紙の本
訴訟の心理・行動と脳の関係。わかりやすくて深い解説は人間の心理・行動の原点を鋭く考察し、弱点をも指摘する。
2011/01/20 16:57
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
脳を研究している池谷さんはこれまでも最先端の脳研究の知見を身近に感じさせてくれる本を書いておられますが、今回は弁護士さんとの対談です。裁判・法律は科学研究とはほど遠い感じもあります。でも「争うこと、折り合いをつけること」と考えると社会心理や認知機構などを介して脳の活動研究と深くつながっている。池谷さんの解説は今回もわかりやすいけれど深く、とても刺激的でした。
弁護士の鈴木さんが提示する「裁判で遭遇する人間行動の現象」を池谷さんが脳科学の言葉で裏付ける、というのが本書の対談の流れです。
まずは鈴木さんが「ここまではっきり言いますか」と思うぐらいに裁判を表現しているのにちょっと驚きました。曰く「裁判は良い具合に怒りをあおる構造になっている。」「法は村の掟でしかない。」「つまるところ裁判官がどう思ったかということでしかないんです。・・しかし、社会一般の経験則と裁判官の認識している経験則とが一緒かどうかはわからない。」などなど。
池谷さんの脳機能の説明もとても明快です。例えば「脳に善悪はなく、快不快があるだけ」。そこから「訴訟は嫌なことをつつきまわすのだからそれだけでどちらも不快。納得して和解するのは嫌な訴訟の経験が終了することだけでも快と思うことができる。」というように話がまた訴訟にもどります。鈴木さんは「できれば訴訟でなく和解」を勧める主義だそうですが、その理由はこんな脳機能の理解とつながっているのです。
それでも人間は自分が正しいと言ってしまうと「言ったから」と固執してしまうところもあります。「自分だけ不快なのよりは相手にも不快感を感じさせるほうがまだ良い」という「相対的快」で訴訟に踏み切る場合もあるなど、実際どう行動するかは単純ではありません。「情」が走ってもだめ、「理詰め」に走ってもダメ。池谷さんの言葉を借りれば、人間の脳は「不必要に複雑」になっているのかもしれません。
「犯行の責任」があるかどうかで「自由意思」についても語られています。最近のニュースでは無差別殺人などの弁護で精神鑑定がされたりしていますが、本書中では脳研究ではかなり話題になった「リベットの実験」をひきあいに出して「自由意思はないんだから罪はない」と言う弁護が実際にアメリカの裁判であった、という話が載っていました。その裁判の結末は・・どうぞ本書をお読みください。「(犯行の)記憶がない」というのは「反抗した自覚がない」のか、「記憶が後で消えたのか」はわからない。こういう判別の難しさも考えなくてはいけない要因です。
社会的生き物である限り、他者と接触してなにかが起こる。争うことは、次の段階でもっと良い関係を創るために通過しなければならない現象だといえるかもしれません。鈴木さんの「裁判は過去に拘泥する作業。和解はこれからどうするか、の未来の作業」という言葉はとても示唆に富んだ指摘に聞こえました。
人間の脳には「嬉しそうな状況を見るだけで嬉しくなる」という性質(ミラーニューロンの性質といわれている)もあります。そういったところを上手く生かすようにしていくことが大事なのではないでしょうか。
「ヒトも生き物」という観点から社会的な現象を考察していくことも大事という考えは随分広まってきたと思います。まだまだ「大胆予測」でしかない部分も多いようですが、「そう考えると理解できる」部分も増えてきています。脳の発達した生き物としての人間が無理のない形で社会生活を心地よく送るためには、脳の機能を良いところも悪いところも理解していく必要があるでしょう。この対談のような形で、本質につながる実際的な話をこれからももっと読ませてもらいたいと思います。
投稿元:
レビューを見る
脳(海馬)を研究している池谷裕二さんの最新の研究結果の具体的な話がいつも通りとっても面白い! 例えばアルティマ•ゲームとか。
で、この対談の行き着く先は「情けは人の為ならず。(巡りめぐって自分の為)」!?
投稿元:
レビューを見る
あとがきを読みながら、ちょっと泣きそうになった。
知的快感がじわじわ押し寄せ、知識欲と好奇心がふくふく満たされる。
「人間である前に生物である。」
「まず身体ありきで、脳はその後付けにすぎない」
池谷さんの著書ではおなじみのことながら、「脳を研究されている方」から発せられるその言葉は、とても潔く、またとても興味深い。
弁護士でありながら、出来るだけ裁判には持ち込まずなんとか和解させたい、という鈴木仁志さんのことももっと色々知りたくなった。
投稿元:
レビューを見る
新刊コーナーで発見。タイトルに引かれて借りてみた。
脳の研究者と、弁護士の対談形式で話が進んでいく。
対談形式のよいところは読みやすいところ。
興味は割りとある分野だったけど、そこまでおもしろいなと思えなかった。
何でだろう。
内容が難しすぎるというわけでもないし。
ところどころ興味深いエピソードはあったけれど、章をとおして伝えたいこと、目的がいまいち明確に感じられなかったことが原因かな?
●気に入ったところ。
・多様性には diversity と variety がある。
ポジティブな多様性が diversity。一見ランダムだけど有機的つながりがある。
バラバラの variety。根本からランダム。つながりがない。
・睡眠薬のプラセボ実験。
A群:「睡眠薬だが副作用にリラックス効果がある」と説明。
B群:「睡眠薬だがどきどきする副作用がある」と説明。
結果、B群のほうが早く眠れる。
なぜか、不眠症の症状であるどきどきを、薬のせいと思うことで眠れる。
投稿元:
レビューを見る
脳科学者と法律家の対談。頭に血が登っている状態で正論を言わないことやまずは信頼関係を築くことなど,いかにして和解に持っていくかという話が興味深かった。
投稿元:
レビューを見る
新年初読了した本が、「和解」の本だったというのもなかなかいいのでは。
とてもおもしろく読めた。
特に、「ダイバーシティ」と「バラエティ」の違いとか、「コンプレックス」と「コンプリケーテッド」の違いを、初めて知った。
投稿元:
レビューを見る
脳科学者と弁護士との対談。ヒトは客観的思考を獲得するコトによって有限、無限の概念を生み出してしまった。有限であるからこそ『私有』『権利』『争い』も必然的に発生したと語られます。特に、「客観性の概念こそ人たる証。しかし客観できる故に有限を知り、権利を言い出し、争いへと繋がる。」というくだりに惹かれます。人が人になった瞬間、争いは避けられないものになったのかもしれないなあ。
投稿元:
レビューを見る
読売新聞2011.01.31夕。
《争いたがるのが脳ならば、和解したがるのも脳。(中略)気鋭の脳研究者と紛争解決専門の弁護士との希望あふれる対話。》
投稿元:
レビューを見る
理が異常に発達した今だからこそ、本能的なことと素直に向かい合い、例えば自分や他人が行う感情的なこともまず受け入れることが大切。それは健康的なことだとも言える。
投稿元:
レビューを見る
3歳児はかくれんぼができない
diversity/variety
complex/complicated
不安を感じる扁桃体 攻撃性のPAG
検証 verify 確証 confirm
作話するときの脳のOFC(眼窩前頭皮質)の活動が低下
投稿元:
レビューを見る
脳科学を、エビデンスベースでしかもわかりやすく書籍にしているのは、池谷裕二さんだと思う。
「和解」は困難を伴うことが多いけれど、人の脳はそれに「快感」を覚える仕組みになっている、ことがほっとさせられた。
★印象的な言葉★
「ひらめき」inspirationと「直感」intuitionは、脳科学的には全く別物、「理」と「情」にかなり近い対立関係にある
投稿元:
レビューを見る
帰納と演繹、相対的快、好きか嫌いかの判断、「理」を最初に言わない、についてが、なるほどと思わされ面白かった。
投稿元:
レビューを見る
ADR(裁判外紛争解決)も専門の弁護士との対談で、脳科学の実験を紹介しながら話を進めていく形式で、どうも話題がとびとびで散漫になっている印象を受けた。ただ、法律の実務的な分野は神経経済学等でもっと分析が行われるべきところだろうし、そのきっかけとなるであろう書としては評価されるべきだと思う。神経科学の部分でちょっと過剰に期待しすぎたので、評価を低めにしてしまった。
投稿元:
レビューを見る
難しいけどオモシロいです。脳の判断基準に善い悪いはなく、快・不快、好き嫌いでしかない。あいつは善いやつは、正しくはあいつが好き。勝手に学校を休んだ学生は悪い学生だとしかるセンセイの脳は、正しくは勝手に学校を休む学生は嫌い…難しいけど一番理解したいのは、フリーウォント、それをしたいけど、自らしなかった。自由否定。自由意思フリーウィルは存在しないが、フリーウォントは存在する。混乱しますが、フリーウォントが存在することで、まあるくおさまりみんなが快を得られる!
投稿元:
レビューを見る
池谷さんの本は、本当に面白い!
今回一番ツボだったのは、「自由意志(フリー・ウィル)はないが、自由否定(フリー・ウォント、Free won't)は存在する」というところ。
これがもしかしたら、HSYQの練習においてとても重要なことをいっているようにも感じる。
あくまで空想ですが(笑)。