紙の本
リーマンショックをどうとらえるか
2010/07/19 21:53
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投稿者:CAM - この投稿者のレビュー一覧を見る
『9・15リーマンショック』について、細谷英二(りそなホールディングス取締役兼代表執行役会長)、林田英治(JFEスチール代表取締役副社長)、竹中平蔵(慶応大学教授)、木下光男(前トヨタ自動車代表取締役副社長)、斉藤惇(東京証券取引所グループ取締役兼代表執行役社長)、上田良一(三菱商事代表取締役常務執行役員CFO)、堀新太郎(ベインキャピタル・ジャパン会長)の各氏とのインタビューを編集したものである。広範な分野からの人選であり、200頁余の新書であるが、かなり有益かつ啓発的な内容となっている。
その中でも比較的に印象に残ったのは、細谷英二氏のものである。私は従来から同氏の経歴を見て、旧国鉄出身者にこの難しい時期の銀行経営者が務まるのかということを疑問に思っていたのだが、立派に銀行経営者としての見識を具えておられるのを感じて、敬服の念を覚えた。
たとえば、氏は次のように語っておられる。平易・平凡な表現のようではあるが、適切な指摘だと思う。
>「市場の失敗」は必ず顕在化しますから、反省・修正ができます。しかし、政府の介入から生じた失敗は顕在化しにくいし、隠されることすら起こり得ます。しかも、市場メカニズムに政府がつねに介入するとなると、イノベーションが起こらなくなってしまいます。
私は、やはり、市場メカニズムにウェイトを置きながら、市場の透明性をいかに挙げていくかを考えるべきだと思います。小さな失敗はあるかもしれませんが、それが世界経済を活性化させ、世界を豊かにしていくことにつながります。(p.42)
竹中氏は、米国政府がリーマンを破綻処理したことについては、「商業銀行の場合、一般国民から預金を預かっているので、潰れるようなことがあれば、深刻な社会的影響が出ます。特定の金融機関の破綻をきっかけに、決済システムの機能不全か、他の金融機関や市場へ連鎖的に波及していく“システミック・リスク”を引き起こすおそれがあります。
このような場合、政府は、金融システム保護の観点からマーケットに介入し、銀行を一時国有化するなどして、救済せざるを得ません。しかし、リーマンは投資銀行で、決済システムを有していません。したがって、基本的にマーケットのなかで処理すべき話であり、政府が介入する大義名分が立ちません。」(p.73)と、さすがに的確なことを述べている。
しかしながら、時価会計制度導入の問題についての考え方にはいささかの問題があるのではないか。 竹中氏は、経済財政政策担当大臣のときに、時価会計を簿価会計に戻したいという要望を、「病気で体重が減ってしまったから、体重計の目盛りを変えましょうといっているようなもの」と言って拒否したと語っている(p.82)。しかし、この比喩は適切ではないだろう。これは、体重計の「目盛り」を変えたいというのではなく、「計量時点」を変えたいという要望であるからである。人間の体重は一日の間で相当に上下するはずである。
ただでさえ会計制度の転換は多くの問題を生じることになるものである。しかも、インフレ期や好況時に導入しようとするならともかくとして、デフレ不況時に簿価会計を時価会計に転換するなど、狂気の沙汰ではないか。一時期、一部の論者は時価会計制度が絶対的なもののように主張した。しかしながら、たとえば、2010年6月18~19日の 日本経済新聞は、「揺れる時価会計」という記事を載せて、「金融危機を受けて見直し作業が進む時価会計ルールを巡り、国際会計基準(IFRS)と米国基準との溝が広がっている」旨を述べている。
また、2010年4月27日の、日経新聞「大機小機」は、「東京市場国際化の功罪」という題の下に「どのような世界でも戦略的発想の基本は差別化、つまり競争相手と違うことをすることだ。ところが日本の当局や証券取引所は、欧米市場追随が国際化だという誤った戦略のもとで、海外の投資家が喜びそうなルールを次々に導入した。そのツケが様々なところに表れている」として、「国際化戦略の誤りのもっと深刻な問題は、海外の投資家に迎合したルールが日本企業を痛めていることだ。デフレ経済下での時価会計は長期投資の意欲をなえさせてしまった」と述べている。適切な指摘であろう。
時価会計主義のかつての代表的論者として、竹中氏のほかに木村剛氏がいたが、木村という人物の未熟さは遂にはっきりと暴露されてしまった。私は、竹中氏や木村剛氏には、上記「大機小機」が述べるような視点からの戦略的発想がまったく欠けていた、と考えている。
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トヨタ、JFE、三菱商事、東証の経営陣が、昨年のリーマンショックとその後の対応につき振り返る。
どれだけ早く情報をキャッチしContingency Planを洗い出しておくか、Crisisが起こったときにどれだけ早く対応するか、という点で非常にためになる。
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金融ビジネスはリスクとリターンのマネジメント。過去におきたリスクは必ずまた起きる。金融は血液、血液がなければ人間は生きられない。
BRICsをいかに取り込むか。今や世界最大級の翔被告だから。
日本には技術、資本、貯蓄、人材が十分にあるから立ち直る力は十分にある。
日本企業はコア事業がグローバルに最大の利益をあげるような仕組みを作らなければいけない。地域単位でマーケットを見る必要がある。
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2008年のリーマンショック。
そして、その後の金融危機という世界不況。
その中で、財界トップはどう考えたのか。
7人の経営者のインタビューをまとめた聞き書き。
正直な話、ただのぺーぺーの俺には、あまり共感する
所はありませんでした。結果論でしかないような気もするし。
事情があって、十分攻めきれていなかったから傷が
浅かっただけじゃないのとも思えてくるような話もあるし。
ただ、ビジネスマンとしては、無計画に仕事を進めるんじゃ
なくて、リスクマネジメントの観点でのチェックを欠かしては
いけないんだなということだけは再認識。
そういった意味で、中国のバブルって大丈夫かな。
とりあえず、ちょっとしたうんちく話のネタには使えるとは
思います。
http://teddy.blog.so-net.ne.jp/2010-02-02
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2011/1/30読了。
2008年9月15日のリーマンショックを、最前線にいた7人の証言で振り返る。
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[ 内容 ]
二〇〇八年九月十五日、米投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻した。
世界経済は、一夜にして未曾有の危機に陥った。
日本経済も深刻なダメージを受け、多くの企業は、いまだ先の見えないトンネルのなかにいる。
世界同時不況下、トップたちは、何を考え、どう動いたのか。
七人の証言は、金融危機の本質に迫り、資本主義の行く末を探るための重要な手がかりとなるはずだ。
[ 目次 ]
はじめに-九月十五日の悪夢
1 危機から何を学ぶか(細谷英二)
2 高炉停止の決断まで(林田英治)
3 危機を乗り越える力(竹中平蔵)
4 市場回復に備えて(木下光男)
5 市場の神様の鉄槌(斉藤惇)
6 新たな成長モデル(上田良一)
7 誰もがダンスを踊った(堀新太郎)
おわりに-変化はすでにはじまっている
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
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☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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リーマンショックを起業経営者や学者やその他ステークホルダーの視点から見た現状をリアルに記してあり、その内容は実に興味深い。
リーマンショックを少し異なる視点から考察するのにもってこいの一冊。
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2008年9月15日にリーマン・ブラザーズが倒産してからもうすぐ2年が経過しようとしています。今から記憶をたどると、2008年前半までは絶好調の景気だったので、それまでアクセルを全開にしていた各企業はブレーキをすぐにかけることができず、リーマンショックの悪影響が出始めたのは2009年1月からだったように思います。
少なくとも私の勤めている会社の受注量に影響が現れたのはそうだったと認識しています。この本は、リーマンの倒産を耳にしたときに企業の要職にあった7人の人達がどのように感じたのかをまとめたものです。
危機を感じ取ることのできた人の考え方やセンスを今後の社会人生活に活かしていきたいと思いました。
以下は気になったポイントです。
・リーマンショックの影響が少なかったJPモルガンは、SIV(特別目的会社)を通じた運用を一切認めなかった、ゴールドマン・サックスも2007年12月の段階で、トップダウンの決定で、サブプライムローン関連の商品を売り始めた(p30)
・無借金経営を 目指して借入を少なくしてきた企業が、逆に資金繰りの余裕がなくなった、バランスシートの綺麗な企業ほどリスクに晒された(p35)
・りそな銀行が早目の決断ができた理由として、1)公的資金を受けているため過大なリスクをとるのに慎重であった、2)海外業務から撤退したので情報源が限られていたので海外案件は慎重であった(p37)
・JFEは資源高に対処するために、国内鉄鋼大手4社、伊藤忠、韓国ポスコと共同で、ブラジル資源会社のナミザ社を買収した(p52)
・2002年の川崎製鉄との合併前の粗鋼生産量は合計2650万トン、2基の高炉を停止したにも拘わらず2007年の生産量は3050万トン、生産性の向上により生産能力および収益力が上がった(p60)
・リーマンは投資銀行であり、決済システムを有していないので、基本的にはマーケットの中で処理すべきものであるが、一方の商業銀行は決済システム機能不全から他の金融機関への波及を防ぐために救済する必要がある(p73)
・アメリカのFRBがAIGとリーマンとの対応に違いが見られるとすれば、「AIGには資産があった」のでネットで債務超過になっていないということ(p74)
・本当のリーマンショックの発端は、9月29日、米下院議会が緊急経済安定化法を否決して、公的資金投入案を否決したことにあった(p77)
・成長しているときは、普通の人が普通にやれば食べていける、低成長経済下では新しいビジネスモデルを考えつく賢い人でなければ、生活は苦しい、なので成長する社会にすべき(p91)
・日本が成長するために、1)法人税の引き下げ、2)オープンスカイ、3)東京大学の民営化、が必要(p92)
・アメリカ自動車市場の最前線からは、2008年5月頃から、どんなに販売努力をしても売れないという声があった、ピックアップトラックや大型SUVは3月頃迄は売れていた(p100)
・2008年度開始直後から、緊急VA(���リューアナラシス)活動、経費削減活動、設備投資抑制を開始した、VA活動は15年ブリのこと(p105)
・アメリカではほとんど100%の人がローンで自動車を購入する、トヨタ車の場合、トヨタローン利用ケースが4割、残りが銀行ローンであった(p108)
・昔であれば1,2年かけて生産調整をするが、現在ではジャストインタイムは世界的に普及しているので、一気に生産がストップできる(p127)
・リーマンの社債は、直前の金曜日まではA格付けがされていた、週末の間に破綻に追い込まれた(p146)
・2009年9月29日に下院で緊急経済安定化法が否決されてから翌30日から10月1日にかけてはユダヤ教の新年にあたる日であり議会は休会、修正案の可決は10月3日(p150)
・時価評価が株価の下落を加速している、時価会計は「金融の理論」であり、実際の損益は売買したときに発生するので、期ごとの評価と実際の最終損益は一致しない、株価が暴落した場合は、実体以上に損益を悪化させて、自己資本が毀損することになり融資の拡大もできなくなる(p181)
2010/08/29作成
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リーマン・ショックにどのように日本の経営者が対応したかを、経営者自らが語るインタビュー集。金融経済側と実体経済側の二者の立場が興味深い。
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金融、産業、学界など、7人の有識者がそれぞれのリーマンショックを語る。先行き不透明な時代。いかにリスクマネジメントに取り組むかが今後も問われることとなる。松下幸之助の言葉が紹介されている。「かつてない困難からは、かつてない革新が生まれ、かつてない革新からは、かつてない飛躍が生まれる」。リーマンショック後も業績を伸ばしている企業がある。