紙の本
あきれるほど素晴らしい本だった
2021/07/18 08:02
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投稿者:大阪の北国ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
まず免疫学者である多田先生の「人類学的フィールドワーク」ともいえるアフリカと東南アジアの現地探訪記録。アフリカでは人類の祖先について、そして東南アジアではタイ、ミャンマー、ラオスにまたがる黄金の三角地帯でアヘン禍撲滅を目指した現地授産学校の取り組みについて紹介される。文化人類学者の書く現地訪問記録と変わらない深さで追体験させてくれた。
続いて第2章は先生が書き綴ったショートエッセイ集。そこには免疫学、医学のみならず、能楽、文楽など豊富な話題のエッセイが並んでいて、読みやすく面白かった。
第3章は小林秀雄、中原中也、能楽などを題材に精神性の哲学論とでも言えるような思索が展開される。抽象的で読み手の頭脳が先生の精神性についていけてるかという疑問は残るが、こちらも思索を重ねながら読んだ。
まさに知の巨人と呼ばれる先生の横顔に触れることができた一書だった。
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世界的な免疫学者である著者。最近では能作家としても知られている。いままでにもこの人の本を読んだ。読みやすくわかりやすい文章でありながら,内容がしっかりしているという印象。
第一章は旅行記。なぜここまで苦労してアフリカの奥地まで行くのかわたしにはわからない。ただ,その思いの強さと,そこにいたるまでの状況を,文章だけで見事に表現している。また,麻薬中毒から村人を救うグループに会いにゴールデントライアングルまで。ここでも,著者の桁外れた好奇心がうかがえる。どうしてここまでして人を救うことができるかを知りたいのだろうが,わたしにしたら,どうしてそのために,そこまで出かけていけるのかが知りたいくらいだ。
第二章は,著者のものの見方がよくわかるエッセイだ。時にやさしく,時に厳しい。科学者らしい語り口(とわたしは思う)で,正月や2000年問題,景気,教育,音楽,自然など,さまざまな話題が登場です。第一章と重複する話題があるのはやや気になるが,ここは気楽に読み流した。
第三章では,著者の内面が現れる。わたしは免疫に関する本しか読んでいなかったので,このような文学や哲学の影響についてははじめて知った。大変興味深い章だった。やさしさの哲学は,特に印象に残った。
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世界的な免疫学者であり、病に倒れてもなお書き続ける魂に感動を覚えた人が多いはず。
多田富雄氏のエッセイとして、彼の知を感じることができる作品だ。
タイやアフリカをはじめ、多くの民族の村を訪れる。そこで感じる気持ちを正直に綴った文章が、心に響くのだろう。
また、国際舞台にも出て行くことで、英語だけではだめだといった危機感や、日本人に必要な素養にいたるまで、日本人、そして日本に向けた優しさと強さを兼ね備えた素敵なメッセージでもある。
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(2011.03.22読了)
◆多田富雄の本(既読)
「免疫の意味論」多田富雄著、青土社、1993.04.30
「生命の意味論」多田富雄著、新潮社、1997.02.25
「免疫学個人授業」多田富雄・南伸坊著、新潮社、1997.11.25
「免疫・自己と非自己の科学」多田富雄著、日本放送出版協会、1998.01.01
「寡黙なる巨人」多田富雄著、集英社、2007.07.31
「露の身ながら」多田富雄・柳澤桂子著、集英社文庫、2008.08.25
「残夢整理-昭和の青春-」多田富雄著、新潮社、2010.06.20