紙の本
本格ミステリーのセオリーを根底から破壊して見せた「本格」といわれる怪作
2011/06/16 00:20
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投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ガルシア・マルケス『百年の孤独』に疲れたので、軽く一息入れるとしよう。このところ日本の本格推理小説にはご無沙汰だったから、日本推理作家協会賞、本格ミステリー大賞といういかにも「本格」らしい二冠をとったという作品なら最近のヒット傾向がわかるかもしれないと思い、手に取ったしだい。もちろん謎解きをゲームとして楽しむために。
険しい山々に囲まれたポツポツと集落のある寒村。千年の時を越えて今なお生きる龍神伝説。龍神の祟りを封印した女神の子孫スガルが今でも村民たちの鎮守信仰を集めている。そして次期スガル候補者であるこの一族の娘たちが次々と首を落とされて殺されていくのです。
となれば、推理小説界もまだまだ横溝正史風が続いているらしい………とはじめは思った。
だが、いつのごろのお話かといえば大正とか昭和初期ならまだしも1985年なのだから、こんな伝説因習を生活の軸にしている地域はあるはずがない………とこれは読み終えても変わらない。
隻眼の美少女探偵・御陵みかげが颯爽と登場する。水干といわれる装束だが、神主の衣装のようでこれは表紙の写真にあるから視覚的に確認ができるのだけれど、はなはだ漫画的ですね。相棒は自殺志願の若者で、二人は軽い口調のノリでお話をややこしくしていく。
みかげチャンのきめゼリフは
「そうですか。となると不都合ですね」
「私の左眼は真実を見抜きます」
らしく、時々これで恥ずかしそうに見栄をきります。私には凄みはもとよりカワイイ!とも感じられず、読んでいるのがむしろ気恥ずかしい思いです。
地図にない村とはいえ、これだけの猟奇連続殺人事件であればマスコミは大
騒ぎするだろうし、警察陣ものんびりとしてはいられないはずですが、何の働きもしないで、証拠調べ、関係者取調べもみかげチャンまかせです。
一時はやった映画「トリック」の仲間由紀恵と阿部寛のコンビのようです。
めでたく第一部が終了し第二部だが、これは2003年のお話。同じ村でおこるやはりスガル一族の連続殺人事件。自殺志願者だった若者は大人になって登場。みかげチャンは第一部のみかげチャンの娘が活躍するお話になる。相変わらず役に立たない警察陣を尻目に二代目みかげチャンと彼とで第一部と相似形の活躍をするのだが、このあたりでようやく作者の意図が見えてきた。
ここからは横溝風をかなぐり捨てます。様相をがらりと変えたとんでもない趣向が見せ場になる。
「丁寧に建てた館をテーブルクロスごとひっくり返す大胆な仕掛け」が決まったようだ。
理屈に理屈を重ねたドンデンガエシなのだが、寄る年波だろう、その理屈は面倒くさくて理解する気力がなくなっている。リアリティに欠けた背景設定、なんでもありのトリック無作法、ドンデンガエシにいたるまでのストーリーの平板さにはついていけません。つまるところ、読者が犯人を当てようとする意欲に応えた、粋で楽しいゲームにはなっていませんでした。
「オジサン、いまどきそれは古いよ」
と指摘されるかもしれない推理小説観だが、
坂口安吾は
「謎ときゲームとしての推理小説は、探偵が解決の手がゝりとする諸条件を全部、読者にも知らせてなければならぬこと、謎を複雑ならしめるために人間性を納得させ得ないムリをしてはならないこと、これが根本ルールである。」
としている。
「人間性を納得させない得ないムリ」とはリアリティの欠如が含まれるでしょう。
この作品はこの伝統的秩序を徹底的に破壊したところがミソのようなのだが、破壊活動への素朴な反感が大きく、古いタイプの推理小説ファンとしては坂口安吾のセオリーはあらためてもっともだとしみじみ思うわけです。
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伝承の謎に包まれた琴折家の殺人事件、これに挑むは高飛車でなかなかデレない美少女探偵・御陵みかげと死相の出ているワトスン・種田静馬。
そしてその18年後、静馬が巻き込まれる新たな殺人事件。
ふたつの事件の繋がりとは?みかげが導く真犯人とは?
帯と装丁の雰囲気に反して、中身は普通に本格ミステリ。ある意味詐欺かも知れない。
設定や雰囲気はとても麻耶氏らしいけれど、結構すっきりした終わり方なので麻耶特有の後味の悪さはあまり感じられなかった。
ただ、それ故に何か裏があるかも知れないと思ってしまうわけで…特にラストの静馬、何か腹に一物抱えていそうで。
麻耶氏に毒されてるんでしょうか。
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相変わらずの麻耶雄嵩っぼさに満足。でも謎解きが多少アンフェアな気が。伏線、見逃してたのかなぁ。あと、帯のラノベっぽい文句は詐欺だ。
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連続殺人に遭遇した種田静馬は、水干姿の隻眼美少女探偵・御陵みかげと共に謎に挑むのだが……。残された手掛りを元にロジカルに推理を組み立てるという”犯人当て”の体裁をとりながらもそこは麻耶雄嵩、一筋縄ではいかない。圧倒的な量のネタを詰め込み、同時に後期クイーン問題をも強く意識した作品に仕上がっている。少し物足りなさを感じたものの傑作なのは間違いなし。面白かった。
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麻耶雄嵩らしい容赦ない残酷な真相。御陵みかげのキャラクターも含め、すべてはそこにもっていくための伏線、という見事な本格ミステリ。
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読後感の最悪さはさすが麻耶。
過去の作品を意識した作りになっているので、過去作を一通り読んでからの方が楽しめそう。
トリック、ロジックの細部に荒さが見られるが、それすら吹っ飛ばす仕掛けのインパクトが最高。後からじわじわ効いてくる感じで、すぐに再読したくなる。
キャラクターの不自然さ、作り物らしさが魅力的。
後期クイーン問題に真正面から取り組んだ結果、背負い投げ喰らわせて畳に押さえ込んだような作品。
麻耶好き、ミステリ好き以外にはお薦めしにくいかも。
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死に場所を求めて琴折村を再訪した大学生・種田静馬はそこで水干姿の少女に出会う。
少女は2代目・御陵(みささぎ)みかげと名乗り、探偵だという。
初めは年上を年上とも思わぬ態度にイラつく静馬だったが、殺人事件の容疑者となったところを助けられ、みかげの助手見習いとなることに。
村を統べる一族の娘が殺されたその事件はやがて連続殺人の様子を呈していき・・・。
麻耶さん5年ぶりの新作長編。
いやぁ凄い。さすが麻耶雄嵩。
第1部 1985年・冬、第2部 2003年・冬、と2部構成になっています。
ぶっちゃけ第1部は途中けっこう退屈です。
手がかりから推理を構築し、それが崩れまた新たな手がかりから推理を構築し・・・。
という、論理の底なし沼の様相。
それでも一応、第1部の終局を迎え、続く18年後の第2部。
時を越え、さらに続く殺人に、いいように翻弄されまくり。
そして探偵により明らかにされる真実。
やっぱりやってくれました、麻耶さん。
世界に秩序をもたらすはずの謎解きで、更なる混沌に突き落とすという。
再読必須です。
それでもこれは麻耶作品としてはとっつきやすいほうかな。
一応ケリがついてますから。
今年刊行された『貴族探偵』とともに、この2冊は待たされた甲斐があった作品でした。
さあ、次は何年後だ?
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相変わらずの麻耶雄高作品でした。なんかどの作品を読んでも、共通した独特の空気感が漂っているんだけど、それが上手く言葉で表現できないのがもどかしい。狂気の母性とそれに捕らわれてる虚脱青年みたいな構図と言えば良いのか。
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古より女性による竜退治の伝説が代々伝わる山深い寒村、栖刈村を訪れた大学生の種田静馬。
彼はそこで水干を着た隻眼の少女探偵、御陵みかげ出会い、ひょんな事から彼女の助手見習いとして、共に不可解な連続殺人事件を追うことになる。
現代本格ミステリの雄、麻耶雄嵩の描く至高の探偵譚。
確かな論理と心躍る物語。この小説を語る上でどちらを欠いても成り立たない2010年代最初の傑作。
この麻耶雄嵩という作者の評価として、僕の中ではいい意味で「後味の悪いミステリを書かせたら日本一」というイメージがありますが…果たしてこの本がどうかは実際に読んで確かめて下さい。
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まあ、これぞ麻耶雄嵩という作品ですね。
閉ざされた村での殺人と探偵というものの在り方をニヤニヤしながらとうている作品。
それも力作という感じではなく、さらって書いている。
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因習漂う村、見立てめいた連続殺人、そして美少女探偵(ツンデレ?)、とおいしい要素はてんこもり。ただし……「ツンデレ美少女探偵」の売り文句に惑わされて読んではいけません(笑)。
二つの事件のつながりと犯人の動機はもうどうしようもなく悪質です。これには驚きました。こういうタイプのは今までなかったよねえ……? ひたすら絶句。ネタバレになるので多くは語りません。驚きたくって後味の悪い話が苦手じゃない人には、お薦め。
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これは典型的なフーダニット…? と思いながら、物語全体を包む何ともいえぬマンガチックなハチャメチャぶりや、細かいやりとり・描写の齟齬、文藝春秋らしからぬつまらぬ誤植などに首を捻りつつも読み進めていったのだが、終盤、種明かしの部分でグイッと強引に持っていく腕力はさすが。
ドタバタフィクションもここまでやりきられてしまうと、素直に楽しまざるをえない。
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水干姿の美少女探偵・御陵みかげ(ちょっぴりツンデレ)と種田静馬が18年越しに遭遇する連続殺人。その物証の、その推理の確からしさ…的なものが主題の一つなのだろうか。そういう面からも2部構成(とちょっぴりツンデレ)が良く生きていたと思います。面白かったです。
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初めて読んだ作者。かなりがっかりな作品。強引な持っていきかたが、あざとすぎる。ファンの方はこういうところが好きなのかも。2冊目を手に取ることは無いかもしれない。マンガを活字で読んでいるような感じ。
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隻眼の美少女探偵・御陵みかげは、寒村の旧家で起こった連続殺人事件を捜査するが・・・
一言で言えば、おもしろくない。なんだか何も引っかかってこない感じ。なんでだろう。
文章がこの人にしては読みやすかったから、なんとか最後まで読めた。