紙の本
どうもこのお話に限って言えば、片手落ちかな、っていう感がするんです。ま、常識的には林蔵や又市の意外なものの見方が、真実である、っていうことになるんですが、読みながら、それって結局は一方の意見だけをよしとしているんじゃないか、真相は人の数だけあるんじゃないのか、なんて思えてくるんです。ま、そこまでヨムのはやり過ぎなんでしょうけど・・・
2011/03/10 23:51
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投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
久しぶりの『巷説百物語』、今回は西国篇です。カバーは相変わらずいいです。こうやって古い木版画を見ていると、水木しげるは本当によく過去の絵本などを研究していたんだな、と思います。私などは、一見、水木の書き下ろしか、と思い、次に読んだばかりの別冊太陽 北斎決定版を思い出して、もしかして若き日の北斎? なんて思ったりしました。本には、カバー・中扉裏 絵本百物語 桃山人 金花堂/天保十二年、装丁 片岡忠彦とあります。
ちなみに『絵本百物語』の著者は桃山人ですが、挿絵の画師は竹原春泉、大坂の絵師で風俗・人物画を得意とし、「二十四輩順拝図会(ずえ)」「東海道名所図会」「胡蝶の夢」などの挿絵を書いたそうで、寛政-文化(1789-1818)の人だそうです。ちなみに北斎は宝暦-嘉永(1760-1849)。竹原春泉の一生を完全に呑みこんでいます。おそるべし北斎・・・
早速内容ですが、まずはカバー折り返しには
*
大阪随一の版元にして、実は上方の裏仕事の元締めである
一文字屋仁蔵の元には、数々の因縁話が持ち込まれる。
いずれも一筋縄ではいかぬそれらの筋道を
心づくしの仕掛けで通してやるのは、
あの又市の悪友にして腐れ縁の、靄船(もやふね)の林蔵。
二ツ名通り、死人が操る亡者船さながらの口先三寸の嘘船で
それと知れぬ間に彼らを彼岸へと――連れて行く。
「これで終いの金毘羅さんや――」
*
となっています。あっさり読むと、これでこのシリーズは終了、ということなのかな、なんて思います。早速、目録(目次ではないところがいい)にしたがって、各話の初出と簡単な内容紹介をしておきましょう。
「桂男」(「怪」vol.0023 平成19年8月刊):身一つで大坂に流れてきて、一代で財を築いた商人、杵乃字屋剛右衛門の一人娘に縁談が舞い込んだ。相手は尾張の城島屋という大店の次男坊。決まれば杵乃字屋に婿入りすることになる。縁談を進めるか否か悩む剛右衛門に、大番頭の儀助は、城島屋は悪辣な手段で乗っ取りを繰り返してきた店だと諫言する。それを聞いた剛右衛門が下した結論とは……!
「遺言幽霊 水乞幽霊」(「怪」vol.0024 平成20年2月刊):若旦那の貫蔵が目を覚ますと、見知らぬ男が顔を覗き込んでくる。兄の死も、父親の死も忘れた男は・・・
「鍛冶が嬶」(「怪」vol.0025 平成20年8月刊):土佐の佐喜浜で刀鍛冶をしている助四郎が一文字屋に持ち込んだのは、自分の女房が入れ替わってしまった、笑わなくなってしまったという話・・・
「夜楽屋」(「怪」vol.0026 平成21年4月刊):豊二郎が操る塩治判官の首が壊れた。思いだされるのは八年前の事件。夜中の楽屋で先代が人形に殺された・・・
「溝出」(「怪」vol.0027 平成21年7月刊):流行り病で封鎖された村では、住民の半分が亡くなった。人々を救ったのは昔、追放された寛三郎。それから10年、そろそろ供養をしてはという声に・・・
「豆狸」(「怪」vol.0028 平成21年11月刊):山中に出るという小さな狸に似た豆狸、酒造りの神にも似た小僧が表れて毎日、酒を買っていく、代金はいつの間にか葉っぱに・・・
「野狐」(書き下ろし):野干のお栄が持ちかけて来たのは、妹の妙を騙して殺すことになった男を自分の前に連れてくることと、その指示を出した男を殺すこと・・・
各話とも「壱」から「参」か「肆(し)」までの章に、後日談というか謎解きともいえる「後」がついた構成となっています。
なんていうか、スッキリしないんです。いえ、話は綺麗にまとまっていて、それは肯ける。でも、林蔵や又市がそんなにエライか? って思うんです。俺は検察だぞ、俺が悪いと決めたら、絶対に浮かばれないからな、っていうような驕りを感じる。本当に検察の主張は正しいのか、小沢一郎は悪いのか。どうも一方的視点で話をされると、なんだお前ら、って思うんですね。
ま、それも京極の狙いであるのかもしれません。悪人には悪人なりの苦悩が、事情がある。両方の側から見てみよう、って。でも、普通はそう読まないで、林蔵の側で見ちゃうんでしょう。そこがイヤなんです。今までの話もこんなに苦かった? 救いがなかった? 笑えなかった? そんなことばかりが脳裏を過ぎりました。そういえば『数えずの井戸』にも救いがなかったなあ・・・
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2010年7月28日読了。
巷説シリーズ第五弾。
今回は又市メインとする江戸(東)のお話ではなく、又市の義兄弟の”靄船の林蔵”のいる大坂(西)でのお話。
だからタイトルが”西巷説物語”。
雑誌掲載時は、『前巷説』の時の大坂のお話と思ってましたが、最後の1話で『巷説』『続巷説』の時のお話と分かりました。
そのお話で、少々不満に思ってた事も解消されたので、正直”やられた!”と思いましたよ。
ちなみに今までの本同様、おそらく初版だけ、カバー裏に図画が印刷されてると思われます。
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林蔵が…林蔵がかっこいいです…。
「前巷説百物語」にて又市と組んで活躍したした靄船の林蔵、スピンオフ。
最後の話「野狐」には又市も登場します★
京極作品のシリーズ物では、主人公は大体決め台詞持ってますよね。中禅寺の「この世には不思議なことなど無いのです」とか、又市の「御行奉為―」とか。
林蔵は「これで終いの金比羅さんやで」
意味はよく分かんないけど何かかっこいい!
推理物ではない感じで、二話くらいまで読んでパターンが察せられたら後は大体筋は読めてしまうかもしれませんが、それでも展開に夢中にさせられる文章力、魅力的過ぎるキャラクター達。
読後の切なさというか、秋の高い空のようなポッカリとした、なんとも言えない気持ちを誰かと共有したくなります。
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巷説百物語シリーズの5作目。大阪を舞台としたり、サブキャラクターであった”靄船の林蔵”を主人公にしたりとシリーズのスピンオフ的作品。時系列としては『巷説百物語』・『続巷説百物語』と同時期か。
人の業、心の闇、哀しさを妖しく描く様はいつもどおりながら、物語の趣向はこれまでとは少し異なり、謎解きよりも「憑き物落とし」の要素が強調されている。面白かった!!。
それにしても「千代田の城にすむ、でかい鼠」との対決はいつ読めるのだろうか。
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毎回、このシリーズは味わって読む。
「御行奉る」の又市の決まり文句には、出会えなかったものも、読み進めるうちに、林蔵の「これで終いの金比羅さんや」のセリフも段々馴染んで来る。ぜひ、又市で続編を!
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購入した日:2010/07/24
開始した日:2010/07/25
読了した日:2010/07/27
これで終いの金毘羅さんや。
西巷説百物語のキメ台詞。
いつもの通り書下ろしがあって
予想通り又市が登場。
もうちょっとレギュラー陣がいても良いのになー。
各章ごとのパート割が秀逸。
「後」だもんね。
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江戸から上方に場所を移して、登場人物を変えたら、終わったはずのストーリーが、まったく同じ構造で、そのまま続くので、前のシリーズでハマった愛読者には嬉しいプレゼント。最後は、前のシリーズのメインキャストが再登場して、これまたファンにはたまらない。主人公の林蔵は最後には大阪を離れる決心をするが、また、場所を変えて話が続くことを思わせるため、また、前のように、前から後まで長期シリーズ化してくれると先が楽しみ。これで本当のしまいの金毘羅さんやで終わらないことを望みます。
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巷説シリーズ第五弾。
舞台を西に移し、前巷説百物語でも又市達の仕掛けを手伝った靄船の林蔵を主人公とするスピンオフ作品です。
「桂男」「遺言幽霊 水乞幽霊」「鍛冶が嬶」「夜楽屋」「溝出」「豆狸」「野狐」の7編を収録しています。
靄船の二つ名の通り、口先三寸で加害者を嵌める仕掛けは又市と同じですが。
加害者に選択の余地が残される分、より情念に満ちた作品のように感じました。
どの選択も後味が悪く、少々やるせなさを感じた分。
豆狸の結末に、やっと一心地ついた気がします。
書きおろしの野狐に又市・百介が登場するのも嬉しい限りです。
その分仕掛けも大掛かりになって、今までの巷説に近いような雰囲気の短編でした。
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感想はブログでどうぞ
http://takotakora.at.webry.info/201007/article_14.html
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どう続けるんだと思っていたら、どちらかというと「巷説百物語」スピンオフって感じ。これまでのキャラも微妙に登場してきて、世界観も統一されて読みやすい。まだまだ、いろいろと物語は続いていきそうです。いっそ、妖怪が百出てくるまで続けて欲しいです。
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靄船の林蔵が主人公の今回は関西弁がなんとも小気味よく、同じシリーズながら、いつもよりユーモラスであり、その分いつもより物悲しくもある。今年の夏こそ時系列で全話読み返そうと心に決めました!
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タイトルどおり、大坂での物語。靄船の林蔵が活躍します。決め台詞「これで終いの金毘羅さんや」ってのが妙に気に入りました。最終話にはあの人やあの人が登場するのも、シリーズファンとしては嬉しいところ。
お気に入りは「鍛冶が嬶」。恐ろしいってのもありますが。何とはなしに、悲しい気分にもなりました。あの人はきっと、本当に一生懸命だったんでしょうね……そりゃもちろんやりすぎだけど。深刻に悩みながらも、自分でそれに気づけなかったということが、とても可哀想に思えました。
悪人に報いを、という作品がほとんどの中、ちょっと違う趣向の「豆狸」も良かったな。こういう仕事もしてるんですね。ほんわかします。
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伝えてさえ伝わらない言葉は伝えなければなおさら伝わらない。
大事なモノはプライスレス。
謎解きではなくそこに至る流れを楽しむ本。
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今回は泣けなかったと思いつつ読了…と思いきや、最後の最後、林蔵の独白ひとつで涙とまらず。優しさが得物になる…苦しいです。
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「巷説百物語」シリーズ、久々に読んだが、ものの見事にガツンとやられてしまった。
初っ端、一篇目の「桂男」に、腑抜けた脳味噌を思いっきり揺さぶられ、ああそうだこれだ、これが巷説百物語だった、「笑ゥせぇるすまん」のようなこの作りが、と漸く気付かされて。
収録されている話は雑誌の掲載順時系列、最後の「野狐」が書き下ろしとなっているが、その並びも申し分ない。
素晴らしく出来の良いアルバムCDのような様式だ。
読者にとってはお馴染みの人物たちもやっぱり遠からず繋がっているし、安心感に満ちた一冊であることは間違いない。
途中に収められている幾つかの物語について、相対的に見て若干底が浅いというか、なんとなく想像の範囲内で流れが予見できてしまったというあたりで、星1つ減。