紙の本
気持ちのいい話ではありません。美術って、作家の、そして作家を支えた家族の権利とはなにか、そして見る側にはなにも権利はないのかとか、考え出すととっても難しいです
2009/12/21 20:15
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
私がこの本に飛びついたのは、著者が大好きな篠田節子だから、というだけではありません。扱っているのが美術の世界、画家の話だからです。それに日本経済新聞社、っていうのが意外です。篠田と日経、篠田の経歴とクレバーな作風を考えればその組み合わせは少しもおかしくありませんが、もしかしてこれって初顔合わせでしょうか?初出は日本経済新聞夕刊 2007年10月1日~2008年10月18日、とあります。
ともかくカバー画がいいです。初めて見た時、いい写真だなあ、って思いました。でも、良くみて日本画かも、って思いました。日本画の代表的な団体・院展の同人に宮廻正明がいますが、彼の絵が似た雰囲気を持っています。ただし、色合いは全く異なりますし、描法も違う。でも、彼の新境地、っていわれれば肯いてしまう、タイトルを上手く表現したものです。
で、注を見て驚きました。装幀が坂川栄治+永井亜矢子(坂川事務所)、というのはわかります。坂川事務所として上出来、とは言えませんが平均的ではある。強いて言えば題字と著者名の字体が面白い。で、装画なんですが影山徹、とあります。え、あの? 今までの線、というよりは色で魅せたあの影山? 彼にこんなことができるんだ、と認識を改めました。早速、出版社のHPを覗いてみましょう。
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日本経済新聞夕刊に一昨年10月から1年余にわたって作家・篠田節子さんが連載されていた長編小説が待望の単行本になりました。
新潟・長岡に合併された小さな町で、地元の人たちに愛された「閉じられた“天才”画家」の画が没後、富裕層向け雑誌で紹介されたところから物語は始まります。雪国に厳しい冬の訪れを告げる一瞬の美しい光をつかまえた絵画は画家を献身的に支えてきた才色兼備の妻との夫婦愛から生まれた。そして、その夫婦を物心両面で援助し“わが町の文化”と誇りにしてきた有力者たち……
しかし、画家の封印が解かれることによって、のどかな田園地帯を欲望と疑心がむしばみ始めます。そして露わになる意外な真実……。
篠田さんがその果てに描いた世界は、日本の“郷土”の変貌と老い、そして人人の強さと弱さです。地方が疲弊していると言われる今こそ、読まれるべき作品であることは間違いありません。
(文化出版部 苅山泰幸)
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とあります。主人公は橘、名前は出ていないのではないでしょうか、48歳の男で、芸術誌「美苑」が廃刊になり、同じ出版社内の、富裕層のためのプレミア誌「清風」に異動したばかりです。主な業務は、女性編集長の補佐と企画編集、広告主との折衝などで、他部署から移って来たことベテランでもあり、「お公家さん」「文化庁」と呼ばれ、新しい部署でお荷物扱いされています。
橘の上司にあたるのが、磯谷明代、プレミア誌「清風」の編集長です。採算だけを念頭に守りに徹しているうちに、編集長の座に就いたところがあります。今も冒険は一切せず、安全に雑誌が出版されることだけを望むような姿勢を続け、あまり人望はありません。不本意ながら、橘に頼るようなところがあります。
で、「清風」で、講演会などでも人気のある「知性派」タレント兼エッセイストの泉千佐子が或る画家の作品に触れたことが話題を呼び、橘がその経歴を買われ、その作品の出来を実際に確認に行くことになります。その画家というのが、宮嶋哲朗です。宮嶋は長岡の郷土作家の一人で、中央画壇の重鎮・桐原重信にその才を認められたものの、中央に出ることを拒み長岡で制作を続け、1997年、腎不全から尿毒症を併発して死亡しています。
そして作品の現在の著作権者というのが、哲朗の妻・宮嶋智子です。彼女は15歳の時、女子校の美術教師であった宮嶋と知り合い、後に駆け落ちの形で哲朗と結婚生活に入り、病気の夫を最後まで支えつづけてきました。泉千佐子の「長岡紀行」にコーディネーターとして付き添った長岡市商工部観光課主査・藤森美紀子や、宮嶋の作品を多数所有していた日比野たちに取材を重ねていくうち、智子のエキセントリックな性格があらわになり・・・。
話は、著作権とは何か。遺族が作品の真贋もふくめて管理することの今日的な意味はどのようなものか。美術品の真の価値とは何か、妻という座のあり方も含めて問うものです。私などは、著作権というのは本人一代限りのものとするのが正しいのではないか、と思いますが、こればかりはその恩恵に預かる人間と、そうでない人間とでは受けとめ方に大きな差がでます。
ただ、著作権を継承者が言い立てる場合、どうしても虎の威を借る、ふうの横暴の感が拭えません。むろん、それは所有権にも言えて、名画を棺桶に入れて燃やす、といった愚かな経営者がいましたが、同類といっていいでしょう。権利、というのが単に力の誇示や主張、利益のためだけに使われるとき、興醒めするのは私だけでしょうか。それは人権においても変わることはないのです。
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篠田節子さんの作品はどれもテーマが興味深くておもしろい。
薄暮も画家がらみの話で、人々の描写がものすごくよかった。
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東北の山里で無名のまま亡くなった天才画家。無名画家の世間デビューは村おこしにもなると観光課の女性職員は懸命になる。
人気エッセイストのエッセイから、突然の人気がわき、元美術雑誌編集者の奔走で画集が出版されるが、その後は地元関係者や不審な画商などのさまざまな思惑による騒動が起きる。
糟糠の妻は、自分が関与した絵以外、贋作であると主張する。その裏には夫婦愛とか絆などという美名ではなく、どろどろ・混沌とした情念が存在した。
メディアにに取り上げられることで一躍価格が高騰し、善意の支援組織には亀裂が生じる。妻の著作権は真実よりも力がある。著作権法って法律の不可思議さを反目教師として知ることになった。
命をかけて夫の名誉を守る妻の無意識にある自己保全と顕示欲がすさまじい。
久しぶりに堪能した小説。
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人気エッセイストの文章から地方に埋もれた1人の物故画家に光が当たる。美術畑から女性雑誌に配置換えされた編集者の目をとおして見たその妻、地域の人々、周辺に出没する美術商などを描く。
自分の前で描かれなかった絵を「贋作」と言い切る妻の妄執が哀れ。
自分の依って立つものにとらわれすぎた結果だろう。
ミステリー的要素もあった
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篠田さんだけに、期待していたのであえて二つにしているんですが、普通の作家さんなら四つでもいい感じです。前半が少し長く感じました。主人公が病気であるということの必要性があまり感じられなかった。
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作家と画家という違いはあるけれど、作品から個人の生き様を追いかけていく構成は、「第4の神話」を思い起こす。読み応えはあるのだけど、主人公に共感しにくい点も「第4の神話」と同じ。とはいえ、簡潔な文章とミステリー的な仕掛けに、ぐいぐい読まされた。
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結局なにを前面に押し出したかったのかわからなかった。幻の郷土画家とそれを取り巻く人々、ゴッホのそれのように故人の絵がその本人の支配を超えて、一人歩きするプロセスは興味深かったが。最終的にはその全ては新興宗教の布教をたくらむ宗派の仕掛けた企てだった、との結末は少々宗教を扱う篠田節もここにきて食傷気味になってしまった。
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閉ざされた画家、宮嶋哲郎とその妻、智子。
画家の残した絵を通して、宮嶋哲郎と智子の人生をたどっていくストーリーです。
智子にとって人生というものは、哀しいものだったのか。それとも満足のいく作品をつくりあげたものだったのか。
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静かに淡々と長い小説。
エキセントリックなまでの妻の愛情。
いや、愛情と言うか、自分が絡んでいる(尽くしている)部分しか愛せてない気もした。
篠田さん作品でなければ、ただ長いだけで退屈になったかもしれない作品。
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篠田節子の もつ 身体の中のうごめきが
なんともいえず ざわざわ した心のざわめきが
うっとうしくもあり 同時に 人間って こんな風なんだろうな
と 妙に 説得力があり おどろきました。
『さが』 といえば 『さが』 なんですが、
一言でいえない 奥行きのあるものでした。
主人公は 宮嶋智子。
閉じられた画家を 献身的に支え
実家を飛び出し・・・郷里を捨てて
天才的な 画家を ささえた。
純愛のように思えたが・・・
天才でも オトコであり・・・
そして 悩み 惑うのである。
裏切られても・・・ただひたすらに 献身をする。
そうすればするほど 逃げていく。
タライの水を 引き寄せるには 引っ張ることではなく
押すことだということが わからない 智子。
どんどんと 自分を正当化させるための物語を紡ぐ。
しだいに 智子の虚構の物語 が崩れ去っていく
天才が 死んでしまったがゆえに
過去が 自分のものにできる。
そこまで 突き詰める 篠田節子の 筆力は
なんともいえないほど 執拗だ。
主人公の 智子の執拗さに比べれば
篠田節子の執拗さが 勝っているという
恐ろしい物語である。
でも 地元というものは ありがたいものである。
郷土愛 という屈折した 愛が さまざまな形で噴出する。
厳しい季節を おくらざるを得ない 切々たる思い。
それが おカネになると・・・人々は ばらばらになっていく。
もう一人の主人公 乳母像のモデルは
じっと時間をやり過ごす。
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一人の画家を巡る話。
ダラダラとした展開で、途中飽きてしまったけど、
この人が書く絵の描写はやはりすごいと思った。
(図書館)
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県立図書館より。
まだ読み始めてない。
初めの数ページを無理して読んでみた。
どうにも話に入り込めない。
平たく言ふと、面白くない。
で、挫折。
もう読まない。
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地方に埋もれていた画家の家族と地域の人達の話。
雑誌編集者が、雑誌に掲載した画家の絵の話題が出てくる随筆への反応で、画集の作成を企画する。
画家の配偶者が、画家を支え、地域の人と対立する。
地域の人の持っていた作品が、偽物だと断じる。
暗躍する画商と、お寺の話がきなくさい。
予想通り、画商の画策が表面化する。
個々の展開は想定外だ。
全体的には想定内だ。
推理小説としては中途半端かもしれない。
家族小説としては幸せな終わりを迎える。
篠田節子の小説家と常識人としての均衡の取り方は面目躍如かもしれない。
作家の家族に対する尊敬の示し方の技法を習得することができた。
複雑度がちょうどよい加減で、苦労が報われるという話として美談だ。
裏に現れる暗躍が、全体を破壊していないというのが出色。
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亡き地方画家とその妻をめぐり、画家を世に知らしめようとする出版社員、地域おこしを目指す人々、画商の思惑など、複雑に絡み合って、読み応え十分。さすが。
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神鳥にも連なる絵との出会いから画家の人生を描いた内容。一人の芸術家の生き様を浮き彫りにする過程で周囲の人間達のドラマも丹念に拾い上げてる。読んで思うのは芸術とは何か、に尽きる。これは仮想儀礼の読後に宗教とはと感じた疑問にも通じる。篠田節子はある既存の価値観に対して挑戦するのが好きなように思える。