紙の本
著者と作品に向き合う姿勢
2010/02/17 08:58
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
学資がなく休学の身の苦学生・芳光は住み込みバイト先の伯父が営む古書店の留守番中、叶黒白という作家の短編5編を探して欲しいという依頼を受ける。依頼者は北里可南子、黒白の娘であり5編のリドルストーリーの結末のみを所持しているという。
報酬に釣られ黒白の旧友や掲載誌、関係者を追ううちに、彼女と母親たちの身に起きた22年前の事件「アントワープの銃声」へと辿り付く。
なぜ夫であり父である黒白はこのような本を書いたのか?そしてなぜそれを封印したのか?
事件の真相を訴える5つの「結末」を用意しておきながら、それを描かず読者にラストをゆだねる「リドルストーリー」という形に仕立てなのはなぜなのか?
悲劇的な過去が作家の真意と共に少しずつ明らかになり、残すところあと一遍となったとき、芳光は一つの決断をする。
この物語には5つの物語とそれにこめられた一つの事実と、いくつかの真実がある。
5つの物語は言わずと知れた黒白が遺した小説だ。一つの事実というのはその小説で世に訴えたかったであろう、「アントワープの銃声」という22年前の、妻殺し疑惑事件の真相である。そしていくつかの真実とは・・・父としての黒白と夫としての黒白、その妻、その娘・可南子、そしてこの物語を追うことになった芳光が信じ、想い、そうと認めた真実である。
黒白の遺した小説はどれもゴシックホラーとでもいうのだろうか、例えばポーの「黒猫」や「アッシャー家崩壊」を読んだあとのような・・・なんとも後味の悪い、著者の意図を計りがたい終結を迎えている。 見つかったのは4編。
母が娘を耽溺するあまり火事を引き寄せてしまった「奇跡の娘」。
男が不条理極まりない国の裁判にかけられ妻子を失う「転生の地」。
妻子のために自らの命を断った中国の話「小碑伝来」。
足かせとなった妻子を危険な道へと誘導した男の本意が問われる「暗い逐道」。
どのストーリーも家族と彼らの死が描かれ誰がなぜそうしたのか?誰が生き残ったのか?という肝心要の部分が、結末を読者の想像に任されるリドルストーリーという形をとっている、という共通点がある。
22年前妻子に起きた悲劇とその「スキャンダル」報道に人生を転落させられた著者自身の、世間に対する恨みがこの小説を書かせたのだとしたら、なぜ世間にそれと解るような出し方をしなかったのか?なぜ結末を伏せたのか。そしてなぜ、結末だけを掲載せずに断片として書き遺したのか・・・。
悲劇の後帰国した彼が娘と二人過酷な状況と嘲笑の中に埋もれたことを考えれば、そして彼自身の手記を読めばこれら短編を世間への糾弾と真実を訴えるために書いたのだと解る。
しかし最後の謎、なぜその目的である結末を封印したのか? その謎は黒白が生涯かけて仕掛けた深い深いトリックであり、我々読者は最後の最後まで踊らされるだろう。
リドルストーリーは歯切れが悪く後味悪く、それでいて読み終えた後も魅了し続ける。しかし著者により放り出された結末を読者が各々の見解でケリをつけるこの形式は、著者と読者の共作という意味で2者の信頼関係の上に築かれる、読者に優しい形である。
しかし、そうだろうか? 少なくとも本書と本書に登場する追想された5編の断章は、著者によりこの上なく突き放された形ではなかろうか?
世間への講義新から吐き出すように書き上げたであろう真相を訴える5つの断章は、最終的には「世間」に発表されることはなかった。
人の目を盗むようにこっそりと発表され、事件の真相である結末を用意しながらもそれらは引き剥がされ巧妙に隠された。
唯一その結末に近づくことを許された可南子と芳光すら、幾重にも翻る結末と彼の本意に踊らされていく。
無論、読者である私たちも、だ。
本を読むということ、それは受身であることが多い。
用意された結末と背景を必要としない本文とで構成される物語は世に多く、私たちの多くはその優しい読書に慣れているのである。
読者を突き放したリドルストーリー。
読書するということ、物語の真意を汲み取るということ、能動的に、読者から著者へと挑戦し続けるということ。
その重みに気付き、姿勢を正された一冊であった。
投稿元:
レビューを見る
2009.08.27 購入
2009.08.28〜09.07 読
フラゲどころか1日遅れでゲト!
とりあえず、全く読んでない新シリーズ(というか、これ1冊で終わりなんかな?)なんで、楽しみ!
どーでもいいけど、近所の本屋1冊も置いてなかったorz
一気に読めるというか、一気に読みたいけれども、あえてチマチマと途中で読むのをやめて、イロイロ考えてっていうか想像しながら読みました。
「いぶし銀」って表現で通っているみたいだけれど、この話に出てくるほぼ全ての登場人物の心情からすれば「鉛色」みたいな感じ。
苦い…苦すぎる。。。
調子のいい時に読むには気にならないだろうけど、自分が苦しい時に読むとあまりにも気分が引っ張られてしまう。。。
でも、ハッピーエンドじゃないけれど、この話の着地点としてはここが一番だと思う。
ミステリっていう軸に則っていても、カテゴリが丸ごとミステリか?と聞かれればそれだけではもったいなさすぎる。
ミステリというか、謎としても、過去の事実の結末としても、ものすごくきれいにストンと落ちた。
あぁ、でもやっぱり苦いよ。
あと多分自分にとってのリドルストーリーはこれが初めてだと思う。
読後もいろいろ振り返って考えて、読み返して…って楽しめる1冊。
投稿元:
レビューを見る
本当にこの作者?!という位、つまらなかった…。
帯にある「本格ミステリ」というのは「この表紙のことか?としか思えない(ちなみにこういう絵は趣味に合わない…)。
キャラについても特に書いていないし、深みがないし…。
ストーリーも特に面白みがないし…。
オチも「結局、だから?」としか思えないし…。
次回作に期待を込めます。生意気言ってすみませんでした。
投稿元:
レビューを見る
当に楽しみにしていて、発売当初は書店で見つからないので注文して取り寄せた本だったのですが、受験勉強にかまけて読みかけのままにしていました。やっと読了。
米澤作品独特の余韻がたまらなくて、いままで読んだ作品のように何度も読み返したくなりました。
投稿元:
レビューを見る
特に買うものを決めずに本屋に行ったところ目にとまった一冊。米澤穂信さんと言えば“古典部シリーズ”や“小市民シリーズ”という印象があるけれどそれらとは違った雰囲気のある作品でで面白かったです。機会を見てもう一度じっくり読み直そうと思う一冊でした。
投稿元:
レビューを見る
次々と明かされるリドルストーリーの結末。
でも、もしかして・・ってこんな終わり方わかった気がする。
投稿元:
レビューを見る
何だか馴染めぬまま・・・
退屈なまま・・・
読みきった感じ。
ラストに関しても、途中でうすうすわかっちゃったし、
あくまで、個人的に好みではない作品でした。
《2009年9月21日 読了》
投稿元:
レビューを見る
いやあ、良かった。
期待通りだった。
米澤穂信はおもいっきりミステリーマニアと思ってます。
なのでミステリーファンの期待を裏切りません。
依頼人の亡くなった父の書いた5つの小説を探して物語が進むのですが、
22年前の事件が絡んできて、
見つかった小説を読むと色々と想像できて、
なんともワクワクです。
しかも、見つかる小説が全てリドルストーリーなんですよ。
リドルストーリーとは最後の結末が書かれていないのです。
最後の結末を書くと蛇足になったりして面白くない場合などに
しばしば使われます。
今回は、別に父が5つの結末を残していて、
小説が見つかるたびに、それを付け足して読んでみて、
なぜ、リドルストーリーにする必要があったのか
なぜ、この結末なのか
などを考えながら、謎解きをやるんですよ。
そこが良かった。
色々想像できた。
最後はなんというか、
悲しい気持ちになったけど、
それをリドルストーリー5つで描いた父の気持ちは
ものすごく大切な宝物でした。
去年の「儚い羊たちの祝宴」の最後の一行の魔術といい。
今回のリドルストーリーといい、
期待を裏切らない手法に満足です
★★★★(8点)
。
投稿元:
レビューを見る
設定された年代ならではの描写には懐かしさを覚えると同時に、不便が故の面白さってあるよなあ、と再認識。
アントワープの銃声の真相には疑問を感じた。それ、成人男性なら一蹴できるんじゃないかな?
投稿元:
レビューを見る
父の遺した作品を探して欲しい、という奇妙な依頼を引き受けた古本屋の居候の物語。
ミステリー…というにはちょっと違う感じもしますが、おもしろかった!
作中作も入っているのでお得な感じです。
投稿元:
レビューを見る
結末をあえて書かない“リドルストーリー”がテーマの一つ。
全ての謎が解けたときにわかる、謎にこめられた思いがなんとも−−切ない?苦しい?
適切な表現が思いつかないけれど、面白いのは確かです。
投稿元:
レビューを見る
◎ダ・ヴィンチ2009年11月号
「今月のプラチナ本」
◎週刊文春ミステリーベスト10 2009年国内第5位
◎ミステリが読みたい2010年版
[2009年ミステリ・ベスト10]国内第3位
◎第63回(2010年)日本推理作家協会賞候補作品。
◎第10回(2010年)本格ミステリ大賞候補作品。
2009年11月11日(水)読了。
2009−111。
投稿元:
レビューを見る
古書店アルバイトの大学生・菅生芳光は、報酬に惹かれてある依頼を請け負う。依頼人・北里可南子は、亡くなった父が生前に書いた、結末の伏せられた五つの小説を探していた。調査を続けるうち芳光は、未解決のままに終わった事件“アントワープの銃声”の存在を知る。二十二年前のその夜何があったのか?幾重にも隠された真相は?米澤穂信が初めて「青春去りし後の人間」を描く最新長編。
投稿元:
レビューを見る
“「菅生さん」
抑揚なく、可南子が尋ねる。
「なぜ、戻っていらしたんですか。もう、依頼は断るとおっしゃったのに」
「仕事を終わらせるためにです」
自分の言葉に、芳光は驚いた。しかしその先も、言うことは決まっていた。
「僕はもう、大学に戻れる見込みはない。伯父の家にもいられない。だけどこれは僕の仕事です。叶うなら、終わらせたい」
たとえ自分の物語ではないとしても、と口の中で付け加える。”
米澤さんの物語の作り出す、ほろ苦い後味が好きだ。
恋愛関係じゃなくて、人間の過去のほろ苦い後味。だけど、どこかあっさりとしていてすぅっと消えていくような。
父親の遺した五つのリドルストーリーを探してほしいと頼まれた大学生の菅生芳光。
小説を探すにつれて明らかになってくる依頼主北里可南子の過去と“アントワープの銃声”。
全てが繋がって、小説は見つかって、可南子の過去が明らかにされて。
だけど、それが何だっていうのだろう。
“父親の一周忌を翌日に控え、芳光は泣いた。
いったい、人間の生き死にに上下があるのだろうか。一篇あたり十万円の金で他人の物語を探す間に、花の季節は移り変わっていく。どうしてこんなことになってしまったのだろう。
ひどい虚しさが胸を覆っていく。雨音だけがうるさい夜だった。
翌日、母の車で掛川駅まで伯父を迎えに行った。
伯父は芳光を見やると、
「ひでえ顔してやがる」
と呟いた。”
投稿元:
レビューを見る
古書店でアルバイトする主人公は、ある依頼を請け負う。
その依頼とは、結末の伏せられた五つの小説を探すこと。
その小説とは、依頼人の亡くなった父親が生前に書いたもので、
ある事件との関連があった。果たしてその真相とは?
と書いてしまうと、普通のミステリに思えないこともないが、
作中作の物語と、結末の伏せられたリドルストーリーが、
幾重にも連なり、結末を予想させない。
リドルストーリーという題材を最大限に生かした妙作だ。
話はすべて終えた、と思った最終章で、新たな展開が待っている。
人によってだとは思うが、当方はまったく結末が予想できなかったので、
「なるほどなぁ。やられた!」という衝撃でした。
小説好きにはたまらない要素がいろいろ入ってます。