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解かれてゆくもの。
繊細な仕草と凝った感情。
描写がとても丁寧で綺麗だと思う。触れるか触れないかの強さで肌の上をなぞられているような、くすぐったい気持ちになった。
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一章一章ごとの題名にもセンスを感じます。「圏外へ」のときのようなトリコになってしまった!感は今回は感じないままで読み終えてしまいましたが。
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『「病を引き起こさない仕事など大した仕事ではないです」まだ会ったこともない彼の声が耳の奥から聞こえる。この幻聴もまた職業病だ。「人が仕事をつくったように仕事が人をつくるんです。精神的にも肉体的にも」じつに<矯正士>らしい哲学だ。「人の体を作りかえてしまうような仕事こそ、全うすべき価値ある仕事です」』-『トラッシュ、トラッシュ、トラッシュ』
二次元の平らな世界が、むくむくと立ち上がって立体的になるような物語。これは比喩であって比喩でない。開いた頁の始まりで、一人の男が本の中から抜け出てくるところから物語は始まるのだ。彼の名は「フィッシュ」。本に巣食う「紙魚(しみ)」。
言葉には常に他の言葉へ連想を生む作用があって、それが兎もするとダジャレのように全く別の意図に響く癖があると思う。吉田篤弘はそのことをよく知っている。そして、すうっとその響きによって繋がった言葉の線路のポイントを通って別の物語へ読む者を運んでゆく。切り替えがスムーズなので列車の乗客はなかなかポイントを通過したことに気づかない。その実、その切り替えは、ソソラソラソラ兎のダンス並みにセンスがよい。
センスの良さはクラフト・エヴィング商會の作品でも十分に発揮されているのを見ていて知っていたけれど、純粋に文字だけの(かつクラフト・エヴィング商會ではなく吉田篤弘としての)作品を読むのは、実は初めてである。但し正確には、吉田音という吉田篤弘・浩美夫妻の架空の娘が書いたことになっているミルリトン探偵局シリーズを読んだことがあるので、文字だけの作品という意味では初めてではない。この本も含めて、これまでクラフト・エヴィング商會の作品では、存在しないはずなのに存在しているかのように思えて(うっかり信じて)しまう物や人で溢れているのだけれど、この非現実の現実性、とでも言うべきものがクラフト・エヴィング商會の特徴だと思う。更にこの「パロール・ジュレと紙屑の都」では、存在しない人々が、存在しないものものを追いかけ、存在しない筈の悩みを抱える、と捻りが加わっている。
二次元から徐々に影が立ち上がる。それは、まるで魔術師が何もない空中から、しゅるしゅると林檎や兎を取り出すのをみているような印象。そして魔術師が取り出した林檎や兎が本物であるように、目にし手に触れることができそうな存在感が、その立ち上がった影にはある。そのことが物語の立体性を裏打ちするように思う。架空の街、架空の通り、架空の人物。それなのに、その人、物、生活は、いかにも存在しそうな手触りがあるのだ。もちろん、本物ではないのは明らか(この、虚構のあからさまなところ、も、クラフト・エヴィング商會の特徴)なので本物臭いというのは少し違う。しかし何かしっかりとした触感があるのである。もしかすると、吉田篤弘という人物(仮にそんな人が本当に居るとして)は稀代のペテン師なのかも、という思いが浮かぶ。
本も半ばを過ぎると、物語は別の人物たちの視点を通しても語られ始める。より奥行きが増し、まさに立体的な広がりを見せ始める。しかし視点の多様さが、平面から立ち上がった物語を単純に支えている、という訳でもない。もちろ��、書割りがジオラマになるような立体感は多くの視点が描かれることによって生じる、ということはある。しかし、むしろ描かれる人物の一人ひとりがしっかりと肉付けされて描かれれば描かれるほどに、それらの人物は物語の中で確固とした輪郭を失い、あいまいになってゆく、という物語なのだ。ところが、あいまいになればなる程、不思議な現実感が憑いてくる。
『「伝説の人物は、皆、どこか孤独です」タブラサンは数多くのインタビューでそう答える。「笑わせるのは簡単です。涙を引き出すのもそれなりに。しかし、寂しさを伝えるのは生半可では出来ません」』-『エスプレッソをふたつ』
人は自分で思っている程には自分のことを理解してもいないし知りもしない。そんな比喩的にも響く言葉が、実は全くの現実を映している、という真実が徐々に身に沁みてくる。しかし、その現実には、言いようのないさびしさがある一方で、不思議な幸福感が潜んでもいる。確かに。さびしさを伝えるのは、もしかすると難しいことなのかも知れない。ましてそこに幸せな気持ちを混ぜるのは。吉田篤弘は、やはり、稀代のペテン師にして、人をタブラかす名人。
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北の街・キノフでは、伝えようとして伝えられなかった言葉が、人知れず凍りついて結晶になるという。
紙魚となって時空を超える諜報員・フイッシュ、凍った言葉を解く4人の<解凍士>…、もう、この設定にヤラれちゃって、珍しく表紙買い。
読み始めてみると、なかなか本の世界に入っていけず(主人公は文字通り“本の世界に入っていく”のに…)手こずりましたが、後半にいくにつれてスピード感が増していって、最後は一気に読まされてしまいました。
何というか、あちこちに話が飛躍して冗長な印象だった物語が、徐々に一つの流れに収斂していく感じ、かな?
途中で読み始めた『ロスト・シンボル』の方を先に読み終えてしまいましたが、あちらに出てきた言葉を借りるなら、“オルド アブ カオ(混沌から秩序)”ですね。
“取っつきにくい”という書評も多いようなので、前半は我慢して(^^;読み進めることをお勧めします。
ところで、読み終えてから知ったんですが、作者の吉田篤弘さんは“クラフト・エヴィング商會”さんだったんですね。
そう言えば以前読んだ『ないもの、あります』に雰囲気が似ているような気もします。
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パロール・ジュレとは凍結された言葉という意味。
解凍士たちがその凍りついた言葉を路上で採集し、研究室に持ち帰って解凍する。
P89 冷気に守られて正しく磨きあげたジュレは、真新しいレンズのように澄みわたり、その静けさの中から解けた言葉が声になって甦る。その多くは「声」というよりむしろ「囁き」に近い。でなければ「つぶやき」か、あるいは声にならないため息だけということもある。
本来消えていくべき「つぶやき」が凍結されるというのをこの時代に読むと、「ツイッター」を連想してしまう。
あ、でもツイッターは文字にして表されただけで口に出しはいないから、「つぶやき未満」だなぁ。まさに「心の声」か。
パロール・ジュレの神秘を古書の紙魚となって追究する諜報員(フィッシュとよばれる)、謎を追う刑事(ロイド)、言葉の解凍士(ニシムクなど4人)。
数年前に「離別」が起こったキノフっていう町(革命や分断が行われたロシアや東欧のどこぞの町を連想させるなぁ)で壮大な物語が巻き起こる。
町は「離別」によって破壊されたのだ。
P393 その片隅で、破壊を拒絶する透明な子供のままの魂が――声の幽霊が、道を逸れた者に宿って、世界には聞こえない小さな声をつぶやいた。それをすなわち、独り言という。
最後は11番目のフィッシュとココノツから送られた、レンの義眼。
この包みをロイドが開くところで終わっている。
義眼にパロール・ジュレが保管されている。
「離別」前に恋人同士だった二人。そう、ロイドは、アルフレッドであった!
そのことを、送り主である11番目のフィッシュとココノツは知らない。
P396 手に取ったその眼の中に、薄氷のようなパロール・ジュレが青白く輝いていた。記憶があった。その形状と青い色に。ずいぶんと時間がかかったが、震える手の中でようやく彼女と彼女がつながってひとつになった。解凍の必要はない。解凍するまでもないだろう。
それは、これから何度もつぶやくことになるひとつの言葉だ。
まだ誰も知らない、聞いたことのない忘れられたひとつの声だ。
正直あまりにも壮大なストーリーで、11番目のフィッシュがキノフの町に潜入してココノツと出会うあたりからかな、かなりわけがわからなくなっってしまったけど、最後はなんだかとても切ない気持ちになった。
11番目のフィッシュが本の中に入る…っていう最初のあたりはドキドキワクワクしました。
わたしには最後に書かれている「忘れられたひとつの声」ってのがどんな言葉が何なのか、わからなかったな。残念。
愛の言葉なのかな。
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キノフという町では、言葉が凍りついてパロール・ジュレと呼ばれる結晶になるという…。その神秘を古書の紙魚となって追究する諜報員、謎を追う刑事、言葉の解凍士。言葉を巡る壮大なマジカルファンタジー。
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紙魚となって本から本を渡り歩き、目的の地までいき、誰かになり変わって諜報活動をするフィッシュと呼ばれる諜報員。言葉が凍るというキノフの町で繰り広げられるパロール・ジュレをめぐる腹の探り合い。それらがみな、どこか遠い夢のようでもあり、すぐ近くの町で起きていることのようでもある。読み終えてみれば、ひどく遠回りをして元の場所に戻ってきたようでもあり、狐につままれた心地がしなくもないが、ものごととは得てしてそういうものなのだろうとも思って腑に落ちる一冊である。
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2011年4月18日読了。
昨年発売された吉田篤弘氏の最新作。
ここ数作品の傾向として、心を無にしてかからないと入り込めないものが増えてきたように感じます。
ファンタジーとしても、かなり突飛でやっとついて行っている、という感じ。
だけどこの人の文章、たまらなく好きなんですよね。フワフワっとしていて、とても優しい。それだけで☆3つの価値あり、です。
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小さなささやきが凍って、コイン状の塊になる現象。
不思議な不思議なパロール・ジュレ(凍った言葉)。
その存在を知ったとある機関が、本を渡り歩く諜報員・フィッシュを北の街・キノフに派遣する。
フィッシュが探る、凍った言葉の秘密とは?
キノフで出会う、謎めいた人物たちの正体は?
読み始めてすぐに、『極上掌編小説』を思い出しました。
この本に載っていた吉田さんの作品に、解凍士と凍った言葉が登場していたんですよね。
タイトル通り、とても極上な作品だったので、よく覚えていました。
今回読んだこの作品は、その凍った言葉・パロール・ジュレの秘密に迫る内容だったので、実際のところ、秘密は秘密のままにするべく読まない方がいいのか・・・?と悩んだりもしたのですが。
やっぱり読んじゃいました。
美しい秘密の、あっと驚く真実。
それを確かめたい方は、そっとこの本のページをめくるとよいですよ。
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長い~
ストーリーや全体の雰囲気もそんなにだった
好きなシーンなし。好きな人物なし。
スープとかつむじ風ののほほんがあんまりなくて残念だ。
ただ紙魚はいい。紙魚はいいよ。
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「これは比喩ではなく」と「これは比喩である。」の連続にとても混乱した一冊。
ファンタジーだからそもそもこの世の話ではない本の世界の話なんだけれども、その本の世界を表現する比喩とさらに主人公目線の比喩といろいろ混ざって、よく分からない内容。
誰の目線で書いているのかハッキリ分からない内容だけど、
物語の最後の方に主人公(紙魚)が「(紙魚の能力の、書物の人物と同化する能力を使いすぎたため)自分も何が本当が良く分からない」と、言う場面が出てくる。
最後まで読んでみて、もしかしたら。。
難解な文章は、何が本当なのか分からなくさせて、読者の混乱とをフィッシュの混乱でフィッシュと読者を同化させようとする作者の術中だったのではないのか???
なんて思っています。もしそうだったら、本の可能性を広げるとても面白い作品だと思います。
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別離により分断された国の中にある、小さな北の街キノフ。
そこでは言葉が凍り付き、パロール・ジュレと呼ばれる物質になるという。
そんな不思議な現象を探る為にキノフに派遣された諜報員、十一番目のフィッシュ。
彼は紙魚であり、本の中を自在に泳ぎ回る事ができ、また本の中の人物に変貌することができた。
そんな彼をはじめとし、パロール・ジュレに魅せられた人間達の物語です。
フィッシュを追う刑事ロイドの思惑や孤独。
水晶の目を持つ謎の女レンが漂わせる秘密や怪しさ。
パロール・ジュレを解凍し、凍り付いた言葉を拾い上げる解凍師たちの誠実さや孤独感。
キノフに住まう人々の雑多な感情。
それらがいかにも思わせ振りで謎めいています。
ドキドキするような謎ではなく、じんわりと不思議だなあと首を傾げたくなるような。
魔法めいた事柄のなかに謎がありゆっくりと紐解かれていきます。
ファンタジーのような世界観ですが妙に現実的です。
フィッシュの淡々とした語り口は、そのままキノフの淡々とした、少し冷たく、雑多で、優しい雰囲気に上手く溶け込んでいくように思えます。
街の中に流れる時間は美しく優しく寂しいです。永遠にそうなのではないかと、勘違いしたくなるほどに。
人々が凍結した言葉を解凍したときに、世界はかわるのでしょうか。
最後の最後、やっと辿り着いた結末にじんわりしました。
凄く好きな本です。
雑多で汚らしいものと美しいものが混在している世界なのに、穏やかで冷たい美しい雰囲気がたまりません。
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ペースが出てくるまで大変,読みにくい~別離後の世界で噂になっている凍る言葉・パロール・ジュレの謎を探るべく,本の中に潜り込める特集能力を持つフィッシュはキノフに潜入した。タクシードライバーからヒントを得,薬種商・カジバと呼ばれる男と辿り,移動写真家からは水晶の眼を持つ女性の話を仕入れる。自分を見張る眼に気が付いて,古書肆で手に入れた烏口職人の記録に入り込み,その人生を手に入れる。ロイドは町の刑事で解凍士4人と定期的に会合を持っている。デムズ爆発事件の被害者の意識は永遠に続く地下通路のビアホールで鮭皮のチョッキを着てスモークサーモンを口に入れる時に甦ってきた。2度目に訪れたホールのウェイトレスは水晶の瞳を持つアマンダンのレンという女性を一緒に追おうと誘われる。ウェイトレスはココノツという名で娼館の在処を知っているという。ロイドは某国から潜入してくるフィッシュ達を密かに尊重しており,手の者を使って巧く誘導し,パロール・ジュレの神秘を神秘として保持することに腐心しているのだが,ココノツはレンの手に落ちて,コントロールを失ったかも知れない。血管地下街で明かされたココノツの正体は,第七番目のフィッシュであった。終わりにしよう・と喋り出したココノツは,レンの本名がヘレンで,幼馴染みで恋人のアルフレッドこそが最初に言葉を凍らした人物で,それ故に命を狙われ,片眼を失ったヘレンが入れている義眼はアルフレッドの凍らせた言葉を樹脂で固めたもので,最近肺病で亡くなって手許に持っているのだ明かした。アルフレッドとは刑事として戻ってきたロイドである~こんな不思議な本があったらいいなあという思いが込められているのだろう。本を構成するのは紙と文字と汚れ・破れと紙魚。本好きは紙魚になるのが最後の夢か,人が作らないような本をプロデュースすることが目下の仕事ということかな。読みにくい本であって,ギブアップ直前まで行ったときに,読む本がなくなって仕方なく読むことができた。返さなくて良かった。頑張って読んだ自分に☆4つ
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手にとってずしりと重く質感がとても高い本だ。さすがに『クラフト・エヴィング商會』の手になる装幀。で、中味に目を通してみると、寓意に満ちて実に難解。角川のウェブ宣伝文句に従えば、『 キノフという町では、言葉が凍りついてパロール・ジュレと呼ばれる結晶になるという…。その神秘を古書の紙魚となって追究する諜報員、謎を追う刑事、言葉の解凍士。言葉を巡る壮大なマジカルファンタジー。』というのだが、、、心と時間に余裕があれば、楽しめるのかもしれないが、精神的に余裕がない身には読み続けるのに気力が足りない。しばらく、手元に置いていたのだけれど、とうとう読み切れずに一旦ギブアップ。こんな時のセリフ、『いつか心と時間に余裕が出来たらトライしてみよう!』ということで、先送りへ。
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買って最初の印象。
厚い!
いやーうわっ、これはけっこーすごいなあっと思いつつ読んだけど、
相変わらずちりばめられた言葉が素敵~。
もうめっちゃツボです。
ちょっとづつ毎日楽しく読ませてもらいました。
なので読み終わるのに一カ月以上かかった。うーん私にしては珍しい。
ただココノツがでてきたあたりからちょっと雲行きが怪しい、とゆーか
微妙にわけわかんなくなったりならなかったり、
おはなしの着地点が、私としてはいまひとつ、かな。
かといって他にどこに行きたかった、とゆーのはないのだけれど。
うん、でも好きです。
音ちゃんシリーズの続き、書いてほしいなあ。
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渇いた街 渇いた人々 その隙間に忍び込む紙魚 誰かからこぼれおちた言葉 謎めいた路地で、目指すべき場所を予感し、それでも迷いながら歩く人々。
紙のかさつく音、手にざらつく触感、古びた匂い。そうしたものの向こうから密かに伝わってくる登場人物たちの呟きをそっと拾う。静かな夜に読みたい不思議な物語でした。