紙の本
天才が追い続けた真の音楽
2010/10/20 23:04
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ピアノといえばショパン、シューマンはあまり深く知らないという人が日本人には残念多く私もそのうちの一人であった。
普通なら好きでもない作曲家の名を題につけた本など手に取らないであろうが、正直なところこの表紙。ピアノの鍵盤に意味ありげな血痕がついたこの表紙絵、そして怪しく魅力に満ちた帯の文字に誘われて手に取った。
とはいえ、今は内容に、そしてシューマンその人に魅了されている。
それだけ著者のシューマンへの敬愛と物語の魅力、文章力は白熱しているのだ。
著者のシューマン熱は、一人の天才ピアニスト永峰修人でもって具現化される。
物語は主人公が亡き友から受け取った手紙をきっかけに かつてシューマンについて語り合った友人にして天才少年ピアニストの永峰修人の影を追うことから始まる。彼と主人公を巻き込んだ女子学生殺人事件。それに続く殺傷事件で修人はシューマン同様、手に怪我を負いピアニスト生命を絶たれ世間から姿を消す。
事件は未解決のまま30年の月日が経ち、主人公のもとには永峰修人が再びシューマンを演奏したという便りが届く。あり得ない修人の復活に疑念を抱き、彼は修人との出会いと交流、信奉者としての日々を告白のようにして語りだす。彼らがかつて音楽批評を書き綴った「ダヴィッド同盟」ノートともに。
作中何度となくシューマンの精神と作品についての賛美と敬愛をこめた批評が繰り返されるが、それはそのまま、主人公が永峰修人という天才に寄せる「想い」に等しい。
聞き慣れない作品ナンバーで紹介される曲の数々、小難しい音楽論、音階や形式etc…正直、一般人の私にはチンプンカンプンであり退屈な部分もかなりあったのだが、それすらも著者のシューマン熱、主人公等の音楽への切実さを物語っていると思えば大事なパーツなのだろう。
中でも熱く語られるのは修人が繰り返し論破する「真の音楽」だ。
シューマンが演奏出来なくなって初めてその存在を捕らえることが出来た、そして永峰修人が切望し得ることの出来なかった「真の音楽」なる概念。
それは演奏し音にして現実化すれば汚れてしまう絶対不可侵の完全なモノとして話題に上る。
「演奏なんかしなくたって音楽はもうすでにある。演奏はむしろ音楽を破壊し台無しにする」
「音楽はもうすでにある それは人間が演奏するしないに関係なくもうここにある」
形而上の正三角形は精密には実線で描くことが出来ないのと同様、音楽は楽器により音にした途端遠ざかる神聖な物だという。
「真の音楽」への渇望と苦悩、それを得られぬ絶望と音の喪失のによって得ることのできたシューマンの歓喜と狂気が、一人の少年のなかに再現されていく。
シューマンの作品の紹介と永峰の演奏シーンの描写は幻想的で甘美でいっそ艶かしく、読者は酔い仕入れるに違いない。
物語が進むにつれ静かな狂気が見え隠れするがそれは誰の狂気であるのか。これは誰の物語なのか。
それは同級生女子の殺人事件のあらましが記されると同時にいくつかの「真実」が翻り、よりいっそう混乱を招くことになるのだがそこはぜひ、見極めながら読み進めていただきたい。
天才が生涯捕われ続けた真の音楽
それだけが「彼」の追い続けた真実であり、この物語に置ける唯一の普遍の事実であろう。
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これはシューマンを聴かずにはいられないね。
音楽と共に楽しみたい作品。
シューマンの魅力に改めて気づかされる。感謝。
というか、あんなに売れたのが不思議なくらい、濃密。
クラシック聴かない人も楽しめるのかが不思議でならない。
文章の感じも、内容や音楽に合っている感じがします。
最後、ぞくっとした。そうきたか…
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確かミステリーだと思っていたが、
主人公に語らせる、作者のシューマン論かと思った。
最後のどんでん返し(?)でやっと我に返るまで
特にシューマンに興味のない人にとっては、はたして面白い本なのかと思ってしまうほどのシューマン尽くし。
私はシューマンを愛しているので、まあ、いいですが、、、。
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美少年、天才ピアニスト・・・ときたら、
やっぱり耽美にならざるを得ないのか・・・
まあ、私はあんまりシューマン好みじゃないけど、
今年は生誕200年というのと、秀逸な表紙に敬意を表し、購入。
登場する曲をようつべで探して聴きながら読む、
という新しい読み方を楽しんだ。
いい時代になったもんだ・・・。
リンクからamazon行ったら、作者がフルート吹く動画が見れます。
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めったにハードカバーを買わない自分の箍を外しちゃった1冊。
表紙がすごくよかったの。
白と黒の鍵盤、赤の血、銀の箔押し。
紙の質感。
んで、
もともとピアノ好きだし、
シューマン好きだし、
書評に載ってたし、
つい、買っちゃった。
読み終わって、
シューマン超聴きたくなる。
シューマン超弾きたくなくなる。
感想はそのうち。
クラシックが好きで、
シューマンも好きで、
ある程度の知識を持ってないとハードル高いのかも。
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8/4購入。美少年ピアニスト、という設定に躊躇しつつも装丁と「シューマン」に一目惚れゆえ。そういや最近ドビュッシーの名前がタイトルに入ったミステリ作品もあったよなぁ。
作曲家としてはドビュッシーのが好きだけど、シューマンにはちょっと思い入れがあるので。
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地味だが題名と合わせ良い装丁。シューマンの歌劇のような夭折人生、彼の曲のもつ温いミルクのような生臭さ、それらが示唆する作品の謎とそこに潜む悲劇が想像される。質感もリアル。
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★3か4で迷って、シューマンの音楽への敬意を表して4に。
ミステリーとシューマン鑑賞の融合。文章も美しく格調高い。
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(シューマンについての評論など読んだことがないのだけれど)それが一般的なものならわざわざ書く必要もないだろうから、驚いたのは、本書に書かれているシューマンの評価、聞こえないものや演奏されないものをシューマンに感じるということが、自分のシューマン趣味と非常に一致しているということだ。
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正直あまり読みやすくない、という印象でした。なので、細かい音楽に関する描写はほとんど読み飛ばしました。ラストにはちょっとびっくりしました。
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【ラジオ書評→ネット】
クラシック好きにはとても面白い。特にシューマン好きにとっては。
最後はさすがにバタバタした印象の展開。
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おもしろかった!(´∀`*)
シューマン論部分は、結構抽象的だったりするんだけど、それでもするすると納得できました。おそらく、私自身が感じていたシューマンへの疑問や違和感に対する、答えのひとつになってくれたんじゃないかと思います。
改めて、シューマン、じっくり聴かねばなるまい! という気分になりました。
音楽ミステリであると同時に、上質の青春ミステリにもなっています。
最後のどんでん返しは、新しい! ってほどじゃないのですが、結構ドッキリしました。
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シューマンの解説が多すぎる。音楽小説・薀蓄小説でも面白いものはたくさんあるが、これは話しも面白くない。本屋大賞ノミネートされるくらい評価が高い作品なので、自分と作家さんの相性が悪いのでしょう。
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図書館の本
内容(「BOOK」データベースより)
シューマンに憑かれた天才美少年ピアニスト、永嶺修人。彼に焦がれる音大受験生の「私」。卒業式の夜、彼らが通う高校で女子生徒が殺害された。現場に居合わせた修人はその後、指にピアニストとして致命的な怪我を負い、事件は未解決のまま30年の年月が流れる。そんなある日「私」の元に修人が外国でシューマンを弾いていたという「ありえない」噂が伝わる。修人の指に、いったいなにが起きたのか。鮮やかな手さばきで奏でる“書き下ろし”長篇小説。
シューマンを文字にして語るとこうなるんだねぇ、と変な納得をしながらよみました。
リートの歌詞(音楽)も数箇所入っていて嬉しかったけど。
なんか、ねぇ。
最後の20ページってさ、なに?
わざわざミステリーにしなくても、シューマンを偏愛した若手ピアニストをエキセントリックに書くだけじゃだめだったんだろうか?
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(2010.09.02読了)(2010.08.26借入)
今年は、ショパン生誕200年ということだったのですが、シューマンも1810年の生まれで、生誕200年ということです。ショパンとシューマンは、同じ年に生まれていたんですね。
ミステリー(推理小説)仕立ての作品ですが、主眼は、シューマンの生涯、シューマンの音楽作品の紹介、シューマンの音楽に対する考え方、といった所にありそうです。
(江戸川乱歩による推理小説の定義:「主として犯罪に関する難解な秘密が、論理的に、徐々に解かれていく経路のおもしろさを主眼とする文学」)
物語の語り手は、里橋優です。音大に入ったのですが、医学部に入学し直し、医者になったということです。30年前の高校生のころを思い出しながら回想する形で物語が進行します。里橋優は、音大に入るために高校でも音楽部に所属し、合唱の練習がある時は、伴奏を務め、練習がない時は、ピアノ練習のために音楽室を自由に使わせてもらっている。
高校三年生の時に、一年生に天才ピアニストが入学してきます。名前は永嶺修人です。修人は、まさとと読むのだそうです。著者によると修(しゅう)人(まん)でシューマンの洒落なのだそうです。
310頁の本ですが、160頁までは、事件が起こらず永嶺修人によってシューマンの音楽の素晴らしさが語られることになる。
殺人事件が起こるが、犯人は分からず、時効となってしまう。里橋優によって、事件の真相が語られるので、そうだったのかと、思っていると一度覆されて・・・
でもまだ数頁のこっているので、何だろうと思って読むと、里橋優の妹によって、里橋優の話が実は、・・・。ミステリーをたまにしか読まない僕みたいなものにとっては、結局どういうことなのかわけのわからないまま終わってしまった。
もう一度読み直したら、ちゃんと辻褄が合うようになっていることが確認できるのだろうか?
表紙には、ピアノの鍵盤が使われ、左下隅に血の色の指紋がついている。血を見るだけで、心臓の鼓動が速くなってしまう人にとって、本を手にとって、読みはじめようと中をめくるとまたしても左隅に血の色の指紋がついているのを見たらもう読むのはやめておこうと思う。ちょっとショッキングだ。
永嶺修人によって演奏される曲は、「幻想曲 作品17」「ピアノソナタ三番」「天使の主題による変奏曲」です。残念ながら手元にはどれもありません。
「交響的練習曲」「ダヴィッド同盟舞曲集 作品6」といった所も聞いて見たいところですが、これも手元にはありません。
あるのは、「ピアノ協奏曲イ短調 作品54」「謝肉祭 作品9」「幻想小曲集 作品12」「子供の情景 作品15」「クライスレリアーナ 作品16」「チェロ協奏曲 作品129」といったところです。
(2010年9月5日・記)