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トルコの湖に棲息すると言われる未知生物ジャナワール調査の旅。トルコの民族問題にぶつかった末に著者たちが遭遇したものとは。おもしろ可笑しい怪獣取材旅行記。
2010/10/07 18:38
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、2006年に著者高野秀行が、トルコ東部のワン湖に棲息すると噂される怪獣ジャナワールの真偽を確かめるべく、実際にトルコを訪れた調査旅行の顛末を収録したものである。
『既知の未知動物』には興味が無く、『未知の未知動物』に興味があるという著者。
その点でジャナワールは『既知の未知動物』であり、琴線に触れるUMAではなかったのだが、著者は、元々ジャナワールのフェイク感に胡散臭さを感じ、その存在に懐疑的だった。
それでもトルコへ行く決意をしたのは、存在の真偽をハッキリさせたい思いと、ジャナワール映像を撮影した本人による宝の詰まった著作「ワン湖のジャナワール」を発見したからだった。
かくして著者高野秀行、カメラマン森清、トルコ遊学経験のある大学院生末澤寧史の三人は、トルコを訪れた。
そしてジャナワール調査旅行の果てに彼らを待ち受けていたのは、とんでもないできごとだった。
エンターテインメントノンフィクションを標榜する高野秀行氏の著作だけあって、軽妙な筆致の本書は、間違いなくおもしろ可笑しい。そして著者の未知動物への情熱が詰まっている。
『ジャナワール?映像見たけど、あんなのフェイクでしょ』と思いながらも、その真偽を確かめにわざわざ現地まで行く、馬鹿らしさ。
『ジャナワールを探しに来た』と言っては現地の人々に大笑いされ、それでも取材を続ける痛々しさ。
40代のおっさんである著者が、子供用ゴムボートに乗って手で水をかき、ワン湖の調査に向かう滑稽さ。
その一方で、現地取材の様子や、トルコに内在するイスラム復興主義やクルド人問題にぶつかる、シリアスな一面も。
そういった緊張感のある民族問題に触れながらも、著者の描く現地の人々はとても親しみを感じさせる。
それは、同じ人間として彼らに触れる著者の親しみと、鋭い人物観察から描き出される生き生きとした人々の姿があるからだろう。
特に、現地ガイド二人への親しみのこもったユーモラスな描写は最高。
こんな魅力の詰まった本書は、怪獣探しなんて馬鹿らしいと敬遠している人にも、ぜひ読んで貰いたい一冊だ。
■おまけ
著者たちをトルコに導いた書籍「ワン湖のジャナワール」を発見した末澤寧史氏のブログ
「Istanblog-末澤寧史のイスタンブル流学記-」
「ワン湖のジャナワール」というカテゴリに、末澤寧史氏の怪獣探しに巻き込まれた顛末などが公開されています。
きっとジャナワール取材旅行の世界が広がりますよ。
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写真がいい
2017/02/21 10:06
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:tamayo04 - この投稿者のレビュー一覧を見る
写真が所々に挿入されていますが、自分も旅に出たくなるような異国情緒あふれる写真が多かったです。デビュー作の荒削りな感じの怪獣さがしとはまた違った感じでよかったです。
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見つからないけれど面白いというスタイルの確立
2016/03/18 01:33
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:わびすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る
おそらくこのあたりから高野氏の探検スタイルが確立したのだと思う。未確認動物が見つからなくても、旅自体が魅力的なのである。本作もトルコ奥地の政治的に危うい感じと、その中で飄々と振舞う著者のおかしみが感じられる。でもそろそろなにか発見してもらい気もする。
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今日買って読み終ってしまった。
案に相違して本人が目撃したのにもかかわらずうやむや感が残留したまま。そういったものかもしれないけどね。
高野さんの本の主役は土地の人々である事を再確認。
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UMAについて証言するトルコ人がどいつもこいつもインチキなのに爆笑。コミカルな感じで終わるかと思ったら、最後に意外な展開あり。楽しく読めました。
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オモシロかった!
やってることはいつもの通り阿呆じゃないかと言う事(ごめんなさい)だけど、今回は見つかっただと!?
ある種、見つかるわけないし、、とコチラも安心して読んでいたのにw
出来事に対しての評価というかツッコミが最高。
なんだこれは?というコトに対しての意見がほんとにオモシロい。
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せっかく怪獣を探しに行ったのに、いざ見つけてみるとどうしていいのかわからない状態になるというのが面白かった。怪獣を社会学的に分析するのは、作者のいつもの手法。ただ本当に見つけてしまうとなかなかその怪獣も料理がしにくいのはよくわかった。昔からワン猫を一度見に行きたいと言っていたのだが、この本を読んでその思いが強くなった。それで★が一つ増えている。
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タイトルだけ見ると普通の未確認生物探検ものっぽいが、中身はとにかくてんこもり。謎の巨大生物ジャナワールを追ってトルコのワン湖に向かうが、その先にはUMA界の不思議な縁とか、しっちゃかめっちゃかなトルコ情勢とか、やたら怪しいアラブ人とか、不思議生物ジャナワールがどうでもよくなるような面白さ。
そして最後の数ページの静かな驚き。
笑いつつも、クルド人問題やイスラム原理主義が新聞や教科書の中じゃない現実とはこういうものかと考え込んだりもした。
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トルコの湖にいると噂の未知の生物を探す…なんて
「誰もやらないこと」に真剣になることの面白さが、
バランス感覚の良い文から生き生きと伝わって来る。
泣き笑い怒り驚いた濃密なたったの10日間の記録。
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今度の高野くんはすごいぞ!ついにやった!でも周りの反応は何!ちょっとひどくない?高野くんも早いとこ続編お願い!それより調査に行って!
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ネッシーみたいな未確認の謎の生物をさがしにいく話。
冒険というより、地道でまじめな取材といった感じが続くのだけれど、淡々とした感じがよかった。謎の生物らしきものを目撃したのに、興奮するよりむしろ困惑したり、仲間割れしそうになったりするところとか。なんか高野さんっぽいなーというか。こういうところがわたしは好きだ。でも、子供用のビニールのボートみたいので手でちゃぷちゃぷ漕いで湖をいくところとか、わくわくする感じが伝わってきた。
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こんな人生も楽しそうだなーと思わせる冒険記。
しかも、こういうエキセントリックな生き方を選ぶ人にありがちな、エキセントリックな行動様式や思考回路があるわけではなく、ただただ淡々と冒険をこなしていく。そして何かを発見する。
読後感も極めて爽やか。
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トルコのクルド人地区にあるワン湖に未確認生物を探しに行く話。見間違いやウソのあって結局正体はわからない。ガス説が一番説得力があった。
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UMA(未確認動物)探索を語るのは難しい。その歴史と分類を小辞典風に纏めたものならJバルロワの『幻の動物たち』等の秀作がある。フィクションなら作家の想像力次第では如何なる世界でも紡ぎ出せる。但、自らが関わった探査行を描く場合、発見できなかったという事実が先にあるのが普通である。万が一発見されていたら当然大ニュースになっている筈。発見のない探検を如何に描くか?『幻獣ムベンベを追え』は眩いばかりの青春群像だった。『怪魚ウモッカ~』ではカフカの城的不条理な手法を使った。本作では?何と筆者は未知と遭遇してしまう!
『さていよいよ出発だ。勝負だ。本年四十歳の私は、Tシャツにビニール袋をまきつけ、下は短パンに裸足、右にパドル代わりの板切れ、左にカメを抱えて、水辺に浮かべた幼児用ボートに乗り込んだ。』φ(.. ) ジャナワ―ルの潜み住むというワン湖へと漕ぎ出す筆者。これぞ男のロマンかな?(2013年04月01日)
”~記”のつく題名でざっと思い付くのは、古くは「方丈記」、海の向こうでは我が偏愛の「さすらいの記」(ヘルマン・ヘッセ)、近くは直木賞作家・葉室麟氏の「秋月記」及び「蜩ノ記」。このラインナップに並べるとひときわ異彩を放つ高野秀行氏の「怪獣記」。いやあ、実にシュールで良い。^^;2013年03月28日
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今回の旅はトルコ最深部、もうイランとの国境に近いクルディスタンの地にあるワン湖。パックツアーは当然、個人旅行者でもめったに行かない所だ。もっとも、著者の高野氏は、この前年に家族旅行で行ったというのだから、根っからの辺境好きだ。それにしても、早稲田探検部時代にはコンゴの奥地にムベンベを追い、今また、いい年をして(不惑にもなって)ジャナワールの正体を求めてワン湖へ。なんとも破天荒な人生。幼児用のビニールボートで湖に漕ぎだすところなどは、もう抱腹絶倒。そして、ジャナワールは今もUMA(未確認不思議生物)なのだ。