紙の本
芸術蘊蓄がたっぷり!!芸術探偵シリーズ第3弾。
2010/10/17 14:47
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投稿者:惠。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ハジメマシテの作家さん。芸術探偵シリーズを書かれているので以前から気にはなっていたのだけれど、デビュー作『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ ! 』がネックとなって暫く静観していた。だって…ねぇ…「犯人はあなただ!」って言われたりゃ、そりゃ…ねぇ。たぶんそうなんでしょうけれど。
しかし芸術探偵というその魅力的すぎる響きに負けて手に取ることにした。本書は芸術フリークの瞬一郎(20代後半)と伯父の海埜(うんの)刑事が歴史や芸術に秘められた謎に迫る芸術探偵シリーズの第三弾。先に『エコール・ド・パリ殺人事件 レザルティスト・モウディ 』と『トスカの接吻 オペラ・ミステリオーザ 』が刊行されているのだけれど、一番気になるシャガールから開いてみた。
高校卒業後の6年にわたるヨーロッパ遊学から帰国し、清く正しいフリーター生活を送っている瞬一郎。アルバイトをしては旅費を貯め、資金が貯まったら旅に出るという生活を送る日々。
旅行中現地で購入して送った書物を引き取るために伯父の海埜刑事の元を訪ねたところから物語は始まる。6年間の遊学中のことはあまり話したがらない瞬一郎が、フランスのランス滞在中に遭遇した事件を小説風にまとめたのでそれを「読みますか?」と海埜に尋ねたのだ。
もちろん海埜はその小説風のものを読むことにする。そして読者は海埜とともに瞬一郎が記した作中作を読むことになる。その作中作のあらすじは裏表紙にあるとおりだから割愛するが、この作中作が曲者中の曲者っ(誉めている)!!!
まず、芸術的蘊蓄がこれでもかというほど盛り込まれている。建築から美術そしてそれらを切り離すことのできない歴史と。登場する画家の名もシャガールだけでない。フランスの画家だけでなくフェイメールも登場するし、レーニにリオナルドとしてフランスで晩年を送った藤田嗣治(Leonard Foujita)だって…。
ランスでまず思い出されるのが歴代国王の戴冠式を行ったノートルダム大聖堂(wikiリンクを入っているので是非クリックして、その姿を見てほしい)。
ランスのノートルダム大聖堂(パリのではない、よ)はゴシック建築として有名で、世界遺産にも登録されている。そして瞬一郎の作中作における事件の舞台でもある。大聖堂に嵌められているシャガールのステンドグラスを見ていた人物がふたり、不審な死を遂げたというのだ。
この事件の謎の解明に挑んだ瞬一郎がランスで出会ったひとびとと芸術論を交わしたり、考えたりするのだけれど、この行程が楽しすぎるっ!!!蘊蓄満載!蘊蓄万歳!!
ここまで来ると「蘊蓄」というより「芸術論」なのだけれど、これでもかっていうほど盛り込まれている著者の知識(著者は仏文学博士課程を修了。仏留学経験あり)が興味深い。これは芸術版のタタルだ!!―― そう思った。
作中作の展開は『ダ・ヴィンチ・コード』を彷彿させるのだけれど、暗号の謎解きに重点を置いた『ダ・ヴィンチ・コード』に対してこちらはあくまで芸術メイン。ミステリとしてははっきりいって「うーん…」と思うところばかりだけれど…。
でもいいのっ!!!!
蘊蓄を読んでいるだけで楽しいんだものっ!!!
さて最後に重大なお報せをひとつ。瞬一郎が記した作中作は漢字とひらがなのみで構成されている。現代ではカタカナで表記されるのが当然のフランス、ステンドグラス、ランスを初め外来語も全て漢字表記。カタカナが一切使われていないのだ。
その理由は本人の弁を引用しよう。
「もっとも単なる懐古趣味でこういう文体、こういう表記にしたわけではありませんよ。その事件の舞台になったのは、ランスにある世界遺産のゴシック式大聖堂なんですけど、その壮麗極まりない大建築物を日本語の文章で表現するには、この文体、この表記しかないと思ったんです。(略)この表記でなければ絶対に負けると思ったんです」
「小さい頃、漱石の『倫敦塔』を読んで頭の中で想像したロンドン塔は、本物のロンドン塔より何倍もすごかったです。(略)同時に文章も人間同様、中身だけじゃなくて、やっぱり見た目の美しさも大事だということを知りました。(略)だから漱石の顰に倣って、『倫敦塔』ならぬ『理姆欺大聖堂』を書いて、しかもそれが本格ミステリになっていたら面白うだろうと思ったのが、そもそものはじまりなんです」
この瞬一郎がまたタタル並みに一癖も二癖もある人物で、実に愛おしい。作中作にカタカナは登場しないけれど、難読語に毎回ルビを振る総ルビ方式が取られていて、仮名遣いは現代のそれが用いられているのでそれほど読みづらくはない。むしろ日本語の奥深さを味わうことができて清々しい気分になるくらいだ。
他のシリーズ作品がどういう構成になっているのかはわからないけれど、このシリーズ、とっても楽しいので読み進めることにする。
ちなみに「理姆欺大聖堂」は「ランス大聖堂」のことで、タイトルの「花窗玻璃」は「ステンドグラス」のこと。カタカナと漢字じゃずいぶん雰囲気が違うでしょう?
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作中作のスタイルがとられていますが・・・。
漢字ばっかりです。でも、カタカナを漢字で書く
というのは情緒があってカタカナよりも
綺麗で幻想的な感じがします。
今回もトリックや犯人が意外でミステリーとして
とてもよかったです。
美術描写が分かりにくいので写真とかあったら
いいのにって思いましたが・・・。
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ランス大聖堂で起きた2件の転落事件。大聖堂を愛しシャガールのステンドグラスを憎む老人。2つの殺人事件に隠された秘密。
市川図書館
2009年11月10日読了
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古野まほろ作品のパクリ?カタカナ系単語を全て漢字(当て字)にして、ルビをふっているのが、とても読みづらかった。
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シャガールのステンドグラスと三つの事件。
生涯をかけた執念に黙祷を。
作中作ではカタカナを使わず漢字表記オンリー。
北原白秋とか好きだったので、こういうのぞくぞくします。好き。
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ミステリと芸術論の融合はさらに磨きがかかっている。
芸術的なものの観光地化や、伝統的なもの、伝統的な芸術と現代芸術との対立、そしてそれを語る一人の老学者と主人公の語り合いが非常に魅力的であり、どちらの意見にもうなずけるものがある。
そして、それを描くために事件が用意されたように思える。
(これに関しては毎回そうだけど)
メイントリックは、ある種の知識がないと解けないけど、犯人の動機とも上手く絡んでいて良かった。
もう一つのメイントリックについては、現地を知らないと想像しにくいと思う。
もちろん想像できるように描かれているのだから、読み取り不足と言われればその通りなんだけど・・・・・・。
でも、このトリックと作中人物の奇妙な行動については膝を打った。
芸術論が魅力的過ぎて、ミステリ部分が(悪くないのに)付け足しのような気がしてしまうのが残念。
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芸術とミステリーの融合がなされているが、
無意識下での自分の絶対的な美意識の上に作品が
形成されており、読めば読むほど価値観の押し付けを受けている
気分になる。
漢字や美術品に対しての蘊蓄もちょっと多すぎるし、それでいて
これらが理解できない君とは分かり合えないと冷笑を浮かべ、
好きで好きで堪らない語学というよりかは、それを使いこなす、
習得する自分が好きだという印象を受ける。
本物を見極められる観察眼を持った自分を過大評価し、学者である
老人・画家の卵を下に見て自分は凄いと持ち上げてる感じがして
ミステリー云々より主人公が好きになれなかった。
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とても中身の濃い一冊です。
凝った表現方法をとっているのに、すいすい一気に読まされてしまうリーダビリティ。
ネタバレ感想を順不同で。
マルタン刑事の叙述トリック(?) まんまとひっかかりました。
ジャン・レノ系の渋いルックスで想像しながら読んでいたらアレ(笑
いやジャン・レノも「グラン・ブルー」で共通するある要素を演じていたからアリか?
タイペイさんがお気づきになったあれは、一読わかりませんでした。
あれにお気づきになるとはすごい!
クラシックの楽曲などで、サビの旋律を最初にさりげなくモチーフとして提示する感じで、ノベルスP55の、
長髪を真っ赤に染めた若者 →後半でローラン氏につっかかるレストランの客
ロウソクを無駄につける紳士 →真相のトリックの暗示
「神のくそったれ」と言う赤毛の少女 →真犯人の生い立ちを暗示
しているのかな?と思いました。
ローラン氏が、「昔から通ってるからあいつは自分に頭が上がらない」とか思ってるレストランの主人が、実は彼をうざいと思ってそうなとことか、ありそうでいて切ないです。
「天使を見た」という並はずれて視力の良い目撃者と、真相の絵画的な描写がすばらしいです。
個人的に、情景がありありと目に浮かぶような華のあるトリックが好きです。
グイド・レーニの絵画のエピソードは胸が痛みます。
真の動機もそうですが…
そういうことする人は、自分が相手の人生をめちゃくちゃにしてる、とか反省の気持ちは持ちようがないのでしょう。
殺して排除するしかないというのがやりきれないです。
いろいろなことを考えさせられ、かつ盛りだくさんの満足度の高い一冊でした。
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瞬一郎探偵シリーズ第三弾。
フランスのステンドグラスがモチーフ。その頃の教会建築が好きなので薀蓄も面白く読めたし、作中作の片仮名を使わない試みも、それについての瞬一郎の言い分も、良い。ただ、…トリック的にはどうも、こう、腑に落ちないというかカタルシスが足りない、というか。
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あまり長いお話ではありませんが、読むのに時間がかかりました。舞台のほとんどがフランスなのでイマイチ入り込めず。
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最近の好きな作家の一人が深水黎一郎。で、期待して読んでみた。
なかなか実験的な推理小説。物語の中に別の物語があるという「作中作」の手法を使い、その「作中作」ではカタカナを一切使わないという実験的な試みも行っている。作者は他の著書のあとがきで述べているが、このカタカカナを使わない手法と言うのは、推理小説の持つ、ある種、独特の雰囲気を醸し出すのに有効とのこと。本書では成功しているのではないだろうか。
また、本書では芸術論なども述べられているが、いろいろな事に造詣の深そうな作者の本領発揮ということか、なかなか勉強にもなる内容である。
内容は・・・、仏・ランス大聖堂から男性が転落死した。地上81.5mにある塔は、出入りができない密室状態で、警察は自殺と断定。だが、半年後、また変死体が!二人の共通点は死の直前に、シャガールのステンドグラスを見ていたこと・・・。ランスに遊学していた芸術フリークの瞬一朗と、伯父の海埜刑事が、壮麗な建物と歴史に秘められた謎に迫る・・・。(裏表紙)
裏表紙の紹介文では、この本の良さを伝えきれてないな。伏線も回収されており、事件(この場合は殺人だが)の動機も納得できるものだし、犯行の方法も、まぁ、有りうるかな、とは思わせる。
ただ、犯行現場からの逃走の方法がいただけない。まるで、サーカスのようなアクロバットを使っての逃走である。これじゃぁ、現実感に著しく乏しい。自分の感覚では、ほぼ不可能。
せっかく良い作品なのに、ここの部分で台無し。これが無かったら☆5個なんだけど・・・。
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力技すぎる物理トリックはどうかと思いますが、とにかくテキストが(いろんな意味で)実験的なのが面白い。聖堂のもたらす酩酊感を表現しようとしていたとは恐れ入ります。
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フランスのランス大聖堂が舞台……駄洒落か!と思ったりしつつ読んだ。
芸術フリーク瞬一郎シリーズ。瞬一郎が海外に行っていた間のことを知りたがる伯父の海埜刑事に、彼が実体験から書いた本格ミステリ(作中作)を公開する、という体の小説。カタカナを一切使用せず明治・大正の日本の作家の顰に倣ってみたという作中作は「なんて中学生が飛びつきそうなことを!」とニヤリとした。海埜から読者の誰もが思っているであろう作中作と深水作品への疑問を瞬一郎があっさり返すのがメタくて面白かった。瞬一郎の犯人への対処がかっこ良すぎて感動した。
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2013/7/24
作者は独特な人だなと思う。
作中作がちょっと読みにくかったけど、それもわざとなんだろうね。
ツイッターでつぶやくのを見てるからそれを思い出してニヤニヤするとこもあり。
そこまで漢字にこだわろうとは思わないけど何でも安易にカタカナにするの私も反対!
確かに漢字表記は美しい。
そしてどの文字で書くのかを選べる日本語は素敵だ。
猫・ねこ・ネコ。どれもイメージが違うもの。
日本に生まれてラッキーでした。
日本に生まれて幸運でした。
ほら、なんか深刻さが違う。
今回は「ラッキーでした」がちょうどいい。
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薀蓄+ミステリ、舞台設定など、笠井潔へのオマージュか。
ミステリ部分はかなり腰砕けな感じもするが、美術、歴史部分が面白いので、都度、画像検索しながら、総じて読める。7.0