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インターネットが社会運動と結びついて、社会運動はどのように変わるか?今後あるべき社会運動の形とは?みたいなことを書いた本かと勝手に想像していたけど、社会運動が情報伝達技術(本書ではICTと呼ばれている)をどのように利用しているかを現状分析した真面目な論文集といった感じ。一言で言えば、ウェブサイトや電子メールが社会運動のツールとしてどのように有効活用されているか、というとこが書かれている。ここに書かれている社会運動のことについて私はあまり知らないので「ふーん」としか言えないのだが、色々な運動の例が挙げられていて、そういうのがあるのか、という勉強にはなる。ただ、原文は2001~02年前後に書かれているようなので、ちょっと古い話かな、と割り引いて考えながら読んだ方が良いかと思う。
面白かったのは第6章で多頭型のネットワークが社会運動の組織に与える影響を考察している。ネットワーク化された組織は運動を終わらせにくくなる、収拾がつかなくなり、長期化する。イデオロギー色が弱くなるなど、ネットワークの構造が組織のアイデンティティにまで影響を及ぼす点を指摘しており、興味深い。本章が一番自分が期待していた本の内容に近かった。
もう一つ、金融取引への課税を求めるフランスの社会運動組織ATTACのICT利用について論じた第八章。この章では組織の情報化が、逆に組織に悪い結果をもたらす例が考察されている。他の章ではICT利用が組織に与えるプラスの面を主に分析しているのに対して、こういう例もありますよ、ということで面白い。