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学習院初等科を終了した昭和天皇の帝王教育の為に、東宮御所内に
設けられた学校には当時の最高の人材が投じられた。
昭和天皇がこの御学問所で学んだのは7年間である。タイトルを
みるとその歴史のようなのだが…。
本書は御学問所の歴史というよりは、そこで帝王学の一環として
倫理を教えた杉浦重剛の評伝に近い。
他の教科に比べ倫理担当の人選を巡ってはぎりぎりまで決定を見ず、
二転三転したのちに東大予備門や日本中学校で校長を務めた杉浦に
決まる。
開校当時、既に高齢であった杉浦は御学問所での昭和天皇の教育が
終了すると同時に、精根尽き果てたように病の床に着く。
「杉浦など御指導申上げたなどゝは以ての外で、始終御指導を
仰いでゐたやうな気がしてね。唯もう戦々兢々と、寝ても覚めても…
だが恐れながら満点以上であらせられるので、杉浦も始めてどうやら
及第したやうな安心を感じましたよ」
病床で杉浦が語った言葉である。皇孫殿下の教育に全力を傾け、
世を去った人の万感の思いなのだろう。
本書は杉浦のほかにも、御学問所で昭和天皇の教育に携わった人たち
のことを詳細に記している良書である。