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ディビザデロ通り みんなのレビュー

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みんなのレビュー15件

みんなの評価4.0

評価内訳

15 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

ひとつの時代、ひとつの社会を、様々な構成員の描写でまとめるのが「全体小説」と呼ばれるものならば、オンダーチェがここで試したのは、激しく流浪する生き方を選択した人びと、選択せざるを得なかった人びとをひとつの種族と見、社会の構成要素として表現した「全体小説」なのであろう。

2009/03/11 20:57

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る

わたしが生まれ育ったのはディビザデロ・ストリートだった。スペイン語で「境界線」を意味するディビサデーロに由来するこの通りは、かつてはサンフランシスコとプレシディオの緑地の境界にあった。(P174)

 血のつながりの全くない3人のきょうだいと1人の父親という家族が暮らすディビザデロ通り。その場所を、私たち読者は小説の起点として読み始める。しかし、おそらく作者にとって、ここは起点ではなく、小説の任意の一点にしか過ぎないのであろう。
 誰もが生まれたところから流れ出し、死ぬところまで流れ着いて行く。その流れはひと筋のか細い存在でありながら、自分を生み出した血統へとつながるものである。親となる人の筋ならば、子という個性の流れにかぶさるものとなる。人類という無数の流れは、時に見知らぬ誰かの流れと触れ合い、重なり合うこともある。重なり合ってしばらく共に流れたあと、やがて分岐して行く。少し離れたところに、あるいはだいぶ離れたところで、やはり同じように流れて行く人の筋が見える。そのようにしてどこかへと向かって行くもの全体がこの世界なのであり、ディビザデロ通りは、作者が選んだ、全体のなかの任意の場所でしかない。

 ある長さをこの世界という流れから切り取って書けば、それは「大河小説」や「サーガ」と呼ばれるものに仕上がる。しかし、オンダーチェは、この小説でそのような分かり易い任意の流れを表現したわけではない。かと言って、ディビザデロを通過した筋のいくつかを、その定点に立って観測してまとめ上げたわけでもなければ、ディビザデロを通過していったいくつかの筋だけを追い、取り上げてまとめたわけでもない。
 ディビザデロのような流れの中の任意の点を他にもいくつか取ってみて、それらを深い関連性により物語化したのではなく、縁があるかなしかの、かすかな関連性を持たせて語りの材料としたのである。
 ひとつの時代、ひとつの社会を、様々な構成員の描写でまとめるのが「全体小説」と呼ばれるものならば、オンダーチェがここで試したのは、激しく流浪する生き方を選択した人びと、選択せざるを得なかった人びとをひとつの種族と見、社会の構成要素として表現した「全体小説」なのであろう。

 ディビザデロ通りの家にはアンナとクレアという、同じ週に生まれた姉妹がいて、クープという兄がいた。ある暴力的な出来事で、きょうだいと父の4人の家族の絆は壊れてしまう。
 ただひとり父親と血のつながりがあったアンナは別の大陸へ流れ着き、ある作家の生涯について調べるようになる。作家は「居心地のいい孤独」を求め、家族を捨てて南仏の田舎に隠棲した人物である。クープはカード・プレイヤーとなり、ハイウェイ上の町を流れて行く。クレアはディビザデロ近くのサンフランシスコに職を得て、週末のひとときを父親と過ごす二重生活を送るようになる。
 家族という核が壊れてから、30代になった三者がどのようにしてそういった各々の位置に至ったのかが明らかにはされず、ごく限られた人生の断片だけが語られる。
 これは誰もが覚えあることだろう。多少は親しくなったとしても、たまたま知り合った相手の来し方を、何から何まで知り尽くすことはできない。相手が話してくれたこと、人から伝え聞いたことだけを、その人の背景として知り得る。相手の全生活に関わるのではなく、相手の部分との関わりを持つことを私たちは交流と言う。そういうことだから、場合によっては、日々同じ職場で仕事をしている人よりも、雑踏の中で見かけた誰かの所為の方が大きな印象として残り、後々まで影響を受けるということもある。
 小説もまた、人物の全生活が書かれる必要はなく、脈絡やくだりが破綻のないよう丁寧に追われて行く必要もない。断片的に出来事が書かれるだけであっても、流れの途中までしか物事が語られなくても、それが読み手に痛烈な何かとして残れば、「感性が体験をする」のである。中途半端な書き方のようでいて、この作品でオンダーチェが提供する体験の機会は決して少なくない。

 三人きょうだいの物語は本の半ば過ぎまで。それから語られるのは、アンナが研究するフランス人作家リシュアンの漂流である。アンナが研究のために住み着いた作家の終焉の地、そこに作家が辿り着くまでの放浪と、彼の少年時代が語られる。さらに、彼が若き日に思いを寄せた隣家の幼妻マリ=ネージュの漂流も書かれる。
 相互に関連性を持たない人びとの人生の断片が寄せ集められたようでいて、注意深く読んで行けば、かすかに「しるし」のようなものが認められる。馬車という限られた住空間、名の呼び違え、幼い恋、旗のひらめきなど……。そういった誰かの人生時間に存在した「しるし」が、大きな意味を成すこともなく、ただそこに存在する。
 そのようにして、世界の誰もの人生は小さな要素が無数に集まって流れて行くのだ、同様にして、この小説も書かれ、作家の人生と読み手の人生を構成する一部になるのだと、『ディビザデロ通り』は静かに主張をしているかのようである。

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紙の本

小説の新たな可能性を提示してみせた一冊。

2009/03/07 21:30

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:求羅 - この投稿者のレビュー一覧を見る

レビューしにくい小説があるとするなら、本書がまさにそれだ。
断片的なエピソードで紡がれた物語は、ストーリーらしきものは見当たらない。始まった、と思ったら途切れて終わり、唐突に別の場面が挿入される。一見関連性のなさそうな、別の物語が。

大きく3つのパートに分かれた物語。
カリフォルニアの農場で、父、血の繋がらない姉妹、親を殺された少年が暮らしている。そこで、彼らをばらばらにする、ある決定的な事件が起きる。
家族の崩壊と再生、あるいは引き裂かれた恋人たちの再会を描くのかと思いきや、物語は一転、舞台を過去のフランスに移し、荷馬車で放浪するジプシー一家と作家の姿を映し出す。このスケッチのような第二部に次いで描かれるのは、さらに時代を遡った少年時代の作家と隣家の新妻との交流。

大雑把にまとめてみたが、本書の魅力がぽろぽろとこぼれ落ちてしまったようで心もとない。なにしろ、あらすじでは語れない、ひとつひとつのエピソード(とそれらの相関性)が光を放つ作品なのだから。
作者は、登場人物の内面を多く語ろうとはしない。核心に迫ろうか、というところで向けていたレンズをすっと引き戻す。なぞるように綴られてゆく物語を物足りなく感じるのは、“秩序”や“意味”を自然と求めてしまうからかもしれない。

が、一人ひとりの人生は簡単に“説明できる”ものの方が遥かに少ない。ドラマのように、はっきりとした始まりやクライマックス、結末が用意されている訳ではないのだ。
最初は、捉えどころのない物語の行きつく先を知りたくてページをめくっていたが、他者の存在を意識し、共鳴し合いながら生きる登場人物たちの姿を、ただ感じているだけの私がいた。
良くも悪くも、人は他者と関わって生きている。どれだけ時が経とうとも、遠く離れようとも、自分の中に潜んでいる他者が消えてなくなることはない。
時空を越えて結びつく、いくつもの人生。本書で主に語られているのは数人だが、ここでは描かれなかったいくつもの人生を想像するとき、物語は無限の広がりをみせる。そして、独り本書と向き合っていた私は、その圧倒的なスケールに一瞬眩暈を感じてしまったのである。

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2009/04/09 20:51

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2009/08/17 11:06

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