紙の本
美を愛し美を追求し美を恐れ、そして美に支配された男・千利休の美学に迫る一冊。
2011/04/11 12:36
10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:惠。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルを見てまず思ったーー利休に何をたずねよというのか。
時代ものは苦手だ。だから本書も手元に届いてから読み始めるまでに随分と時間がかかった。利休という人物には興味がそそられるのだけれども、うーん、時代物かぁ…と、すんごく小さい悩みを抱えつつ、ついに勇気を振り絞って「えいやっ!」と読み始めた。
すると、あの悶々とした日々(注:小さな悩みのことです)は何だったのっというくらい読みやすかった。するりするりと引き込まれ、530ページをほぼ一気読みしてしまった。
まず、構成が巧い。物語は利休の最後の朝から始まる。茶人であるにも拘わらず天下人、秀吉より切腹を賜った利休は、怒りに満ちている。彼は秀吉に対して怒っているのだ。
美を愛し、美を恐れ、敬い、追究し続けた利休は、「無粋」な秀吉に頭を下げることよりも死を選んだ。利休は自身が愛した「美」というものにがんじがらめになっている。美に固執しなければ、自ら腹を割くこともなかったかもしれない。
では、利休がそこまで執着した「美」とは一体、何であろうか。それは、もちろん茶道である。茶道の世界が良しとする、侘び寂び、侘び数寄の精神である。そこに利休は己の美学を見出して確立した。しかしその美学の原点をもたらしたのは、なんと、女であった。利休が肌身離さず身に付けている緑釉の香合は、明らかに女もの。それを持っていた女と利休の間に一体何があったのだろうか。
切腹当日の利休視点で始まった物語は、章を追うごとに時を遡っていく。視点も利休だけでなく、妻である宗恩、家安、秀吉、三成、信長、弟子と各章ごとに入れ替わる。この手法が実に巧みである。この構成はあまり見ないカタチではないだろうか。
物語の最終章は、もう一度、切腹の朝に戻る。しかしここでの語り部は利休ではなく、その妻の宗恩だ。彼女は最初の章で利休にこう尋ねている。
「あなた様には、ずっと想い女がございましたね」
その会話を受けて、彼女には思うところがある。その宗恩の気持ちに妙に共感してしまった。利休が心の中で想い続けているのは、あの緑釉の香合を利休にくれてやった女だ、宗恩はそう確信している。
宗恩が惚れたのは、己の美学を貫く利休に他ならない。美を愛し、美を恐れ、美を追求した男、利休。しかし利休は、美に支配された男でもあった。そしてその美学の原点ともいうべきものを利休にもたらしたのはおそらく、あの緑釉の香合を利休にくれてやった女だ。つまり、利休を支配しているの現実に今利休の側にいる宗恩ではなく、どこかにいる「あの女」なのだ。
しかし利休がその女に出会わなければ、宗恩が利休に惚れることもなかったかもしれない。宗恩が愛したのは、美と、それを利休にもたらした女に支配された利休であるという連鎖は、なんというか、皮肉で哀しい。そしてたぶん、口惜しい。
利休の立場で読むのと、宗恩の立場で読むのと、また違うなぁと感想を書きながら改めて思った。
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現在から過去に遡っていくというアイデアが斬新だ。
利休というを始め、秀吉もよく人物が描かれている。
また最高のミステリーにもなっている。
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利休の気持ちに入り込める面白い作品だった。
周囲の人間からみた利休、秀吉もわかるストーリー展開。
ただ、切腹当日の気になる話からどんどんと時の川を遡るのがもどかしくもあり。
宗恩の人柄が気になる
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ものすごく読み応えがあった。絶対的な審美眼ってすごい!
利休のイメージがガラリと変わった。
茶の湯や茶道具なんてぜんぜん知らなかったけど興味を持ちはじめた。やってみようかな。美意識が培われるかしら。
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2010 10/24読了。WonderGooで購入。
ハードカバー時から気にかかっていたが、ハードカバーゆえに手が出せずにいた本。文庫化したのを見つけたので即買い。
千利休の切腹を起点に、利休をとりまく人々、ときに利休本人の視点から細かい挿話をどんどんつなげていく形式。
一部を除いて一章が三節構成で、各章もそう長くはないのでどこでも手を休められるはずなのに、読み始めたらほとんど休まずいっきに読んでしまった。読みやすい(『へうげもの』で(相当ねじ曲がってはいても)出てくる人物と史実の多くを事前に予習(?)していたので登場人物理解が早い、とかいうこともあるかもだけど・・・)。
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利休切腹の日から、過去へ遡っていくことで紐解かれる謎。ゆるゆると解けていく様が心地よい本でした。
人の欲とは醜く、かくもこんなに美しい。
欲があってこそ、利休は美を極められたのだろう。
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マンガ「へうげもの」で千利休に興味を持って本書を手にしたので、登場人物も人間関係も良く分かっていたのでかなり読みやすかったとは思うのですが、それにしても面白い!
そして描かれている茶碗、茶道具、食べ物、菓子、茶室…その表現が生き生きと美しく、まるで自分がそこに招かれ、自分の目の前に茶や菓子が出されているようです。
一度だけ茶室でお茶を頂いたことがあるのですが、その時の情景が甦るようでした。
「美」をひたすらに追求する千利休の姿が印象的でした。
利休の恋という切り口も面白かったです。
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火天の城、一心虎徹を読んで山本さんのファンになったが、この本は本当に読んで良かった。夏目漱石のこころ以来かも。
構成の目新しさは勿論、利休と彼を取り巻く人達の人間味がリアル。利休の茶の湯に対する価値観の確立も、なるほどという感じ。
文章は過去に振り返って行くが、物語は流れるように展開。もう一度よみたい本です。
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とにかく面白かった。
読み始めたら、もの凄い力によって、
物語の世界に惹き込まれていき、あちらこちらへ引っ張りまわされた。
良い意味で「作品に振り回される感覚」を味わわせてくれた作品。
このレビューを書いている現在は10月末で、
まだ今年は終わっていないが、
「2010年に出会った本で一番面白かった本」には、
ぜひこれを選びたい。
利休の死の理由は、諸説あり謎に包まれている。
大徳寺の山門に履物を履いた利休の木像が置かれたからだとか、
娘を秀吉の側室に差し出さなかったからだとか。
物語は、利休が太閤秀吉より死を賜った朝から始まる。
利休はなぜ死ななくてはならなかったのか。
その謎を解くべく、読者は時の川を渡りながら利休の人生を旅し、
自分なりの結論を見つけていかなくてはならない。
まるで、推理小説で探偵が殺人事件のを真相を見つけ出すために、
容疑者や関係者の証言を集めていくような感じで、
利休に縁の合った人物達の視点で描かれた短い話が、
一話一話と紡がれていく。
物語を読み進めるにつれ、自分をこの物語の中に引っ張り込んだ
「もの凄い力」とは、美を追求し続け、
ついにその頂点にまで登り詰めた利休の鋭過ぎる生きざまと、
まるでその場にいたかのように、利休と登場人物達の心情を
書き綴った筆者の筆の力なのではないかと思わされた。
もしかしたら、この謎は最後まで解き明かされる事はないのかもしれない。
しかし、だからといって私達読者が悲しむ必要は全くない。
物語のラストは、この物語の世界を、
とことん彷徨い歩いた読者の心にのみ響くであろう、
心に残る、哀しいけれど美しい場面だ。
その人物の取った行動が、
利休を愛し、彼の心を理解した者の役割としてふさわしいが、
愛したがゆえに背負わされた切なさや苦しさが滲み出るものだった。
彼女がそうする事で、美の追求者であった利休の人生、
その物語を誰の手によって穢される事なく終える事が出来たのだと
私は思う。
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おもしろい。筋はそれほど凝った話ではないが、時間を逆行していく手法、様々な歴史的人物からの逸話のオムニバス形式。やりますなあ。要は利休が19歳のときに恋い焦がれた高麗女性を殺してしまった無念が彼の芸術を作り上げたんだという話。女性の形見も巡って秀吉等と絡めていく。知っている史実、知らなかった史実のオンパレード。これぞ直木賞作品です。
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直木賞を受賞し、あらすじを聞いたときから
ずっと読みたいと思っていた作品。
読み終わって思うのは、
「利休にたずねよ」というタイトルには、「美しいもののことは、」という枕詞が付くのかなということ。
寂とした異界に通じた茶の湯に、命をかけた男の死後、
この世にはどれほどの美しいものが
残ったんでしょうか。
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千利休が追求した茶の湯。
時の権力者「豊臣秀吉」に対してすら折れることのなかった彼の真意は、緑釉(りょくゆう)の壺に秘密があった。
なぜ、利休は「美」に対して異常なまでに執着するのかを、彼の切腹の時からさかのぼって読ませてくれる良作。
情景・美への表現が素晴らしい。
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筆者がわざとそうしているのか分からないが、最後まで主人公である利休に感情移入出来ないため、少々、とっつきにくい作品となっている。利休よりも利休のあり様で利休を責める武将の心情の方が分かりやすい。そのわからなさが利休が死を賜った理由であるとするのであれば、表現として実に成功している作品である。解説でも記載されているが、利休の人生を、その終わりに遡るという記憶のありようを小説とするのは実に大変であろうと思われ、その点では実に意欲的な作品である。直木賞むべなるかなと思うが、その視点が、多岐にわたり過ぎるのがどうかなとは思う。秀吉と宋恩の視点だけでが語りきれないのだろうが、普通の小説であっても十分に面白かっただろうにと思う。
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切腹の場面から遡る構成のおかげで、最初からうまく物語に引き込まれていった。
時の権力者が秀吉で無ければ、美の求道者として静かに自らの道を歩み続けられたのかもしれない。
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茶の湯の深さ、人間(特に男性)の業の深さを思い知る一冊。芥川龍之介の『地獄変』もそうだが、視覚に拘る男性は美や芸術に対して偏執的になる傾向があるのだろう。物を愛でるような女性への偏執ぶりに気持ちが悪くなることこの上なし。いずれ我が身をも滅ぼす美への依存。ある意味ホラー。そういえば表紙もホラーっぽい。