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紙の本
素晴らしいとか凄いとか、それしか書評タイトルが思い浮かばない。
2009/07/16 11:24
15人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
悩みに悩んでも、全く書評タイトルが思い浮かばなかったのは初めて。何度書き直してもしっくり来ない。所詮私の稚拙な短い言葉で、この作品を一言で現す事など到底出来ないのだと諦めた。
二十歳の大学生、太一の独白で始まる本作品。ほんの2ページ程のそのプロローグを読んだだけで、素晴らしい作品で有る事を直感し、直後から物語に引き込まれてしまう。そして作品の最後の一行を読み終えた時。私はまたこの最初の2ページを読み返し、ぽかりと胸に空いた大きな穴を太一の言葉で埋めずにいられなかった。これはきっと、この作品を読んだ誰もがする作業に違いないと思う。
読書が好きという以外は、取り立てて目立つ所も無い大学生太一と仲間5人。その太一達の前に突然現れた女の子、美丘。美しい丘、とかいてミオカ。気に入ったら例え誰かの彼氏だろうと、例え女の子であろうと、手を出してしまうような破天荒な女の子。善だと思えば友達を差し置いても困っている老人に手を差し伸べ、悪だと思えば例え屈強な男だろうと、コンクリの塊で頭をカチ割り前歯をへし折ってしまう。どうしてそんな生き方が出来るのか。美丘は言った。「人生は永遠じゃないって、知ってるから。」だから自分の欲望に正直に真っ直ぐ、生きる。当たり前のように思えるその言葉には、実は深い意味があった。彼女は絶望的な病気の、感染者だったのだ。ミオカは流れ星が燃え尽きるように、命を削って輝いていた。次第に美丘惹かれて行く太一。大事な人を裏切っても、太一は美丘を選ばずにはいられなかった。そして二人は絶望に裏打ちされた幸せな日々を、共に過ごしていく。しかし絶望は恐ろしい速さで二人を追いかけて来た。病気の発症。薄れ行く美丘の記憶。太一の事さえ、分からなくなってゆく美丘。太一も美丘もただ涙する日々に、思い出された約束。そして太一は、忘れていた約束を守る為に、病床の美丘の元へと向かうのだった。あまりにせつない、その約束を守る為に。
石田衣良作品が好きです。池袋ウェストゲートパークに魅せられて以来、ほぼ全ての作品を読んできました。どの作品も完成度が高く、胸震わされる物ばかり。それはきっと人間の本質や、命を謳った作品が多いからのように思う。本当にどの作品も素晴らしいけど、しかし本作品の凄さはどうだろう。凄いというか凄まじいというか。そんじょそこらのお涙頂戴ストーリーとは一線を画す…どころかカテゴリさえ異にしたい。感動じゃない、感涙でもない。ココロが叫ぶ、「すげぇ」。あまりに命の物語、あまりにヒューマンな物語である。また細かな設定やふとした描写も素晴らしい。テーマもストーリーも素晴らしいが、細かい所でやはり石田さんの比類なき筆致が際立った一作だと思う。私的には氏の最高傑作、と評価したい。
終盤はダニエルキイスの名作、「アルジャーノンに花束を」に少しテイストが似ているだろうか。いやその先にあるのが確実な死であるのだから、本作品の方が残酷かもしれない。でもだからこそ、そこからは強烈なメッセージが送られてくる。
死んでも死にたいなんて言うな。みんな生きろ。
今日を一生懸命全力で生きろ!
ミオカのそんな声がココロが、頭に胸にガンガンと流れ込んで来るようだ。