紙の本
本当の「悪人」は誰なんだろうか。私には無責任に影に隠れたまま当事者に石を投げつける人間たちこそが「悪人」だと思えて仕方ない。
2010/07/31 17:36
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みす・れもん - この投稿者のレビュー一覧を見る
読み終えた今、思うのは・・・。
直接の加害者も、間接の加害者も、確かに罪を犯した。人の命を奪ったのだし、奪うきっかけを作ったのだし。
だけれど、本当の「悪人」は、一番の「悪人」は、この2人じゃない。そう思う。
本当の「悪人」は、匿名で被害者の遺族や加害者の家族のもとに、誹謗中傷を続けた見えない人間たちだ。その行為には「悪意」以外の何物も見いだせない。恐らく、自分の快楽・自己満足のためだけに人を傷つける。そして、素知らぬふりで誰にも責められることなく暮らしている。そういう人間が一番の「悪人」ではないのか。
裕一の本心はどうだったのか。誰にもわからない。けれど、その心の中にあるのは「悪」だけではないはず。殺人を肯定することは絶対にしてはいけない。それは許される行為ではない。わかる。それはわかるんだ。でも・・・。
裕一に温もりを求め、失いたくないがために一緒に居続けることを望んだ光代を責められるだろうか。心に何の曇りもなく、ただまっすぐに責めることができるだろうか。
被害者をもてあそんだ男。彼もまた本心はどうだったのだろうか。その中には「怯え」がなかっただろうか。そして、それを隠すために軽々しい態度をとっていたのではなかったのだろうか。それは傍目から見て決して気持ちのよいものではない態度だ。腹立たしさも感じる。しかし、彼の心の中もまた、「悪」だけではなかった気がする。
冒頭に書いた通り、本当の「悪人」は、人を傷つけ喜ぶ傍観者たちではないか。自分たちは罰も受けず、罪悪感も持たず、ただカヤの外で他人に石を投げ続けている。それこそが「悪」ではないのか。そう思えて仕方がない。
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2009/11/井野君に眼鏡渡した日
2009/11/26読了
ミステリーという分野には入らない作品。ミステリーっていうのはあくまでも“謎解き”を主眼に置いているものだから。
下巻に入ってからぐいぐい読み進めた。上巻では登場人物がたくさん出てきたので、なれるのがつらかった。
佳乃を殺した祐一の感情は十分な量をかけているが、なぜ殺したのか、という記述はない。読者の推理にゆだねられているのだろうか。また、殺された佳乃についての記述が日常生活程度のことしか書かれていないことが物足りなかった。殺される側にも感情はあるのだから、書くべきだろう。
増尾と祐一のどっちが悪人なんだろう・・・という不思議な気持ちがわきました。増尾のほうが悪人じゃないのかという感じがしました。
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読みました。
好きな作家さんで、すごく楽しみにしていました。
…ちと期待しすぎちゃったか?
するすると、一気読みして、
確かに吉田修一だな、とか思いながら、
たまに、心を打つようなフレーズにぶつかったりして、
良いんだけど、おもしろいんだけど。
こりゃあすごい!っていう感じにはならなかったな。
祐一と光代が惹かれあった、
その過程をもう少し書きこんでほしかったってことが一つ。
いまいち信じ切れなかったのよね。
こんな風にすぐに、お互いを信頼しあえるのかしら?って。
もうひとつ。
つまり増尾はすごく嫌な奴で、ある意味「悪人」なんだけど、
「悪人」であることとではないことの違いはどこにあるのか、
っていうのが主題であるならば、
増尾をあんな風にいかにもな「悪人」として描いてしまうのは、
ある部分で主題から遠ざかってしまうのでは?
と思った次第です。
うまく言えないけど…。
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馬込光代は双子の妹と佐賀市内のアパートに住んでいた。携帯サイトで出会った清水祐一と男女の関係になり、殺人を告白される。彼女は自首しようとする祐一を止め、一緒にいたいと強く願う。光代を駆り立てるものは何か?毎日出版文化賞と大佛次郎賞を受賞した傑作長編。
《ブックデータベース より》
《2010年7月25日 読了》
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「今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎったい。大切な人がおらん人間は、何でもできると思いこ込む。自分には失うもんがなかっち、それで自分が強うなった気になっとる。失うものもなければ、欲しいものもない。だけんやろ、自分を余裕のある人間っち思い込んで、失ったり、欲しがったり一喜一憂する人間を、馬鹿にした目で眺めとる。そうじゃなかと。本当はそれじゃ駄目とよ」
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そして翌日もまた・・・下巻を1日で読みました。
九州弁とか土地の描写が妙に生々しく。
様々な人の証言からその人物の輪郭が浮かび上がってくる。
あなたはどう思いますか。
光代の最後の問いかけになんと答えますか。
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『悪人』と言うストレートながらも、インパクトのある題名。
‘悪人’という定義はいったいどの程度の悪い人の事を指すのだろう。
人殺しをした祐一よりも、佳乃や増尾、祐一のおばあさんに
健康食品で詐欺をする男の方が、よっぽど悪い人間に思えてしまうのは
何故だろう。
すごくいろんな事を考えさせられました。
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興福寺に着いたら開場したばかりの時刻というのに大げさでなく十重二十重の人々。既に180分待ちの表示に怖気づき、行き先を淀へ変更。下巻も持って来ていて良かったと、電車の中で読み耽る。
という訳で、事件に関わりあった人々に対する一枚一枚と薄皮を剥がしていくような丹念な描写は続く。
出会い系サイトが結びつけた被害者と加害者、そしてもう一人の女。
事件の真相が明らかになり、逃亡劇が始まり、荒涼とした心根の中で幸せになりたいという思いは何が現実で何が幻想なのかを混沌とする。
加害者の証言に多少救いはあるものの、救い難い登場人物も多く、人の心の複雑さは悪人善人という括りだけでは量れないものとは思いつつ、今ひとつしっくりしない読後感。
で、妻夫木聡と深津絵里で映画化ってか。こうなりゃ純愛路線仕立てと思うけど、出会い系サイトで知り合って初めて会った二人がいきなりああいう風になるのを絵にするって結構難しいかもね。
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佳乃のお父さんが切なかった。
最後の祐一の本心がわからず。「悪人」ぶっているようにも感じられるし。
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結局誰が本当は悪人なのか。そもそも悪いってなんなのか。
いろんな人のいろんな思い。
自分の子どもだろうが友達だろうか恋人だろうか本当は何を考えているのかわからないし、
むしろ自分が何を考えているのかだってわからなくなる。
人と人の関わりあいって複雑で難しいもので、
悪意がなくてもよくない結果になることだってある。
うん。おもしろかった。
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単行本で知ってから、文庫化されたら読もうと思って
ずっと楽しみに発売を待っていた本。
究極のサスペンスでもあり恋愛物語でもあるこの話。
最後まで一気に読んで、すごくショックで感動し、しばし放心状態だった私。
もう一回読み返したくなる。ストーリーのうまさ、描写の
繊細さ。男女の描き方。この作者他のも読んでみたいと思った。
世の中、大事な人がいない人、確かに多すぎですね。
被害者は二人作れない。
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09/11/21読了 京都で読み終えた。縁のある地名が多く出てきたのもあるけど、やっぱり読みやすい。この作者の本は。
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泣けました。
光代が登場してから、物語は徐々に進んでいきます。
最終章での祐一の内面と後の判断が深く心に染み入りました。
「悪人」というタイトルも絶妙だと思います。
良著です。
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犯人になった男の子かわいそう、って読み終わってまず思った。
これって、相手の女性を思いやっての対応?それとも元々悪人?
やだやだ、夜の帰り道は気をつけようとも思った。安易に出会い系やるもんじゃないなとも思った。
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誰が悪いとか、もはやそういうレベルの話ではない感じ。
人がひとりいなくなるってことは、ピラミッドの頂点が
欠けるんじゃなくて、底辺の石がひとつ無くなること―。
深い話。