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「蟻族」(イーズー)、すなわち「大卒低所得群居集団」たちの「下から目線」による中国現代社会論
2010/11/18 13:04
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:サトケン - この投稿者のレビュー一覧を見る
「蟻族」(イーズー)というネーミングを考案し、はじめてかれらの存在を目に見えるものとした本格的な社会調査の記録である。昨年2009年に出版されたこの記録は、中国ではベストセラーになり、「蟻族」というコトバが一気に拡がったという。本書はその日本語版である。
調査対象は、首都北京の「大卒低所得群居集団」、平たくいうと大卒だが低所得層で、都市と農村の境に立地する賃料の安くて狭い集合住宅に数万人単位で群居し、部屋をシェアして集落のなかで暮らしているワーキングプアたちのことだ。「蟻族」という表現を、私が初めて耳にしたのは数ヶ月前のことだが、それにしても卓抜なネーミングである。まるでその姿が手に取るように見えるではないか。
「蟻族」はいわゆる「80年后(バーリンホウ)」とは世代的にほぼ完全に重なる、「改革開放」の1980年以降生まれの現在30歳以下の若者たちである。ただし、「蟻族」はあくまでも大学卒のインテリ大衆であり、同じく地方出身のワーキングプアといっても、「民工」や「農民工」といった下層労働者層とはまったく異なる存在だ。
中国政府の政策により「知識社会」に備えるべく大量に設置された大学で学んだ若者たちであるが、しかし現実は彼らが夢見た姿とは大違いであった。労働需要を上回る大学卒業生供給の結果、北京のような大都市では、権力もコネももたない彼らが 職を見つけること自体が容易ではなく、たとえ仕事が見つかってもキャリアアップにはつながらないものばかりだ。「蟻族」としての生活を送ることを余儀なくされたかれらに共通するのは、そんなはずではなかったのにという思いからくる「剥奪感」。まさに「大学は出たけれど・・・」の状態だ。
そもそも公的な統計データのないのが「大卒低所得群居集団」の世界である。アンケートによって収集したデータにもとづく定量分析と、ディープ・インタビューによる定性分析は、編著者たちが私費も投入して行った苦労の産物であるが、たとえ置かれている状況が大きく異なるとはいえ、「同じ中国人の同世代の若い研究者たちによる同世代の若者たちの調査」であったことが、好結果をもたらしたのであろう。
とくに後者のインタビュー集「群居村取材レポート」は、等身大の若者たちのリアルを描きだして実に興味深い。隣の国の若者たちの姿を手に取るように理解できるのは、本書のもとになった調査がすぐれたものであるだけでなく、よみやすい日本語になるよう工夫をしているからだろう。
副題にある「高学歴ワーキングプア」について、この表現は日本では文系の大学院以上の高学歴者が職を見つけられずにいる状態を表現するコトバとして作られたものだが、中国の現状はむしろ「大学大衆化」がもたらしたものであり、ニュアンスは大きく異なることに注意しておきたい。また、編著者は「日本の読者へ」のなかで、「蟻族」は日本では自発的な選択である「フリーター」にあたるといっているが、これもまた実際とは大きく異なるように私には思われる。
大学大衆化と大学院大衆化という違いはあるが、中国も日本もともに、経済政策と文教政策と労働政策がお互いチグハグなまま生み出された悲劇であるといえようか。日本以上に深い社会矛楯を抱えた中国であるが、しかしながら「蟻族」たちは、成熟社会に生きる日本の若者たちよりも、就学生として日本で働く中国人の若者たちに似て、むしろたくましく生き抜いているように思われるのだ。
中国の若者たちの「いま」を知るうえで、遠藤誉による『中国動漫新人類-日本のアニメと漫画が中国を動かす-』(日経BP社、2008)と『拝金社会主義中国』(ちくま新書、2010)とあわせ読むことを薦めたい。多様な若者たちの姿を知ることによって、現代中国についてより深い理解が可能となることだろう。
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働けど働けど
2010/11/14 13:30
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ソネアキラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
先だって尖閣諸島の中国の領有権を訴える大規模な反日デモが中国の地方都市で頻発した。ニュース映像は、反日をアピールする若者たちを映していて、彼らのことを「八〇後(パーリンホウ)」と紹介していた。つまり、1980年代に生まれた世代。ちなみに1990年代に生まれた世代は「九〇後(ジウリンホウ)」というそうだ。
「蟻族」は、「八〇後(パーリンホウ)」で、「改革解放後に生まれ、-略-中国経済の急成長と社会の大きな変化を目撃してきた」世代だとか。「戦争を知らない子どもたち」をもじるなら、「ビンボーを知っている子どもたち」が、「八〇後(パーリンホウ)」。「ビンボーを知らない子どもたち」が「九〇後(ジウリンホウ)」なのだろう。
で、「蟻族」って何だ?「大卒低所得群居集団」のことだそうだ。学歴は高いが、まともに就職できず、つーか急激な大卒増による就職難で、家賃や物価の安い北京郊外の「唐家嶺(タンジャーリン)」などに間借り生活をしている。地方出身者で親元は裕福でないので、自活を余儀なくされている。劣悪な居住環境、信じられない交通渋滞などにも耐えながら、ひたすらステップアップするチャンスをうかがっている。
このあたりが、戦前の日本の下宿していた大学生と似ている気がする。
この本の最も魅力的なところは「蟻族生態図鑑」ともいうべき彼らの生い立ちや学歴、経歴などを取り上げているところだろう。もちろんそれぞれに異なるのだが、共通しているのは、成りあがろうとする、這い上がろうとする意志の強さ。たとえば一攫千金を狙って貯めていた金をはたくが、結局は騙されてしまう。友人だろうが、同朋だろうがスキがあれば騙す。でも再び立ち上がる。断じて、草食系じゃない。夢が北京に家を買うことだそうで、でないと、彼女と結婚もできないとか。いやあガッツがあるわ。
「蟻族」の不満が臨界に達したら、矛先が、反日から中国政府へといつ変わるかもしれない。大学まで出ているのに、なぜ希望する職業に就けないのか。なぜ高卒の労働者の方が現在の自分の給料よりいいのか。社会が成熟化すれば現在の中国共産党体制には、矛盾を感じて当然だろう。ましてや偏差値の高い蟻たちにとっては。
中身の濃い本である。ただし、訳文が少々ぎこちない箇所もある。大学の先生が翻訳したのか。それからレイアウトに工夫がなく、読みづらいのが難点だ。せめてタイトルと小見出しのポイントの差はもっとつけてほしい。できれば、タイトルの後にリード文があれば、読む人にもわかりやすくなるだろう。もっというなら、「蟻族」の面々を紹介するなら常に右ページの頭というレイアウトなら、とも思った。大きなお世話かもしれないが。
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「就職難に直面した中国の地方出身大卒者」
日本で話題になる「高学歴ワーキングプア」は、大学院卒のことである。特に、博士課程修了者や博士号取得者で仕事のない人々のことを指すだろう。
中国の大学院生も、特に文系出身者は、(まだ日本ほど顕在化していないが)同じようなキャリアの不透明さに悩まされている。しかしこの本はそれ以前の、大卒者の苦労を描いたものであり、大学卒業資格の価値下落の結果を書いたものである。
本書が出版されたのは、評者が北京に滞在していた2009年のことであり、当時の中国で大変話題になっていたことを思い出す。英語圏と国内の学会誌のみを見ている大学・研究者の世界というより、広く読書界で話題を呼んだ。
地方から大学進学のため出てきたものの、低賃金の仕事しか見つからなかった、または仕事が見つからなかったなど、折からの就職難の中で望ましい就職のできなかった若者が大量に生まれている。そして北京など大都市の周辺部、農村との境界にあたる部分に、彼らの集住する地域が形成されている。
著者らはこうした、都市に滞留する地方の大卒者たちの群れを、知能が高い群棲動物であるアリになぞらえて「蟻族」と名付け、その生態を調査してまとめたのが本書である。
著者たちの主な目的は、こうした大卒の低賃金労働者の出現を、社会問題として認知させることにある。
学術界で「出稼ぎ農民、リストラ労働者、農民」は三大弱者集団とされ、政策的にも対策が議論されている。「大卒低所得群居集団」は、今のところ大きな問題とはされていない。しかし彼らも、社会における不満分子なのであり、放置すれば動乱などの要因として体制不安定要因になりえる、という形で問題提起を行っている。
「これらの『エリート候補生』が社会に参与できない、或いは行き場を失ってしまえば、若く繊細な心やゼロに等しい自活力が経済危機の下に晒されてしまうことになり、必ずや中国社会の調和と安定にとって潜在的な脅威となるだろう」(21)。
「社会がこの問題は解決しなければならないことだと認識したとき、我々は使命を終えるのである」(17)。
こうした問題の背景には、中国における大学の野放図な拡充政策によって、社会的に価値の認められない学位が乱発されたことがある。その点について、翻訳版では監訳者による解説が冒頭におかれている。
それによれば、文革以後、初等・中等教育制度の整備が進み、その後は高等教育も拡充が目指された。1980年と2008年の統計を比較すれば、計画出産(一人っ子)政策のため初等教育学生数はこの間に減少している。しかし高校レベルの学生数は5倍増、大学など高等教育の学生数は実に27倍増となった(vii-viii)。
大学・学生数が激増したのと同時に、重点大学を指定しそこに政府資金を重点的に投入する「211工程」「985工程」を通し、「一流大学とそれ以外」の線引きが明確になされた。
加えて、「大卒者」への参入ルートも多様化した。社会人学生(成人教育)や、旧大検に近い制度「自考(自学考試)」など、通常の学生(本科生)以外にも多様な形の「大卒者」が現れることとなった。
こうした過程の中で、重点大学とその他の大学、および通常の卒業者と成人教育課程卒業者などの間に、大きな格差が生まれることとなった。「その他の大学」の「非本科生」は、残念ながら「大卒者」といっても社会的にその資格が認められる存在ではなくなっている、と監訳者は指摘する。
本書本文は、「雪だるま方式」で集めた質問紙調査の結果から、この集団の特性を把捉しようとした前半部と、聞き取り調査の結果から、彼らの生活上の苦労や心理的な苦悩をルポルタージュ的に描いた後半部に分かれる。
こうした「群居村」は、北京近郊では唐家嶺、小月河、二里荘、沙河鎮などがある。北京地区だけで、こうした人々は10万人以上いると推定される。
質問紙調査によれば、その住人の年齢は22-29歳(つまり「80后」)に集中しており、職業は技術系あるいはサービス系が多い。保険のセールス、電子器材の販売、広告の営業、飲食サービスなどである。平均月収はおよそ2000元で、平均の家賃は377元。
中国はタテにもヨコにも多様な社会なので「平均値」を考えるのが難しいが、イメージとして言えば月収2000元は、出稼ぎ労働者の賃金と、いわゆる大卒者の同年代の賃金の中間あたりである。本当の貧窮者という訳ではないが、独立して通常の社会生活を営むには厳しい額とでも言えば良いだろうか。
しかしまがりなりにも都市での独居を可能にしているのは、家賃の安さである。通常の意味で言う「北京市内」で、400元前後で借りられるワンルームマンションの物件は確実にない。どんなに安くても1000元はするだろう。だから、職のある若者でも、中国都市部ではルームシェアで家賃を抑えることが日本よりはるかに一般的である。
本書によれば、2006年に北京周辺の都市/農村の境界部に農業システム転換基地ができたのを機に、1Kの大量の部屋が建設され、格安で賃貸するとの情報がウェブで流された。住宅に困っていた若年層が、大挙してここに押し寄せた。こうして都市周縁部に激安マンションが増え、そこに「群居村」が短期間で形成されることとなった。
職業・教育状況の集計では、監訳者が社会的価値を認められにくいと述べていた経歴の者が、相当数を占めている。また専攻によって格差があり、理工学(特に国立本科卒)は比較的高所得で、安い家賃に惹かれてここに入居しても短期に入れ替わる傾向がある。対して文系や経営学の卒業者は集団内部でも低所得であり、長期滞在になることが多いという。
またこの調査には一種の心理テストが入っており、ここの住人たちは強迫感、憂鬱感、敵対感、偏執などが、一般的な数値より高かったと報告している。
総じて、高等教育を受けたものの教育制度上の区分、あるいは地方出身者という制約などから、都市の同年代に強い劣等感を抱きやすい集団であるという。これは、苦学した家庭の子供が苦労し、都市民の恵まれた層の子弟が優遇される、つまり資源が世襲される「コネ社会」の現れ以外の何物でもない、と著者たちは義憤を禁じ得ないでいる。
他方、社会・政治に対する意識としては、社会や政治への参与意欲が比較的高いことが挙げられ、この集団が不満を持っていることが分かるという。
そして人的ネットワーク構���の手段としては、インターネットが最も使われている。ネット上の数々の事件の背景にも蟻族がいるだろうという。
しかし陳情・公開集会・ストライキやデモといった形で人とつながっている割合はそれほど高くなく、インターネットで人とつながっても、直接行動に出るよりは「傍観者的役割」であり、集団行動への意欲は高くない者が多い。よって現段階では直接に社会的脅威となる集団ではないが、このまま放置すればいつ不安定要因に転化するか分からない、というのが著者たちの観測だった。
後半部の、聞き取り調査によるルポルタージュは、要約しづらいこともあり、本文を参照して頂きたい。文芸的な中国版「青春残酷物語」であり、いろいろな文脈の違いはあるにしても、私周辺以下の世代にはどこか体感的に共感できる記述も多いのではないだろうか。
10人あまりの被調査者の濃密な語りを通し、夢を抱いて北京にやってきたものの、様々なトラブルや不合理に巻き込まれて次第に希望を失っていった様子が描かれる。
共通しているのは、学歴が評価されないこと、また北京の戸籍がないことにまつわる苦労であり、またやっと見つけた職が低賃金・高ノルマの仕事だったことである。
友人などと起業したが失敗した、という者も複数いる。マルチ商法詐欺に引っ掛かり、拉致同然に地方へ連れていかれ強制労働させられそうになったところ、やっとの思いで脱出したというエピソードを持つ者も複数いる。
また恋愛、家族、ルームメイト関係など、身近な人間関係のトラブルで流浪生活を余儀なくされた者も多い。
この点は著者たちが重視する点で、前半部の質問紙調査でも「性・恋愛・結婚」の充実度が低いことが強調され、それが「生活の質」に悪影響を及ぼしていると述べられている。
いわば中国の、相対的に豊かでない層の「非モテ」問題であり、むしろ日本より深刻そうである。
また「田舎に帰っても良いことはない」というのが全員の共通認識であり、故郷に帰る訳にもいかない。こうした「寄る辺のなさ」と、人生の転変を余儀なくされる「過剰な流動性」が、対象者の語りを通して記述されていく。
そして本書は、ここの住人たちが、街の入り口で、「水費」(いわば「ショバ代」)として月10元の不透明な集金を強制されていることを指摘し、小口であるとしても住民数を考えれば毎月莫大な額となるこの金は、一体どこに流れているのだろうか、という不気味な問いで閉じられている。
評者自身、本書の評判を聞いて、北京滞在中に知り合いの中国人の先生と唐家嶺へミニ取材へ行ったことがある。唐家嶺は、北京の有名大学が集まる市西北部に位置し、ハイテク産業集積地として知られる中関村の、市中心部から見て反対側の端に隣接した一帯である。
この本をきっかけとした、ジャーナリストの取材などが大量にあったらしく、住人も大家も妙に構えていたのが印象的だった。私が話した数人の若者たちは、「可哀想という取材がよく来たが、自分は満足しておりメディアの伝え方は間違っている」というようなことを言っていた。彼らは、中関村で、ウェブ管理者や末端のプログラマなど、いわゆる「ITドカタ」的な仕事に従事していた。
また大家は、「別���普通の快適な部屋だ」と言っていた。実際、単純に市中心部から離れて不便な点を除けば、それほど悪い部屋ではなさそうだったし、家賃も600~700元が相場のようだった。本書出版の後、農民が経営するマンションもやや改善されたのかもしれない。
しかしこれらのマンションは、要するに農地利用の規制緩和を拡大解釈し、家賃収入を得ようとした都市近郊農民による違法建築である。唐家嶺はすでに取り壊しが決定され、住民はほぼ全部退去したらしい。
取り壊し決定の経緯、また本書出版後に「蟻族」の存在が実際に政策的議論の俎上に乗った経緯については、「日経ビジネスオンライン」にて北村豊が日本語で報告 をしてくれている。各種の政策は、彼らを「地方に帰す」ということを主眼に置いている。
4環状線の外側に当たる北京の端っこは、そこかしこで再開発計画と立ち退き問題が起こっているようで、「蟻族」の解散を特に目的としたものかどうかは分からない。
また、中国は内陸部に向けた巨額の公共投資と内陸開発を同時期に進めており、「これからは故郷の近くにも仕事ができるからクニに帰れ」という言い分も一応は首尾一貫している。
しかしその言い分が完全に信用されるとは限らないのもまた当然である。こうした人々はどこの国でも出現しているのであり、何か「抜本的な対策」が存在するとは考えない方がいいだろう。
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中国でも大学を卒業しても就職できない人たちがたっくさんいるんだ。
蟻族の多くはインターネットの急速な発展とともに清張してきた80後世代であり、ネットを通じたコミュニケーションをよくやっている。
こういう連中が反日運動をしかけているのだろう。
インターネットの世界でバーチャルな空間だけに生活してることには進歩しない。
暇で、仕事もなくてネットばかりしているから反日運動で鬱憤晴らしをするのはやめてもらいたいものだ。
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急速な大学教育の大衆化によって、大学教育を受けながらも良い就職先が見つからず、不安定で薄給の仕事に従事しながら都市の底辺にルーム・シェアなどの形で寄り集まって生きる若者達を、著者は「蟻族」と命名する。そんな彼らの実態を探ろうというのが本書の目的だ。具体的には社会学的・心理学的アンケート調査の結果報告と、蟻族の若者それぞれの体験談が独立形式で10本ほど語られる。
かれらの体験談の中には苦境の若者をうまいこと使おうという「マルチ商法」のグループに監禁され、脱出した話が数度登場する。その他にも過酷な営業ノルマで精神をすり減らしていったり、友人と起業するも裏切られる、経済的な成功を収めた大学の旧友と疎遠になっていく、無気力な中でインターネットに没頭する、などその境遇は痛々しいものがある。一方で夢破れて田舎に帰ろうにも、田舎の父母(蟻族の両親は裕福でなく、社会的コネを持たない傾向がある)からすれば「大学に子供が進学した」「都会で子供が仕事をしている」こと自体が、風化しつつあるとはいえ未だひとつのステータスであり、自分自身のだけでなく親族一同のメンツもあって帰郷はなかなかかなわない。なにより田舎に帰るよりは、都会の底辺で住む方がまだ豊かになれる可能性があると彼らは考え、今日も先の知れない生活を続けていく。
もっとも、彼らは決して貧しく、人生の落とし穴にはまり込んだ怠惰な敗者ではない。少なくとも彼ら自身はそう信じており、社会の不平等への恨みと日々大きさを増していく虚無感を抱えていながら、成り上がる大きな夢を抱き、猛烈に努力を続ける人々も多く取り上げられている。急成長していく中国社会の片隅でコツコツと切磋琢磨し続ける彼らに、なにが結実することを同年齢の若者として願ってやまない。もっとも現実としてなにかを成し遂げられるのはごく少数であることは自明であり、社会の安定のためにも、もしも彼らが望むのならば、可能な限りの方策を実施するべきだろう。
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中国内では少子化で労働力不足といった報道もあるが、やはり勤務経験がある程度ないと採用試験されにくいか?新人を育てる教育システムを持つ企業は少ない?
2011年4月現在では蟻族が社会問題だと十分認識されたのか?認識された場合、何か政策や企業の方針に反映されたのか?
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「蟻族」とは、中国・北京郊外の「群居村」に居住する大卒者(多くは低収入)を指す。
こうした集団が存在することに、著者・廉思らが着目し、命名した。「蟻」と称したのは:
・知能指数が高い(大卒である)
・群居する
・弱小であるが軽視していると深刻な事件(蟻害を想起させるもの)を引き起こす
・勤勉である
などの特徴による。
「蟻族」を調査し、現代中国の問題を浮き彫りにした本書は、中国ではベストセラーになったという。
中国語の原著とは少々構成が変わっているそうだが、「蟻族」序論、概観、個々の事例といった構成になっている。事例部分は著者らの研究グループが「蟻族」の若者に聞き取った半生記が多い。
荒削りなエネルギーを感じる本である。その源は立場を異にする若者たちだ。
「蟻族」と著者らが呼ぶ若者たち、こうした若者たちを研究対象とした著者ら、そして本書を訳すのに携わった日本人若手研究者たち。
ごつごつした感じで、すんなりと意味がくみ取れない箇所もあるが、妙にエネルギッシュで不思議な魅力がある。
個人的には「蟻族」を統計的にまとめた概観より、個々の経験談が断然おもしろかった。インタビュアーの語りの部分と、本人たちの手記部分が入り交じって読みにくかったりする項もあるのだが、中国の若者はこんな風に暮らしているのか、こんなことを思っているのか等が垣間見えて、興味深かった。
潜入した研究グループが所場代を請求する「群居村」の「係員」と渡り合うシーンもあって、スリリングで生々しい。
「蟻族」の大多数は「八〇後」と呼ばれる世代であり、将来を嘱望されて大学に進んだけれど、思っていたような仕事に就けなかった若者たちである。
やはり就職に苦労する日本の若者たちとは共通点もあり、相違点もあり、という感じだが、両国の状況を知れば、互いにとってプラスになることも有るかもしれない。
*著者らが「蟻族」と呼ぶ若者たちが、それほど均質であるようには私には感じられなかった。収入も結構よい人もいるようだし。集団の特徴を表現するのって難しい。
*中国の方が日本より人間関係が濃い印象を受けた。
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蟻族。高学歴なのに、収入が少ない年代層についての記録。
中国の就職難は日本よりもっと壮絶なんだと思った。
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サブタイトルは「高学歴ワーキングプアたちの群れ」。前半までは日本社会にも当てはまるキーワードですが、最後の「群れ」の一語で、これが日本をテーマに書かれたものではないことが分かります。日本のフリーターやワーキングプアは、孤独に悩むことはあっても群れることはまずないでしょう。
この本は、中国の若者の今を伝えているものです。とは言え、日本語版が上梓されたのは2010年、現地での出版は2009年。変化の目まぐるしい中国のことなので、もしかしたら、この本に書かれていることは既にリアルではないのかもしれません。
本としては、序盤で中国でもいまや日本と同じように「大学を出たけれども希望した職に就けない」「やっと仕事にありついても、給料が一般的な人の半分ぐらいしかもらえない」という人たちが増えていることを指摘、その収入分布や大学の専攻などといった統計的なものを示したうえで、後半のほぼ半分の紙幅を割いて、それぞれの「蟻」たちのエピソードを紹介しています。
ちなみに「蟻族」とは著者のグループの造語。蟻のように勤勉で知能が高く、群れをつくって寄り集まって生活し、不屈の精神に満ちている、大卒で低所得の人たちの集団を指しています。
読み進めて分かるのは、同じワーキングプアという単語で括るのは難しいぐらい、日本と中国では性質が違うこと。
好い部分として、ここで紹介されている蟻たちは日本のワーキングプアに比べてバイタリティに溢れ、未来を夢見ていて将来を悲観していないように見えるところが挙げられます。逆に悪い意味としては、とにかく劣悪で不衛生な生活環境に置かれており、詐欺や汚職の被害に遭い、多くの理不尽や高圧的な公権力に抑圧されていること、などがあるでしょうか。
国が近代化するということは、大卒のホワイトカラーが激増し、肉体労働に従事するブルーカラーが減るということ。中国もそんな状況に直面し、結果、歯牙にもかからないような大卒の学生は社会から滑り落ちていっているのでしょう。
ただ、やはり日本と大きく違うのは、彼らに生命力があること。商機があればアフリカの砂漠の果てまで行って希少素材を漁り、その周囲に中華料理屋を作ってチャイナタウンを作ってしまうエネルギーがある以上、やっぱり中国に多少の分があるのかな、という印象は拭えませんでした。
政治や外交、防衛の問題だけを見ていると掴めなくなる中国の「中」のお話、読んでみる価値はあると思います。
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恐るべき社会学レポート。科挙の熾烈さは昔から知る所だが、それから「途中で」漏れた人々の行く末が一端がここに。これを学生が調査し日本人学生が翻訳したこともまた白眉。大卒者数、中国は600万人、日本は50万人(その内25%は不安定な就職)、偶然にも人口比と同程度の大学が中国にはでき、もう歪みが社会現象化している。日本と違うのは、蟻族には国家・一族・自身の将来を担う気概が残ってることか?(作者の書き方か、大言壮語の国民性からか…)
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高学歴ワーキングプアたちの群れ
「唐家嶺」「小月河」
保険会社のガゼル
保険会社の壁一面のポスター、ライオンとガゼルの話
ガゼルは一番足の速いライオンより速く走らなければ食べられてしまう、一方ライオンは一番足の遅いガゼルに追いつかなければ餓死してしまう。
なんと生きにくい社会なのだろうか・・・
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中国に居て、
ちょうど同僚の大半にあたる80后と呼ばれる1980年代生まれの考えの根底にあるものは、なんだろうと考えさせられることもあって、
この本を手にしてみた。
大卒高学歴でも就職先が思うように見つからない。
この状況は、日本でも同様だけれど、
国土の広さからいうと、各地から北京に上京してきた場合、
その競争率は、日本よりもものすごい倍率だと容易に想像しうる。
よりよい生活を目指しての気構えを感じ、
次々と転職していく状況も、納得がいく。
戸籍の問題も少し触れられていたけど、
これについては、まだ実際の仕組みは良く知らないけれど、
農村戸籍と都市戸籍?みたいな何かしらの区分があるらしきことや、
戸籍がない人がいたりするという事実があるらしきことは、
いろんなところで耳に入ってきたりもして、
日本の常識で考えると、よくわからない状況で、
以前、戸籍の問題で手続きがスムーズにいかなくて、、、という話を聞いたときに、なんのことやら??と思っていたのだけど、
なんか、そういう面でもスムーズにいかない部分があるらしい。
1999年に中国で出版されたこの本に記載された内容は、
事実の内の一部にすぎないとしても、
このような状況の若者の数はものすごい数なのだろうと想像される。
2012年も終わり2013年に突入した現在、状況は好転しているのだろうか?
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中国の高学歴ワーキングプアの話。労働市場と学歴での需要の不一致。日本も同じですよね。これは社会全体で調整しないと仕方ないよな。
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高学歴ワーキングプアを、社会的弱者として定義した本。前半は定義の整理で後半は実態レポートに徹する。80年代生まれとちょうど同世代に当たる人間としては、大学に行ったところで高収入にはなれないということ、地元では一番だった人間が都会に来て没楽していく様に違和感はなかったが、中国の場合、彼らは非常に野心的である点が異なる。彼らが日本に流入しないことを祈る。
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蟻族―高学歴ワーキングプアたちの群れ 単行本 – 2010/9/1
中国の大卒者事情
2012年1月27日記述
廉 思(リェン・スー)という中国人民大学大学院生らによって調査された現代中国におけるいわゆる高学歴ワーキングプアについて分析した本である。
2009年に中国で発行され大きな反響を呼び、日本でも出版される事になった。
また蟻族という言葉も流行語として広く認識されるようにもなった。
本書冒頭では中国の学校体制はどういった特徴を持っているのか?などについての解説がはじめにある。
そして問題についての分析がグラフやデータと共に続き、それぞれ取材した若者たちのミニストーリー、ルポが本書後半を占めるという作りになっている。
蟻族と命名された彼ら彼女らの集団はもともとは大卒低所得群居集団と呼ぶ予定ではあった。
しかし長すぎるなどの問題によって蟻族とされた。
(実態を正確に表現しているので大卒低所得群居集団でも個人的には良いと思うが・・)
80後(バーリンホウ)と呼ばれる1980年代生まれが主な世代となる。
彼らの世代は中国において大学の定員が大幅に拡大された事により学卒者の価値が下がった世代でもある。
*中国の新卒者数
2004年=280万人
2005年=338万人
2007年=485万人
2008年=599万人
2009年=650万人
上記のように大卒者が急増し続けていることもあって就職が思うようにいかなくなっているのが主な原因である。
これではいくら中国が好景気であっても就職難になるわけだ。
そして蟻族達は都市部と大学の近くにある群居村と呼ばれる安い賃貸料で入居できる部屋などを借りて生活している。
ただ単に実家に帰ったりしないあたりが他国との違いであろうか。
中国の今後の動きを把握していく上で彼ら蟻族の存在抜きには成り立たないことは確かだ。
中国の未来を考える上でも蟻族について知ることは有意義だろう。