紙の本
後味のよきかな、ライトノベル的展開
2009/08/04 12:45
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
今まで読んできた初野晴の作品はどれもユニークな設定と暗く孤独な主人公たちと、シリアスな物語であったが、本書は少し趣が違う。
ストーリーを盛り上げる舞台には中世ヨーロッパで実際に行われた魔女裁判や公衆死刑という恐ろしい悲劇が設定されているし、主人公は身寄りのなくなった14歳の孤児、おまけにパートナーにもまた悲しい過去と実績が見え隠れする・・・と、楽しく楽観できる軽いファンタジーものではない。
ただ、不思議と重苦しく痛々しく後味の悪い物語でもないのだ。
それは本書が良くも悪くもライトノベルだからかもしれない。
天涯孤独の14歳の少年、片岡勇介は養護施設から大叔父に引き取られることになったがその直後大叔父は急逝してしまった。里親と資材と、知識と智恵の世界の入り口、博物館を遺して。
次いで養護施設に残した友人ナナも事故に遭い脳死状態となったが、この特殊な研究を秘密裏に行っている博物館の研究者(学芸員)に拠れば、彼女の精神は過去に時間旅行(タイムトラベル)し、このまま放置すれば死んでしまうという。マシューホプキンス一味による凶悪かつ不当な魔女裁判が行われる中世ヨーロッパに飛んだナナの精神は、運悪く魔女裁判の被疑者・老婆アルドゴンドに入り込んでいるらしい。
学芸員の枇杷がかの時代に飛び、勇介は彼女を現世と繋ぐ命綱となって現世博物館の知識と智恵でサポートする、
運命共同体となった二人だが、彼らにとってお互い以外何一つ武器も救いもない時空で、ホプキンス卿らの行う裁判のトリックを見破りナナの精神を取り戻さなくてはならない。
勇介が冒頭で語るように、まず信じられないファンタジーだし、フィクションであるにしてもかなり甘い設定だ。
けれどそこをスルーし許されるのがライトノベル。こんなところでタイムパラドクスの理論がどうとか歴史的重要事項がどうのとか、そんなことを細かく指摘するのは野暮というもの。たとえ後半のホプキンス卿が仕掛けたトリックがドラマ『TRICK』とさして変わらないとしてもそれはそれでいい。
精神のタイムトラベルなら質量に関係なく可能だという理論も、そんな研究プロジェクトをたかが博物館で行われているというのも、彼らが過去に行った事でどれほどのことが「変わった」のかなども、全てスルーしてしまえばかなり入り込めるに違いない。
繰り返すようだがこれはライトノベル。軽くライトに小説の世界に入り込み彼らの心の中をじっくり堪能すればイイのだ。
前作「1/2の神話」でも孤独だった二人の魂は運命共同体となって力強く成長し、ドラマチックなストーリーを展開してくれる。だからなんなの?といわれれば身も蓋もない物語かもしれない。それでも目を離せないのだから面白い。
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▼前作の『1/2の騎士』が最高に良かったので、続けて買ってしまった。また表紙が本気すぎる。私はこういうのが好きだぜ!
▼他の読者からは「なんか暗くない・・・?」などと言われて不評だったんだけど、私は前作より好き。タイムスリップして魔女狩りを食い止めるという話なので、非常に重い(笑)。ずっと、表紙の二人の安否が心配で仕方なくて、そのドキドキで一気に読んでしまった。「参観日効果」と名づけたい。
▼終盤の、博物館の人たちとの推理合戦がものすごいちゃんとミステリー。血が滾った!!
▼これはもう是非是非シリーズ化していただきたいです。シリーズ化を忌み嫌う私が言うんですから間違いないですよ。誰に重いと言われても、たぶん私はずっと読むよん。
(09/5/20 読了)
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元はメフィストの短編だったのを1冊の本にしちゃったそうですが、ページ足りないw ストーリー的に足りない訳ではなく、その後とかもっと色々出せー!と足をバタバタさせる勢いで。相変わらず主人公は社会的弱者で、世間は問答無用に厳しく、でも周囲には暖かい大人もいたりして、女の子はちょっと不思議系だけど強くて、そして世界はひどく現実的で残酷なお伽噺じみていて、切ない。そんな初野ワールドが好き。
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メフィスト掲載時から大分加筆修正されていて、別物になってました。
初野さんのボーイ・ミーツ・ガール話は好きですvv
それにしても、また脳死話・・・『水の時計』もそうだったし、多いなぁ。
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初野晴2作目。
「水の時計」もそうだったけど、設定は絶対あり得ないんだけど、何故かほろりとさせられる。
今回は脳死患者と時間旅行を組み合わせたタイムトラベルミステリー。
「ミステリー」とは付いているけど、完全に私から言わせれば、ファンタジーの世界。
孤児院で育った勇介が孤児院を出た途端、可愛がっていた妹のような存在のナナが交通事故に遭い、脳死状態に陥る。
ナナを助けるために、勇介は大伯父から引き継いだ博物館の面々とタイムトラベルの世界へと旅立つ。
「あり得ない」設定だけど、誰かが誰かを思う気持ちは、非常に丁寧に描かれていると思う。
癖のある登場人物たちも、本当は優しい気持ちの持ち主で、途中はハラハラドキドキ。
最後はあったかい気持ちになれる。
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養護施設で育った勇介は、大伯父から博物館を引き継ぐ。
脳死状態の少女ナナの精神を連れ戻すため、職員の枇杷と時間旅行をする。
中世の魔女狩り時代を体験する、というのはおもしろい。
魔女狩りのトリックや、ロマの子どもなど、こんな時代だったのかと新鮮。
登場人物を書き込んでいれば、もっと魅力的な話になったと思う。
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幻想冒険譚、かな?ミステリと思いきやファンタジーでした。や、謎解き要素もあったんですけどね。
主人公の救済対象であるおばあちゃんの最後の選択には泣かされました。
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博物館とタイムトリップのお話。
魔女狩りを想像してゾッとした。
本当に行われてたんやなあ、公開処刑…。
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売り上げ次第なんでしょうが・・・シリーズ化を匂わせる終りかたでした。
物語の内容は今ひとつかな。(続くのなら)これからに期待です。
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2002年デビューした作家さんだそうです。
今日、初めて目に付いた。発売自体は今年の5月辺り、でも近所の丸善では平積みされてたので新刊だと思って購入。
邂逅部分しか読んでないけど、何か面白そうな予感が裏表紙を見た瞬間からあって、直感購入。
これから読みます。
::::09/10/20読破:::::
最初に警告。
拷問シーンあり。脳死者がいます。集団に罵倒されるシーンもあります。不快な方は読まない方が吉。
ドキドキが真綿です。最初からドキドキが脈に現れる位強い…わけではなく、後頭部から50cm離れた所でずっとドキドキしてる感覚。
だから、真綿で首…ではなく、真綿なドキドキです。
天涯孤独になってしまった少年に遺されたのは、博物館。その中で秘密裏に行われる実験に少年は身を投じてしまう…
邂逅部分では物凄くテンポが良かったので、本編でもポンポン話が進むのかと思いきや、ナナ一人を救う事でいっぱいいっぱい。
それが物足りないとかではなく、人一人を救うのにはそれだけ労力を使うということで、納得してはいる。
でも、ナオの視覚記憶の能力が、序盤と終盤でしかカッコ良く活躍しないのが不満。
話の展開上仕方がないけどね。
切ないです。中世ヨーロッパスキーな方。歴女の方。オススメです。
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なかなかジャンルわけが難しい本。主人公の少年が過去を彷徨う魂を救うために一人の女性とともに時の旅に出る。旅の先は中世イングランド。魔女狩りが行われていた時代。魔女裁判の手法を暴くという意味ではミステリー。話としては面白いのだけれど、メインの登場人物のキャラが不明瞭だと思った。
2009/10/26
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水の時計で感動したので、読んでみました。
脳科学というリアルな分野と、時間旅行というファンタジーな分野が混ざり合う不思議なお話です。
結末も胸がきゅうきゅう締め付けられるような苦しいけれどリアルな痛みを残す感じで好きです。
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タイムトラベルものなんですが、そこ自体に
重きを置いていない分、逆にスっと読める
気がします。なんとなく「水の時計」を
思わせる作品ですが、より一層ダイレクトに
訴えかけてくる様な感情を揺さぶるものがあります。
優しさだけではどうにもならないし、どうにも
抗えない事に対する強い意志と思慮...一見
冷たいようでいてそれもまた優しさなんだ。
博物館メンバの個性ある顔ぶれ達の強さや
優しさももっと浸っていたかったなー。上下巻とは
言わないまでも上手くシリーズ化して欲しいなぁ。
まだ助けないといけない人もいるんだし...。
魔女狩りに対峙する主人公の何も出来ない非力な
中での強さ。そしてその彼に報いるためにメンバの
知力、経験を合わせた推理合戦とトリック解明に
ハラハラ、ワクワク。ミステリ的にも楽しめちゃいます。
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タイムトラベルミステリであり、ファンタジックな冒険譚。魔女裁判の仕組みを解き明かす部分は本格ミステリで、主人公たちが目的を果たすまでの物語は息詰まるタイムリミットサスペンス。切なさや優しさ、どうしようもないやるせなさなど、さまざまに入り混じった感傷も味わえます。一冊で何度も美味しい作品。ちなみに、SFっぽいのかとやや危惧するSFオンチでもまるっきり大丈夫。人を選ばずお薦めできる作品だと思います。
シリーズ化もできそうな気がしますが……苦難のまるでないシチュエーションだと面白くないしなあ。だけど枇杷をこれ以上つらい目に遭わせるってのはちょっと気の毒で、期待したい気持ちが半々です(苦笑)。
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精神だけがタイムスリップしてしまった脳死患者を救うお話。
謎が大すぎる。突然、現れた博物館の仲間。タイムトラベラーである枇杷の「人間」が描かれていない点。いやそれを言うならむしろ主人公、勇介もその気持ちだけで、その人間が描かれているとはいえないか。強いインパクトで登場したかと思ったら、あっという間に舞台から退場した勇介の大伯父。枇杷の姉の存在。いろいろわからんすぎます。に加えて、トリックもそれはどうよ?みたいな。
それでも設定の目新しさとか読ませるなんともいえない魅力があるのは間違いありません。なんだか続きそうなかんじがひしひしとしてるので次に期待といったかんじでしょうか。