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世界文学全集 3−03 ロード・ジム みんなのレビュー

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みんなのレビュー10件

みんなの評価4.2

評価内訳

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8 件中 1 件~ 8 件を表示

紙の本

ドストエフスキーの小説の主人公が、シェークスピアの物語を演じている

2011/06/29 14:29

3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:あまでうす - この投稿者のレビュー一覧を見る


はじめはタイタニックの遭難のようなスケールの大きい海洋小説なのに、話がとつじょ海から海へと経巡って、いきなりスマトラ島の奥地の密林に飛び、そこで「善の王」となりおおせた主人公ジムが、ロード・ジム(ジム旦那)と成りあがって、悪党中の悪党と対決するという迫真のドラマに息を飲まされます。

しかしそういう全地球的規模の物語空間の大移動よりも、心に深い傷を負った青年の罪障滅却、自己滅却の精神の旅路にこそ、われわれの主要な興味と関心があるのであって、ジムの地球よりも広大で複雑で奥深い魂に魅入られたわれらの小さな魂は、主人公の最後の悲劇が記された最後の頁まで呆然として拉致されていくしかないのです。

奥深いジャングルの中で打ち建てられた奇跡的な共同体の絆と規律と忠誠。そして激しく燃え上がる灼熱の恋! しかしそれらもまた砂上の楼閣のように、密林を舞うモルフォチョウの一瞬の輝きのようにあえなく滅んでいく。

コンラッドは彼の分身であるチャールズ・マーロウを語り部として、このロメオとジュリエットを思わせる悲劇を、ドストエフスキーの小説の登場人物を思わせる主人公によって再現させることに成功したのです。

「これぞ文学中の文学」といえるくらい非常に読みごたえのある小説です。

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紙の本

心の中で一度や二度、海に飛び込んだことはないか?

2011/05/14 12:38

9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:abraxas - この投稿者のレビュー一覧を見る

一読すると、一度の過ちで汚してしまった自分の名誉を、生涯かけて償うことで取り戻すことができるのか、というきわめてシンプルな主題を持つ小説のように見える。ピーター・オトゥール主演の同名の映画も同様の主題であった。しかし、改めて読み返してみると、それだけではない気がしてくる。

二年の養成期間を経て、晴れて憧れの船乗りになったジムは、航海中倒れてきた円柱の下敷きになり、東方のとある港に下ろされる。病院には恢復を待つ様々な船員の姿があった。仕事に戻る際、ジムは本国に戻らず、地元船の一等航海士の職を選ぶ。ジムの乗った「パトナ」号と呼ばれる老朽船は、マレー周辺から集まった800人の巡礼を載せてメッカに運ぶのが任務だった。

そのパトナ号が紅海近辺で座礁する。船長はじめ四人の白人船員たちは、事故に気づいていない乗客を見捨て、自分たちだけボートに乗って逃げようとする。ジムは、はじめ船に残ることを選ぶが、他の白人船員に呼びかける「飛び下りるんだ。」の声に誘われるように海に飛び込んでしまう。

すぐに壊れると思われた船首隔壁が持ちこたえたため、パトナ号は沈没を免れ他船に救助される。乗客を見捨てて船員が逃げるということは許されるものではない。海事裁判が開かれ、白人船員たちは船員資格を剥奪される。船に乗れなくなったジムは、港々で碇泊中の船に必要な物資を提供する船長番という仕事に就き、名船長番として評判になるが、パトナ号での噂はどこまでも追いかけてくる。その度に逃げるように職を辞しては別の港を探すという日々を続けていた。

この話の大半の語り手は、ジムから事件当夜の話を聞いたマーロウという船長だが、そのマーロウの友人スタインの世話で、ジムは、パトゥザンという、商人にも名ばかり知られているが、誰も訪れた者のいないジャングルの奥地に赴任することになる。ジムは、そこでの活躍が認められ、現地人にトゥアン・ジム(ジム閣下=ロード・ジム)と呼ばれることになる。美しい娘とも結ばれ幸せなジムだったが、悪名高いブラウン船長の出現がジムを窮地に追い込むことになる。

濃厚なオリエンタリズムを漂わせる東洋の海を舞台にした海洋小説。筋立てや舞台を見れば、典型的な娯楽小説のそれだ。ところが、作者は第三者的な位置にある話者を介在させ、主人公への安易な感情移入は許さない。そのため、ジムの人物像をどうとらえるかは読者に委ねられる。つまり、読み終わった後「ああ面白かった」と言ってすませることができないのだ。この小説が発表されたのは1900年。機械的に言えば19世紀だが、内実は20世紀小説である。神の如き存在が世界に君臨し、総てを統御するなどということは信じられなくなってきていた。人の行為を裁くのは「神」ではなく「人」になったのだ。

ジムの話を聞いて読者に伝えるマーロウという語り手の内心の声が加わることで、読者はジムの行為をどうとっていいやら悩まなければならない。逆に、そこにこそこの小説の面白さがあるといっていい。乗客を見捨てて、海に飛びこむジムの弱さを責めることのできる人がいるだろうか。窮地に陥ったとき、多くの人が心の中で一度や二度、海に飛び込んだ経験を持っているにちがいない。リアリストであるマーロウやスタインは、現実を直視することで、自分の中にある弱さや醜さを知っている。しかし、それは自分だけではなく人間なら誰もが持つ弱さでもある。しかし、ジムはそれを認めようとしない。スタインは、ジムのことをロマンチストと呼ぶ。マーロウは、それだけではないと思いながらも自分とは異なる価値観を持つジムに興味を持ち、次第にそれが親愛の情に変化してゆく。

しかし、マーロウが実名で登場するまでの冒頭部分には、ジムの心のうちを直截に語る話者がいる。養成船時代のエピソードからは、チャンスを物にできなかった自分の瞬時の躊躇を知りながら、同僚を妬み事実を自分に都合のいいように解釈するジムを見つけることができる。また、怪我が治った後、本国に帰らなかった理由として、安逸な生活を送りながら幸運を夢みている仲間に魅力を感じていたことも明らかにしている。これらのことから分かるのは、ジムという人物は退屈な現実よりも想像力が描き出す事態の方に魅力を感じるタイプの人間だということである。

だとすれば、船長たちが逃げ出した裁判に出廷して証言してみせたことも、その後の船長番としての活躍も、パトゥザンでの戦いで指揮をとったことも、みな彼の中にあるイデアリストの仕業ではなかったのか。パトナ号の事件を知る者が現れると、その港を逃げ出してしまうのは、自分の想像が創り上げたイマジネーションとしての自己の像が、現実の自分の像の前に色褪せて見えるのを恐れる心の為せる業であった。そう考えることができる。神を信じることのできる人物なら他人の目に自分がどう映るかなど気にしない。他者の評価が気になるのは、この世界が人間の思惑でできあがっていることを実感しているからである。ジムという人間は、神などこの世界にいないことを知りながら、英雄的な自己像を幻視することで世界と自分を偽って生きていたのではないか。

果たして、ジムはどんな人間だったのか、というのが作者コンラッドの提示した謎である。解釈は読者に委ねられている。冒頭部に示されたジムの姿がそれを解く鍵ではないだろうか。

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2011/04/06 15:14

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2011/05/09 19:04

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2011/05/23 16:19

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2019/04/25 15:07

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2022/10/23 11:07

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