある深い、良い本だ。
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直木賞に選ばれたのはめでたいけど・・・
個人的には「あふれた愛」とか「家族狩り」,「永遠の仔」とかのほうがよっぽど面白かった。
前作の「包帯クラブ」も「悼む人」と似たような路線だったけど,イマイチ・・・。
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誰を愛し、誰に愛され、どんな感謝を受けたか。
それらを聞いて回っては死者を悼む旅を続ける青年を軸に、
がんに侵され余命僅かな母
夫を殺して途方に暮れる女
残忍な事件の記事を得意とする人間不信な男
この3者が絡んでいく物語。
2009年1冊目。
それほど量が多いわけではないのだが
じっくりゆっくり読み進めたい作品だった。
これほど人の死に敏感な青年が、
なぜ家族に思いを馳せないのかは疑問だしもどかしかったが
それも含めて、実際にあるのかもと思わせる世界観。
【図書館・初読・1/5読了】
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死を見つめることは、生を見つめることに他ならないが、
人間の生き死を正面から扱うことは難しい、
よってそこらは端折らせていただきます。
んで、そこ端折ったら書くこと無いんだけど
終盤の倖世の叫びが非常に素晴らしい
日常に埋没してしまっているすべての人に読んでいただきたいそんな作品。
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天童さんの本
5時間ほどかけて読んだ
○感想
・死との対峙
・誰を愛し、愛され、感謝されたのか
○どんな時に読む?
・自分が幸せすぎるとかんじた時
・死を実感したとき
・生を安売りしないように
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「死んだらみんな、仏様なのにね・・・」靖国神社に関する報道を見ていたときの母の言葉を思い出す一冊でした。
どの死も平等に悼まれるべきもの。凶悪犯だからといって、人に疎まれていた人だからといって、その死が「自業自得」ということはない。しかし、そう感じてしまう部分があるのは否定できない。また、大切な人の死も、時間と共に薄らいでいくのも「仕方がない」ことに思える。けど、いいのかな?それでいいのかな?死を悼むことで、生を感じる物語でした。
どんな人にも愛したこと、愛されたこと、感謝されたことがある。
この死は惜しまれ、あの死は惜しまれないということはないはず。
誰しもが唯一、かけがえのない存在である。
けど、どうなんだろう?
できるだけ多くの人の生と死を胸に刻む静人の「痛み」は確かに良いことのような気がする。でも、その分大切な人を悲しませてもいたのではないだろうか?それはいいの?明るい母親の様子や家族を思う気持ち、そして病気と闘う姿に胸が打たれると共に、どうしても静人には、もう一度母親と向き合ってほしかったから。
もう少し、時間がたってからもう一度読み直したいかも。
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生と死と愛をどうとらえるか、登場人物によってさまざまな捉え方が出てきたが、悼む人である静人の行為が登場人物それぞれにとって癒しになっていくという話。
死をどうとらえるか、静人自身悼む旅を続けながら常に問い続けているのだという感じがした。
死んだら終わり。何もない世界。だと思っているが、死をどうとらえるか、自分がジュンコさんの立場だったら?というのは考えさせられた。死をどうとらえるかというのは、結局今どう生きるかについて考えることにもつながると思った。
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この世界で生きている人は数限りなくいて、この世界で今日命が途絶える人も数限りなくいる。どんな人だって私とは違って、私はどんな人とも違う。なのに、私が私であることに特別な意味があるのだろうかと考えると分からなくなる。全ての人にとって私は特別だというわけじゃないから。
そんなモヤモヤとした思いは誰しもが持っていてそれでも一人一人が生きていくこと、死んでいくことは普通じゃないと思わせてくれた不思議な作品です。
やっぱり天童荒太さんの作品は心に深く重くのしかかってきます。
これから後何作品天童さんは書いてくださるのだろう。それを全て読みたいです。
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装丁のなんとも不気味な彫刻に思わず目をとめ、サイン本が置いてあったこともあり手に取った。きっかけはどうであれ、読ませてもらう機会を与えられたことにただただ感謝している。
悼む人は「誰を愛し、誰に愛され、どんなことをして感謝されたか。」という三点を聞きながら、日本中の亡くなった人々を悼んでいく。そして、彼に動かされる人々が確かにいる。読後、半日ほど経過しているが、まだ息苦しい。簡単に涙を誘うようなものではなく、読んでいる人の眠っている奥底の感覚を呼び覚ますような小説だった。
小さいことを気にすることが富んだ人生を送ることの弊害になるのかもしれないと思っていた矢先、「いいんだよ。それがちっぽけであっても間違っていても」と言って貰えた様な錯覚を覚えた。
7年掛けて書く小説とは(まあ期間は関係ないのかもしれないけれど)こういう小説なのだなと思った。
朝日の書評か何かで悼む人のノートを実際に天童さん自身が付けていて、脱筆後も続けていると聞き驚いたが、この域に達するには並大抵な姿勢では不可能だということだろうな。けっして人々を悼み続けるということに共感できたわけではないが、こういう方法で生きていけばいいのだろうと感じることが出来た。
直木賞もまず間違いない。天童さんの作品を読むのは初めてだったけれど是非ともこれから読ませていただきたい。
僕の人生の中で一番の小説が変ったと思えるくらい素晴らしい作品だった。こういう作品にもっともっと出会いたい。
「彼は、人を悼んでる……生きていたものが死んだとたん、数にされ、霊にされ……近しいもの以外、どんな人物が生きていたのかを忘れていくのに……この男は、死んだものの生きていた時間に、新たな価値を与える。その人物が、この世に存在していたことを、ささやかに讃える。」(p.388)
(2009.01.09)
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内容紹介
全国を放浪し、死者を悼む旅を続ける坂築静人。彼を巡り、夫を殺した女、 人間不信の雑誌記者、末期癌の母らのドラマが繰り広げられる
2008.12
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表紙の写真(舟越桂さん この人のオブジェ好きなんです)と題名で買ってみた。
この作家の本を読むのは初めてです。
最後はすごく泣けました。
「悼む人」がいたら癒しになるんでしょうか? 生きる勇気を与えてくれる人が「悼む人」なんでしょうか?
「すべての死」を均等に考えることは正当なんでしょうか?
大きなテーマです。いつかもう一回読んでみようかな。
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◎第140回(2008年度・下半期)直木賞受賞作品。
◎第6回(2009年)本屋大賞ノミネート作品。
2009年3月27日(金)読了。
2009−32。