科学者は同時に哲学者でなければならない
2015/09/30 00:25
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投稿者:garuhi - この投稿者のレビュー一覧を見る
猿橋賞の創設者であり、第5福竜丸事件以降の日本近海の海水に含まれる放射性物質・ストロンチウム90・セシウム137の分析において世界的に傑出した成果を残した気象庁研究員にして日本の女性科学者の草分け的存在であった猿橋勝子とは如何なる人物であり如何なる生涯を送った人物であったのか。元日本物理学会会長である米沢富美子による猿橋勝子の評伝である。本書で初めて知ったのは彼女が戦後原水爆実験による放射線物質=死の灰の人体に及ぼす影響を研究し「死の灰と闘う科学者」 (岩波新書)としてつとに有名であった三宅泰雄の愛弟子であったと言うことである。彼女は三宅が唱えた「科学者は同時に哲学者でなければならない」という科学哲学の唯一の継承者であった。
3.11以降原発推進政策における科学者の責任が厳しく問われなければならない現在において、50年以上前から構築されてきた彼らの業績を再評価し学ぶべき多くの事柄をくみ取っていく作業は焦眉の課題とならざるを得ないであろう。原発の新増設の積極的推進を鮮明にしているのみならず、原爆の保持すら公言してはばからない安倍晋三第2次内閣の成立おも許した現在のわれわれにとって彼らの科学哲学を引き継ぎ現在によみがえさせることはまさしくわれわれの課題でなければならない。
女性自然科学者の道を切り開いた
2018/07/06 23:27
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投稿者:aki - この投稿者のレビュー一覧を見る
優れた女性自然科学者に贈られる「猿橋賞」はよく知られているが、猿橋さんがどのような業績を挙げられたのかについてはほとんど知られていないのではないか。
ビキニ環礁で第五福竜丸が浴びた死の灰の成分の分析を始め数々の業績を挙げられた猿橋勝子さんの生涯を理論物理学者の米沢富美子さんがたどる。研究だけでなく、あとに続く女性自然科学者の道を切り開いた業績も忘れることはできない。
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[ 内容 ]
戦前戦後の女性が理系の道を選ぶことも困難な時代に、海水の放射能汚染や炭酸物質の研究で世界的な業績をあげた地球化学者・猿橋勝子。
さらに後進を育てようと女性科学者を顕彰する「猿橋賞」を創設、女性科学者を励まし続けた。
科学者として人間として自らの哲学とそれを貫く強い意志をもって、まっすぐに生きた猿橋勝子の軌跡を描きだす。
[ 目次 ]
1 誇り高き科学者
2 海水の放射能汚染
3 道場破り・現代版
4 科学者への道
5 科学者として生きる
6 女性科学者としての仕事
7 初心を貫いた人生
[ POP ]
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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猿橋勝子さんの初の評伝です。性別にかかわらず科学者、研究者、さらには学ぶ者のお手本とも言える方だと感じました。
放射性物質の測定方法をめぐってアメリカの著名な研究者と堂々と勝負し、勝利したエピソードだけでなく、自分に足りない知識があると判断すれば徹底的に学び身につける姿には感銘を受けます。
また、第五福竜丸の事件や当時の水爆実験の状況など分かりやすく書かれており、日本人なら一度は読んでおくべき本だと思います。
【福岡教育大学】 ペンネーム: 粉もん研究会会員
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猿橋勝子は、日本の科学者。日本の女性科学者のパイオニアとして地球科学の分野で活躍し、「猿橋賞」という日本の女性科学者を表彰する賞を創設した。
失礼ながらお名前をまったく存じ上げなかったのだが、ある日Googleで検索しようとページを開くと、Doodle部分に何やら海をバックに知らない女性の顔が。
調べてみると、「猿橋勝子」という文字。
そこでさらに検索してみると、日本の女性科学者の先駆者ということだった。
理系には興味も知識もないけれど、なぜか気になったのでこの本を読むことにしてみた。
この本の著者は猿橋勝子さん本人ではなく、米沢富美子さんというこれまた科学者(しかも調べてみると現在の女性科学者の中でも一線を走られている方のよう)で、いわゆる伝記にあたる。
「第五福竜丸事件」からこの本は始まる。
アメリカがビキニ環礁で行った水爆実験により、日本の第五福竜丸の船員たちがいわゆる「死の灰」を浴びた事件である。
猿橋さんはこの事件に関し、海洋放射能汚染の調査に加わり、その調査方法の精密さをもって海洋汚染の実態を証明した。これはその後の水爆実験の防止へとつながっていき、猿橋さん本人もその活動に関わっていく。
続いて、猿橋さんの幼少期からの歩みが紹介される。
とても聡明だったようで、当初は医者を目指していた。女性の入ることができる女子医専に合格するものの、面接官だった創立者の吉岡弥生の一言にショックを受け、進路を帝国女子理学専門学校へ進路変更する。これが、科学者 猿橋勝子が誕生するターニングポイントになった。
今の気象研究所に勤務し、その中で第五福竜丸事件に関わることになる。
アメリカへ行き自分の調査方法の正確さを「道場破り」(著者の言葉)のかたちで証明してみせた。
そして、最後に後進育成に取り組む猿橋さんの功績についての紹介。
「女性科学者に明るい未来をの会」の設立、女性科学者への賞である「猿橋賞」の創設などなど。
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第五福竜丸事件当時、私はもちろん生まれておらず、学校でもこの事件について社会科で取り扱いはあったものの、「現代史」に含まれることから時間がなく、正直なところあまり知識がなかった。
しかしながら、この本に書かれた船員たちの状況を見るだけでも、本当に恐ろしかった。「灰」を浴びただけなのに、次々起こる体の異変、そして最終的には命を落とす人が出てくる。
(それにしても著者の方は本当に頭がいいのだと思う。そんなにページを割かなくとも当時の状況が鮮明に浮き上がるように説明されている。)
猿橋さんは核廃絶について呼びかけていたそうで、それはこの事件が起こった時代に生きていた一人の人間として、そして科学者として調査をしていく上で分かったことから、その脅威がどのようなものかを実感していたからではないかと思った。
アメリカへの「道場破り」エピソード、そして以後の活躍もすごいなと思わせられるが、それも自慢のように聞こえないのは、猿橋さんが言っていたという
「男性に負けまいとする故の頑張りではなく、一生懸命勉強すると、初めは幾重ものベールの向こうにあった複雑な自然現象が一枚ずつベールをはがし、からみあっていた自然のしくみが、次第に解き明かされてくる。研究者としての、何ものにも替え難い大きなよろこびがここにある。」
というものが彼女の研究の根底にあったからではないかと思う。
根っからの研究者だったのだろう。
更に私の一番心に刺さった言葉が、猿橋さんが恩師である三宅泰雄さんから言われたという2つの言葉だった。
1つ目は、「実績を残せ」
自分のほうから差別を是正しろ!と言うのではなく、それを相手が撤回せざるを得ないくらい実績を残す。
(ただ、これについては声高に主張することも私は大事だと思う)
2つ目は、「哲学者であれ」
科学は万能ではなく諸刃の剣である。科学者こそその功罪を忘れずに語り継いでいかなければならない。
特に2つ目の言葉については、昨今科学の発展がとどまるところを知らない中、必要な考えだと思う。「倫理」にもあたるのかな。
そのまっただ中で研究していると、気づかなかったり、忘れてしまったり、あるいは好奇心や功名心が先にたってしまうこともあるのだろう。それを諌める言葉だ。
私はまったく科学分野に疎い人間で、本書の中でも結果の抽出方法を説明されるようなところでは「???」となってしまい読み飛ばしてしまったので、すべてを読み取れたわけではないと思う。
けれども、全然門外漢の私でも猿橋勝子さんの生き方をしり、読み終わったあとに少し世界が広がり、私ももうちょっと頑張ってみようという気になった。やはり、パワフルに生きている人の話を読むと、エネルギーをもらえるようだ。
最後に、著者の米沢富美子さんという方についても興味が湧いてきた。
何冊か本を出されていて、これまたエネルギッシュな方のようなので、読んでみようと思っている。
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米沢富美子さんの著作、ブクログ登録は2冊目になります。
米沢富美子さん、どのような方かを確認しておきます。
ウィキペディアには次のように書かれています。
米沢 富美子(よねざわ ふみこ、女性、1938年10月19日 - 2019年1月17日)は、日本の理論物理学者、慶應義塾大学名誉教授。専門は物性理論、特に固体物理学。アモルファス研究で国際的に知られる。理学博士(京都大学)(1966年)。大阪府吹田市生まれ。旧姓名、奥 富美子。80歳没。
で、本作の内容は、次のとおり。(コピペです)
戦前戦後の女性が理系の道を選ぶことも困難な時代に、海水の放射能汚染や炭酸物質の研究で世界的な業績をあげた地球化学者・猿橋勝子。さらに後進を育てようと女性科学者を顕彰する「猿橋賞」を創設、女性科学者を励まし続けた。科学者として人間として自らの哲学とそれを貫く強い意志をもって、まっすぐに生きた猿橋勝子の軌跡を描きだす。
で、その猿橋勝子さん、どのような方かというと、ウィキペディアには次のように書かれています。
猿橋 勝子(さるはし かつこ、1920年3月22日 - 2007年9月29日)は、日本の地球科学者である。専門は地球化学。海洋放射能の研究などで評価された。東邦大学理事・客員教授を歴任。東京生まれ。
で、猿橋勝子さんは、第一線で活躍する女性科学者を表彰する日本の賞として、猿橋賞(さるはししょう)を創設されました。
米沢富美子さんは、1984年(第4回)に猿橋賞を受賞されていますね。
そして、直近では、2022年(第42回)の猿橋賞を、関口仁子さんが受賞されています。
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猿橋賞は女性科学者40歳くらいまでが受賞できるものであることはつい最近数学セミナーで知ったことだった。確か40歳というのは研究者として次の世代の科学者にバトンタッチするためだったと数学セミナーには書いてあった。
しかし、猿橋賞は知ってはいたものの猿橋勝子という人物がどういう人かは完全に知らなかった。また私のアイドル的存在の太田朋子さんが第一回の猿橋賞を受賞していることに運命の糸を感じた。
更に、吉岡彌生との対面があったことにも驚きを感じた。なぜなら、私の親戚が吉岡彌生に抱っこされている写真があるからだ。吉岡彌生は女性が学問の道に行くのが大変なことであることを伝えたかったのだろうけれど、気が合わなかったのだろう。
そのかわり、三宅泰雄が猿橋の学問への道を作る手助けをしてくれたように思う。比喩的には、ヒルベルトがネーターの活躍の道を作ったのかもしれない。ただネーターは比較的若死だったのに対して猿橋は長生きだった。これは重要で、社会奉仕、これは猿橋が真に願っていたことだが、長生きしないと、なかなかできない。ニュートリノの小柴昌俊さんも長生きしたので、財団法人を作ることができた。
以上の通りなのだが、昨今、問題になっている核兵器もしくは原発に、この猿橋勝子という人物が深く関わっていることを知らせる意図は2009年に出版されているので、絡んではいないと思うのだが、予言していたのだと思いたい。
第五福竜丸の白い灰、微量の試料から成分を導く。そしてその汚染水の追跡調査などやった。わずかなものでも、地球に影響を与えるという、地球化学という分野らしい。オゾン層の研究なともされていて、その領域は幅広い。
福島の問題、ウクライナ、北朝鮮を含む世界的な戦争の問題。ヒロシマ、ナガサキ、ビキニ環礁、フクシマという核の恐ろしさを経験している日本が立ち上がらないとならない問題がある。
女性の科学者はまだまだ少ない。性別で決定されることがなくなる方向で、みんなが活躍できる時代を作り上げたい。