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カルロス・クライバー ある天才指揮者の伝記 上 みんなのレビュー

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みんなのレビュー5件

みんなの評価3.5

評価内訳

5 件中 1 件~ 5 件を表示

紙の本

どんな拍手と喝采にも満足することができなかった不幸で孤独な男の実像と虚像

2009/12/02 16:49

14人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:あまでうす - この投稿者のレビュー一覧を見る




 クライバーといえば、私はすぐに80年代の渋谷の坂上のシスコというCD屋さんを思い出します。ある日のこと、一人のサラリーマンの男性が「クラーバーのCDありませんか?」と店長に尋ねていました。

なんでも出張先のミュンヘンで、生まれてはじめてクラシックのコンサートに行ったらそれがあまりにも素晴らしかったので、「クラーバーとかいう指揮者のCD」を買いに来たというのです。
私と店長は思わずためいきをついて、その男性の幸運と、クラシックの門外漢をたちまち虜にしてしまうこの音楽家の真価を、改めて確認したことでした。

かくいう私は、残念ながらカルロス・クライバーのライブを見聞きしたことはありません。けれども、彼が遺した2種類のシュトラウスの「薔薇の騎士」、もう一人のシュトラウスの喜歌劇「こうもり」、ロイヤル・コンセルトヘボウと入れたベートーヴェンの交響曲の4番と7番、バイエルン国立の「椿姫」、モーツアルトとブラームスの交響曲、シュターツカペレ・ドレスデンと入れたウエバーの「魔弾の射手」とワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」、スカラ座の「オテロ」などのCDやビデオから受けた驚きと感動は、凡庸な凡百の指揮者のそれとはまったく次元の異なる種類のものでした。

また彼が、若き日に南西ドイツ放送交響楽団と作った「こうもり」と「魔弾の射手」の2つの序曲の公開練習のビデオのすごかったこと! ここには彼の光彩陸離とした指揮術の魔法の秘密のすべてが、をものの見事に記録されています。

彼の音楽の素晴らしさは、「こうもり」の序曲の最初の終楽章を聞けば、どんなロバの耳にも明らかでしょう。指揮棒を一閃するや否や、シャンパンがはじけたように一気に解き放たれる恐るべき昂揚と爆発的な推進力。私たちの心臓は音楽の神様にわしづかみされ、魂魄は宇宙の彼方にぶっ飛ばされてしまいます。

「これが音楽なんだ。これが生きるよろこびなのだ。神様仏様、どうかこの音楽と共にある自分が永久に続くように!」
と私たちが祈らずにはいられない種類の音楽を、この男は、いなこの男だけが、ものの見事にやってのけたのです。もちろんその命を賭した大胆な跳躍が、あえなく潰えた無惨な夜も、いくたびかはあったとはいえ。

げにカルロス・クライバーこそは、音楽に霊感を吹き込み、私たちの人生を震撼させるほとんど唯一無二の音楽家でした。

♪エーリッヒのトラウマなかりせば聴けたであろうに「フィガロの結婚」 茫洋


さて、その渋谷で思い出しましたが、カルロス・クライバーはよくお忍びで日本に来ていました。東京では渋谷のタワーレコードがお気に入りで、店員さんの話では、アメリカのBEL CANTO SOCIETYから発売されていた、彼がスカラ座のオケを振ってドミンゴ、フレーニが歌った「オテロ」の海賊盤のライブビデオを、なんと3本も買っていったそうです。

この公演は、私などはじつに素晴らしい演奏だと思うのですが、1976年12月7日の夜のミラノの聴衆は、そうは思わなかったとみえて猛烈な「ブー!」を浴びせかけ、2幕の冒頭では、さすがのクライバーも指揮棒を振りおろすのをためらうシーンもあります。

しかし4幕が終わってオテロが死ぬと、スカラ座の屋台骨を揺るがすような大歓声が沸き起こり、全盛時代のクライバーは、悪意ある3階立ち見席の敵対者を完膚無きまでにねじり伏せるのです。

その天才指揮者の微に入り細にわたる伝記が、半分だけですが、ついに公刊されました。
著者のヴェルナーさんがどういう方かは存じませんが、ともかく資料と取材源の豊富さには圧倒されます。

そして、いつもは誰にも優しく、しかしいったん指揮台に上るや別人に変身し、ある時は神のごとく地上を支配し、またある時は悪魔のように怒り狂い、再現芸術の演奏に求められる最高の知性と教養と技術と霊感をそなえながら、音楽に対する理想が誰よりも高すぎたために、どんな拍手と喝采にも満足することができなかった、この不幸で、孤独な男の実像と虚像が赤裸々に描かれています。

本書が扱うのは彼の無名時代から、1976年ついにスターダムの頂点に達しながらバイロイト音楽祭の「トリスタンとイゾルデ」から突然降りところまで。偉大なる指揮者であった父エーリヒや母ルースとの葛藤はじつに興味深いものがあります。

聞けば彼は、その長い下積み時代に、オペレッタ「ジプシー男爵」や「美しいエレーヌ」「メリーウイドー」、「ダフネ」「売られた花嫁」「ラ・ボエーム」「蝶々夫人」「リゴレット」「ドンジョバンニ」などの膨大なオペラ、「ウンディーネ」「コッペリア」「三角帽子」「くるみ割り人形」などのバレエ音楽を、すでに自家薬籠中のものとしていたそうです。

これらのレパートリーと合わせて、アルベン・バルクの「ヴォツエック」、ミケランジェリと共演したベートーヴェンの「皇帝」などの録音も、とうとうゆめ幻と消え去り、ついに音源化されることのなかったことを思うと、私たちが失ったものの大きさに今更ながら深いため息が出るのです。


♪よみがえれクライバー、霊界の騎士像に立ちて「ドンジョバンニ」を振れ! 茫洋

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2011/06/01 00:43

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2010/05/10 00:11

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2012/12/24 14:37

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2022/01/20 00:48

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