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うた恋い。 1 超訳百人一首 みんなのレビュー
- 杉田 圭 (著), 渡部 泰明 (監修)
- 税込価格:1,045円(9pt)
- 出版社:メディアファクトリー
- 発行年月:2010.8
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コミック
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紙の本
タイトルに偽りなし。古典の恋歌の「さわり」を知りたい人にはお奨め。
2011/03/21 23:02
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エリック@ - この投稿者のレビュー一覧を見る
百人一首の選者・藤原定家を筆頭に、古典における著名な歌人たちを登場人物として、百人一首の中でも特に恋歌を中心に取り上げた漫画作品。
内容は、百人一首の選歌について、詠まれた背景や時代設定等について言及しながら、分かりやすくストーリー漫画仕立てで補完されている。
本作は『うた恋い。』というタイトルであるが、より厳密には悲恋歌を中心に選歌された構成である。
作品コンセプトや作品に対する著者の想いは、作品冒頭の『はじめに』に要約されており、現代における「携帯電話のボタン一つでメール送信完了」と異なり、「平安期等の恋愛模様は歌一つ届けることにも苦労があった」とする点は大変趣き深い一節だ。
鮮明なのは、今も昔も、恋愛は文学作品の一大テーマであることに変わりはないという点だろうか。
恋文一つ31文字の歌の中で、人一人の心を詰め込むだけ詰め込むという作業の困難さ膨大さを、思い知らされる一冊だ。
漫画作品としては、(失礼ながら)画力・構成力とも際立ったものではないものの、登場人物の表情(特に女性)について、時折、思わず息を呑むような悲壮感が漂っている場面もあり、女性視点から百人一首の世界観を知る意味では、割合、本来的な歌の意味に近いのではないか、と感じさせる。
著者の公式HPにもある通り、著者自身が地道に勉強しながら作品を描いていることの伝わる内容であり、それもあってか、全体的に大変丁寧で分かり易い内容である。
読み手の側が「素直」になって、その気持ちのまま読めば、読むだけ引き込まれるような作品に仕上がっている。
また、原書で古典を読み進めることは、本来的に現代人には困難な所業であるため、現代語訳された書籍というのは、古典を知る上で貴重なジャンルである。
その一方で、訳本の出来栄えや正確さについては、突き詰めると、読み手には検証し得ない点でもあり、本作は『超約』というタイトルにもある通り、一部で現代版にアレンジし過ぎている為か、単純に私の勉強不足によるものか、内容の正当について判断することが出来ない点もあった。
敢えて一般論を述べるとすれば、現代と平安・鎌倉期の常識や情緒が全く異なるため、それを我々に理解できる程度に現代語約することすることには、そもそも試みとして限界があるということだろうが、それを言ってしまうと身も蓋もないか。
私に判別できたことは、本作が作品として面白く、読み物として優れているという点のみ。
個人的には、語訳や内容の正否はともかくとして、とても楽しんで読むことが出来た。
中でも特に上手いと思わせた演出を一つ挙げたい。
百人一首の選者・藤原定家が解説役として作中で度々登場するのだが、各歌を詠み終えて、読者が疑問を浮かべているところを見計らって補足を入れる辺り、実に絶妙の間を見せている。
この演出は、文章のみではない漫画作品ならではのページの使い方と言えるだろう。
同時期の古典を取り上げた現代語訳としては、本作以外では橋本治の桃尻語訳シリーズ等が有名であり、コンセプトも似通っているが、実際に『桃尻語訳 枕草子』『窯変源氏物語』辺りを読んでみると、ほぼ語り口が同一。
それを考えると、極端な形ではあるのだろうが、現代語訳としては本作でいう『超約』は一つの完成形なのかもしれない。
余談であるが、上記した橋本治といえば、『百人一首 新装版 桃尻語訳』(海竜社刊)が2009年に発刊されており、私はその本を未読であることに気がついた。
近くそちらについても読んでみて、百人一首の世界について知識を深めたいと考えている。
評するに、本作は古典の一つ、百人一首の「さわり」を知るには打ってつけの作品である。
特に恋歌を取り上げ、分かり易い解説を加えている点はタイトルに偽りなく、全く知識のない者にも十分に楽しめる内容となっている。
端的に述べると純粋に読み物として優れている。
一方で、正確な現代語訳を試みている作品ではないので、本来的な意味で古典を知りたいのであれば、他の作品をあたる方が良いだろう。
ともあれ、続編への期待が高まる作品に仕上がっているので、興味のある人は是非、手に取って欲しい。