解雇手当 みんなのレビュー

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投稿者：みーちゃん　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

ミステリ・マニアにとって、『そして誰もいなくなった』っていう言葉は、それだけで購買意欲をそそるのではないか、少なくとも私はそういう但し書きを見ただけで触手が動くわけです。まして、それが海外小説となれば、期待が高くなる。ついでに書いてしまえば、日本のミステリでその文字を見ると、時代錯誤のトリック小説なんだろうなあ、なんて見向きもしないんですが・・・

ただし、もしこの本が本当にハイパー版『そして誰もいなくなった』だとすると、内容紹介は迂闊にできません。即ネタバレ、レッドカードで退場となってしまいます。そこで、ここは無難にカバー後の内容紹介をコピペ（実際には、手作業ですが・・・）。
　　　　　　　　＊
「これからきみたち全員を殺す」
社長がそう宣言したとき、36階の
オフィスは脱出不可能の牢獄と化
していた。通信回線は不通、携帯
電話は使えず、エレベーターも止
められた。階段のドアには猛毒の
サリンを噴出する装置が仕掛けら
れている。閉じ込められた男女は
毒を飲んで自殺するか、射殺され
るか、究極の選択を迫られる！
脱出するのは誰か？　それとも全
滅か？　読者の度肝を抜くハイパ
ー版『そして誰もいなくなった』
　　　　　　　　＊
ちなみに、渋めの装幀については、Cover Illustration/Sam Carlisle/Illustration Works/Corbis Cartoon Goddess、Cover Desgn/Hayakawa Design と注記がついています。

で、地雷を踏まないように今回は、皆殺しにされる人々の紹介に留めましょう。

ポール・ダイスは、このお話でかなり重要な役割を果たすモーリス・ルイス、彼女の夫です。出番は本当に少ないのですが、物語の冒頭に登場するのでかなり印象的です。で、モーリ・ルイスですが、モリー・フィナーティといい、ポールの妻です。6ケ月前にボスたちからデイヴィッドのもとに派遣されてきた秘書です。

デイヴィッド・マーフィーは、モーリたちの上司で、土曜日の朝の管理職会議に関係者を招集しました。それが今回の殺戮に繋がっていきます。ちなみに、彼らが務める金融サービス会社マーフィー・ノックス＆アソシエイツは、実は政府の情報機関であるCI-6のフロント企業なんだそうです。

ジェイミー・デブルーは、同社のメディア関連担当、要は文書作成屋です。既婚者ですが、同じ既婚者であるモリーを秘かにオフィス妻だと思っている、そんな不埒な男ですが、子供が生まれたばかりなのに事件に巻き込まれてしまいます。スチュワート・マクレインは数年前までほかの職場にいた、従順な男です。

それと忘れてはならないのが、イーサン・ゴインズ、またの名を反逆者イーサンと言います。昨晩エイミーと飲みすぎたおかげでお腹を壊し、会議の直前にトイレに駆け込もうとしています。その下痢男のことを思っている女性、というのがエイミー・フェルトンです。彼女はデイヴィッドの副官で、今の仕事の継続を望んでいます。

他の女性ではニコール・ワイズがいます。社員になったロクサーヌの友人的存在で、気まぐれなです。フィラデルフィアっ子で、案外鋭くて、この招集に裏がある、と考えています。ロクサーヌ・カートウッドは、三ヵ月前に実習生から正式の社員に採用された女性です。脇役としてマッコイとキーンという二人の男がいます。彼らの役割は、小説で確認してみてください。

で、読み終わった印象は、まさにハイパー版だな、と。普通、密室での殺戮となると古色蒼然としたお話になりがちですが、まず社会との距離感が違います。現代のビジネス社会がそこにあります。しかも、一筋縄で行かないのは、彼らが勤めるのが政府の情報機関という設定。森博嗣の孤島の事件ものに登場する大学院生や教授、或いは夢見がちな警部などは影も形もありません。

なんていうか、映画『ダイ・ハード』とクリスティの名作『そして誰もいなくなった』を合体したというか、或いは『エイリアン』に比すべきか、荒唐無稽ではあるんですが、でも、その様子がリアルなんです。日本のミステリにはなかなか見ることの出来ないものだなあ、同じ古いお酒を容れるのでも、やはり、このくらい新しい器がほしいなあ、なんて思います。

悪いけど清涼院流水の『コズミック・ゼロ　　日本絶滅計画』とは雲泥の差。皆殺しにはこのくらいの背景がなくちゃあねえ・・・

最後は目次。

目覚し時計
到着
会議
会議のあと
朝の業務
一対一
朝の中休み（ペパーリッジファームのクッキー付き）
業務再開
早めのランチ
大掃除
退け時
社外へ
　謝辞
　訳者あとがき